蠢くは悪の意思1
「此度も有意義な時間を過ごせることを願い、ここに勇者会議の開催を宣言する」
マジックウィンドウというマジックアイテムによって空中に映像が映し出され、そこにこの会議を仕切るビアルゴ・メイシアードという竜人族の男性。 そして最年長の勇者である彼が高らかに勇者会議の開催を宣言した
彼は“勝利の勇者”と呼ばれ、完全無敗という偉業を成し遂げ続けている最強の勇者。 その力は“天鱗”。 これを発動すると一定時間全魔法の無効化と身体能力の大幅向上を得れる
だが、そんな彼をもってしてもいまだ魔王の居場所を掴めずにいるようだ
年に一度開かれる勇者会議では世界中から多くの勇者が集まり、一週間という期間を用して魔物対策や世界の動向について話し合う
勇者は国に一人というわけではない。 ティライミスのような小国では一人の場合も多いが、一般的に女神から認められ、天啓のあったものが勇者となる
彼らは誰もが人格者であり、圧倒的な強さを秘めている
そんな勇者たちの会議が開始され、一人の新人勇者である少女は戸惑っていた
「先輩、わ、私、どうすればいいんでしょう?」
「気負うことはないわナリヤ、どんと構えて新しい勇者だって胸を張りなさい」
少女勇者の名はナリヤ・フランベルク。 どんなものでも斬り裂く絶対的な攻撃、“切断”の神力を持った新人の勇者だ
その横に並び立つのはエリミーナ・クロウディアス。 大いなる自然の守り手である精霊を召喚できる“精霊召喚”の神力を持った聖女である
「ではここで新たに勇者となった者たちの紹介をしておこう」
ビアルゴは声高らかに女神が新たに選んだ勇者を自分の横に立たせて名前を紹介していった
「まずはニチリン国から“深緑の勇者”アズミ・キシノハ、“金月の勇者”イダチ・カムロミ」
ニチリン国は遠い遠い昔に異世界より現れた英雄が建国した島国である。 ところどころに和をあしらったその国には武人が多く、刀という武器で戦う
同じく武人の多い種族の鬼人族が多く住まう土地でもある
そんなニチリン国から選ばれたのが“吸収”の神力を持ったアズミという鬼人族の少女勇者と、“月光”という神力を持ったイダチという人間族の少年勇者だ
アズミの“吸収”という力は敵の仕掛ける魔法や魔力で操る攻撃を取り込み、それを糧と出来る力。 力ならばどんな力でも取り込めるが制限があり、自分の最大魔力量を超えると暴発してしまう。 さらに物理攻撃には対応できない
イダチの“月光”は自分の力を仲間に与えることで仲間の力を大幅に上げる力。 魔力量が多いほど与える力は多くなるが、自分の魔力が無くなればその効果も切れる
この二人は徹底的なサポートに適した勇者であるため、他の勇者と共に行動するようだ
「続いてエンダール王国より“業炎の勇者”ザルツ・エデニハ。 “白雪の勇者”セラ・ヒアメア。 “暴風の勇者”リアリア・ハルコベラ。 “硬土の勇者”ドルク・デリンジャー」
エンダール王国
そこはドワーフ族などが多く住む国なのだが、商業の盛んな国なので様々な人種が入り乱れている
ザルツというドワーフの男性勇者は“火炎”を自在に操り、それを斧にまとわせて敵を切る豪快な勇者だ
一方のセラはおしとやかな雪女族の勇者。 雪女族とは妖怪族という大きな種族の中に属する妖術を操る種族で、彼女は女性しか生まれない特殊な種族だ。 異種族と交わり子供を成すが、生まれてくる子は全て雪女となる
そんな彼女の力は“氷雪”。 文字通り氷雪を操る力だ
暴風の勇者リアリアは翼人族の女性で、切り裂く風を纏う“斬風”の力を持つ
性格は楽天家で、どこかの誰かとどことなく似ている
最後にザルツと同じくドワーフの男性のドルク。 彼は寡黙にして冷静。 “岩土”の力で驚異的な防御力を誇ると共に、土操作によって敵を圧殺する非情さも持ち合わせている
その後も幾人かの勇者の名前が呼ばれたのだが、そこにひときわ目を引く美しい少女がいた
それもそのはずで、彼女は帝国の女帝ロクサーナの妹、フロレシア・デトロライトその人であった
彼女の力は“友愛”。 一戦交え勝利すれば、どんな者とも友に成れるというもの
その力で彼女は新人ながらもすでに数多くの人々を救っている
当然自身の地力も相当なものである。 でなければその力を発揮することなどできないので当然だろう
「そして最後にティライミス聖国より“閃光の勇者”ナリヤ・フランベルク」
自分の名前を呼ばれたナリヤは先の勇者たちと同じように前に出てお辞儀をした
「以上12名の勇者が今回新たに選出された。 これで世界の勇者は現在ここにいない者も含めて384名となった。 各勇者とも人々のために、世界平和のために。 また、亡き先代勇者たちの意思を継ぎ日々精進するように」
ビアルゴはそう締めくくるとマジックウィンドウのスイッチを切った
その目が新人勇者たちに降り注ぐ
「君たち、そう委縮しないでくれ、俺は君たちと同じ立場の人間だ。 ここに優劣などない」
その言葉で少し緊張がほぐれた
彼は優しく微笑むと新人たちに席に着くよう促した
これから一週間、休憩を挟みつつこれからの魔王、魔人、魔物対策についての会議、その他活動報告や状況報告が行われる
ナリヤもその一端を担うため手元に昨晩まとめておいた資料を置く
緊張はしていたが、ビアルゴは周囲を和ませる才もあるようで、皆一気に打ち解けて話すことができた