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聖乙女生まれる5

 入学試験のため学園の門を叩いたわけなのだが、どういうわけか私一人しかいない。 日にちを間違えたのかとも思ったが、聖王様が立ってこちらに手招きをされていることからそうではないことが分かる。 忙しいのではないのかあなたは…。 にこやかな笑顔に癒されながらも私は聖王様に手を引かれて学園の中へと入った。 母とはしばらくお別れである。 涙ぐむ母は手を振ってくれた。 私も振り返す


「ではリィリアちゃんや、少しの間この部屋で待っていてくれるかな」


 聖王様は私を小さな部屋へと通した。 装飾は少なく、机やいすもごく一般家庭にある普通のものばかり。 中央にある机の上には紙が一枚裏返しで置かれていた


 それからしばらくすると聖王様が戻られた。 手に筆記用具を持っていた


「すまないねぇ、ペンを忘れていたよ。 いやはや、覚えておくのは得意なのだがね、たまにこうして変なミスをしてしまうのだよ」


 茶目っ気たっぷりに笑う聖王様はどうやら私を和ませようとしてくれたらしい。 本当にお優しい方だ


「それではこの紙に必要事項をかいてもらえるかな? それと、一応後で入学試験をしてもらわないとねぇ。 女神さまが君を守ってくれているとはいえ、信じる者はもうこの国にもあまりいないのでね」


 そう、それがこの国の抱える問題でもある。 加護や神力をその身に体現しているというのに、神を信じる者が少なくなってきているのだ。 その一因は女神の力が落ちていることとは別に、もう一つの理由がある。 それは他国の魔術という技術だ。 こちらはその名の通り魔の力を借りて神の奇跡に似た効果を発するというものだ。 しかしそれは女神の加護や神力よりも強力なものが多い。


 魔の力を借りるということは悪魔の力を借りると思われがちだが一概にそうとも言えないのがこの力の厄介なところである。 確かに悪魔は危険で人を惑わしその魂を喰らう存在である。 だが、天魔、浄魔、魔鬼、天使、精霊、聖霊など人間に友好的な存在もいる。 彼らは体を持たず、契約によってその力を貸し与えるそうだ。 天魔などならば代償もたかが知れており、おかしやご飯、遊びに付き合うくらいでその力を貸してくれるそうなのだが、悪魔は違う。 絶大な力を与える対価としてその魂を要求するのだ。 かつてそのせいで一国とその周辺三国が滅んだことがあると歴史書に書かれていた。 悪魔との契約はそれだけで危険を伴うものなのだ。 だがそれをわからぬ愚か者や騙されて契約してしまう者がいる。 聖王様はそれを嘆いているのだ


「つまり、私の力を皆さんの前で見せればいいのですね?」


「そうだよ。 リィリアちゃんは賢いね」


 本当の孫のように聖王様は私の頭を撫でてくれた。 それから記入を終えると聖王様がカップを取り出し紅茶を入れてくれた。 香りはアッサムに似ているだろうか? 母がよく入れてくれる紅茶とはまた違ったいい香りだ


「それを飲み終えたら行こうかね。 緊張するかもしれないが大丈夫、 先生たちはみんな優しいからね」


 緊張は別にしていないが、熱々の紅茶を必死ですすっている姿がそう映ったのかもしれない。 ストレートで少しすすった後に少しの砂糖と大量のミルクを入れて一気に飲み下した


「慌てなくても大丈夫だよ。 ゆっくりするといいよ」


「大丈夫です! 私、行きます!」


「そうかいそうかい」


 相変わらずニコニコと私に笑顔を向ける聖王様について部屋を出、試験会場へと向かった。 学園の中庭を通ってしばらく進む。 ところどころに上級生や私より少し上と思われる少年少女が歩いていた。 少し上と言ったのは、私は歴代最年少でこの学園に入ったからである。 中庭を抜けると別の建物が見えてきた。 これはまるで、小学校の体育館のようだな


「ここが試験会場だよ。 先生たちももう来ているだろう」


 中に入るとこの学園の先生と思われる人物が勢ぞろいしていた。 聖王様が全員そろっているなと言っていたのでここにいるのが全員で間違いないのだろう


「ではこれより入学試験を始める。 リィリア、君はこの学園に中途入学となるゆえに一人での試験となるが、大丈夫かな?」


 優しく私にそう言ったのは眼鏡をかけたこの学園の責任者で学園長の、エドリン・バイザイトと言う中年の男性。 眼鏡がよく似合ったナイスミドルと言った感じだな。 それにスーツもよくなじんでいる。 いまだに女性にモテるのではないだろうか? その横にはほうれい線が少し刻まれた女性、小柄で目つきが鋭いが、こちらに笑顔を向けてくれていることから子供好きなのだとわかる。 彼女は副長のラーノ・アイセンというらしい。 この二人は人間族なのだが、他の先生方には多種族もいるようだ。 例えば獣人族。 人間族の次に多い種族だそうだ。 ふけることのないエルフ族、マジックアイテムや建築、様々な技術を持つドワーフ族、よく見ると小人族と思われる女性までいた


「リィリア・ロマネル、五歳です。 よろしくお願いしまう」


 ふむ、この体だと舌がうまく回らず噛んでしまったな。 まあ先生方は気にも留めていないようだし続けるとするか


「君の力は何かな?」


「はい、破壊と再生です」


 それは女神が自分の持てる全ての力を私に与えた結果だった。 私はこれを“悪魔の右手、天使の左手”と名付けた。 その名の通り右手で破壊を、左手で再生を行うことができるのだ

 

 私が能力を告げた瞬間先生方はざわついた。 確かにここ数年治療能力者は出てきていない。 再生の力は珍しいと言えよう。 だがそれ以上に破壊の力に驚かれたのだ。 今日まで数十年、攻撃に使えるような能力者はいないのだった。 確かに母の持つトーチの能力は攻撃に使えるかもしれないが、どちらかと言えば体を温めるのが精々である。 そう、私の破壊の力はそれだけ異質なのだ


「オホン、では力を見せてくれるかな?」


 先生の一人が魔術で岩を召喚した。 この国にも一応魔術はあるようだ。 当然契約しているのは女神の眷属である精霊などだ


「では行きます」


 私は手を岩に添えると力を開放した。 直後岩は粉々に砕け散った


「なんと、この歳でこうもやすやすと力を使いこなすとは、将来有望ですね」


 先生方は私の力を恐れない。 なぜなら女神の力であるとわかっているからだ。 女神さまが与える力に悪い力はないとの教えがあるからだ


「ではもう一つの再生の力も見せてもらえるかい?」


「はい!」


「ではライラ、入ってきなさい」


 扉が開き、一人の少女が入って来た。 年のころは私より二歳ほど上だろう。 金の髪の毛で顔の左半分を隠したおとなしそうな少女である。 ライラはその髪を掻き上げて私に見せた


 ひどいものだった。 焼けただれケロイドとなった皮膚にぽっかりと穴倉になっている左目、その上から何かに引っかかれたような深い傷が刻まれている。 先生の説明によると、彼女は一年ほど前に街道で魔物に襲われてこのような姿になったそうだ。 その時かばってくれた父親は魔物によって殺されている。 母親は幸いにも軽傷で済んだ


 少女は私に近づくと跪いて頭を向けた。 見れば見るほどひどい傷だ。 私は左手をその少女の傷にかざし、力を開放した

 すると一瞬でその傷はふさがっていき、さらには失ったはずの左目までをも再生させた


「み、見える。 目が見える! 私の目が! 先生! 見えます!」


 ライラは何度も確認するように傷のあった顔を触る。 目を開いて閉じてを繰り返し、手をかざして見えることを確認する。 そして涙を流して喜んだ


「素晴らしい。 これこそ女神さまの奇跡だ」


 学園長がそう言ったことで周りの先生方も一斉に私に向かってお祈りを始めた。 少し混乱したが、彼らの信仰心が女神に注がれていくのが分かり、されるがままとした

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