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聖乙女生まれる46

 尾針を数本手に入れて村へ帰ると、ベンズさんがすぐに出迎えてくれた

 彼に尾針を見せるとそれはもう驚き、喜んでいた


「ありがとうございます! これでこの麻酔を待ってる治療院に届けることができます。 まぁその前に加工しなければなりませんがね。 それで、ナグはどうです? やはり傷つきましたか…?」


「いえ、ナグはワイバーンの群れに襲われていたので救出したところ、尾針を差し出してくれました。 非常にいい子でしたね」


「ワ、ワイバーンの群れですか!? 確かにこの辺りにもワイバーンは出現しますが、群れでいるというのは聞いたことがありません。 もしかして、リーダーが出たのですか?」


「そうなんです。 群れはリーダーが率いていました」


「なるほど、それならナグが襲われるのも納得がいきます」


 詳細を説明して尾針を渡し、これで最後の依頼の達成となった


「本当にありがとうございました。 よろしければカブンのジュースやお菓子でも食べて行きませんか? 実はこの村、私の出身地でして、両親がカブン農家を営んでいるんですよ」


 それは願ってもない報酬だ。 カブンを一度食べてから私はこの果実のとりこになっている

 家ではよく母が出していてくれたものだ

 

 村で一番大きな家、そこがベンズさんの家なのだという

 そこではたくさんの村人が作業をしており、木

になるカブンの収穫をしていた


「いい香りですね」


 柑橘系の甘酸っぱい香りが鼻をつき、ふんわりとした気持ちにさせてくれる


「聖女様、こちらをどうぞ」


 村人の女性が私達にカブンのジュースを持ってきてくれた。 当然果汁100パーセントというやつである

 しぼりたてらしく、芳醇な香りが辺りを覆った


「ありがとうございます」


 一人一つずつ持って飲んでみると、意外と冷えていた


「冷たいですね。 どうやって冷やしてるんですか?」


 聞いてみるとどうやら氷魔法を使える村人がいるらしく、直前に冷やしてくれたそうだ

 魔法を扱える村人というのも珍しいが、国営の無料学校が街にならあるのでそこに通っていたのだろう

 この国営学校は、子供達が最低限の知識と魔法、体術やその他武器術などを学べる場である

 今の聖王様になってから始まったものだが、これのおかげでこの国の識字率は飛躍的に高まったと言える、と、新聞に書いてあった

 ともかく、今はカブンジュースがうまい

 そして目の前に運ばれてくるスイーツの数々

 タルトにケーキ、ゼリーに砂糖漬け、そして丸々そのままのカブン

 様々ある中で私が一番気に入ったのがタルトだ。 これはクリームチーズのようなものが使われており、カブンの甘さと相まって優しい味わいとカブンの香りを存分に楽しめるようになっていた


「美味しいですよ! セリセリが今まで食べた中で一番、いえ、お母さんの料理には負けますけどね!」


 そう言えばセリセリの家は食堂を営んでいたな。 何度か行ったことがあるがあそこも料理が非常にうまかった。 また行きたくなったな

 たくさんのスイーツを食べ、大満足の私達は一路帰路に就く。 その際麻痺解除のポーションを返そうとしたが、ベンズさんは首を横に振ってそのまま私の手をそっと押し返した


「いずれ必要になるかもしれません。 聖女様たちはいつも最前線で戦っておられます。 そのくらいの支援はさせてください」


「ありがとう、ございます。 またお会いしましょうベンズさん」


 年一回の聖女集会というものがある。 その時は全ての聖女、ハイプリエステス、リカバリーズ、その他教会関係者が集合する。 その集会の開催も近いのでその時また会えるだろう


「はい、それではまた」


 ベンズさんが手を振り、私達は二週間をかけて馬車で首都ティライミスへと戻った

 空を飛ばなかったのはしばしの休息のためと景色を楽しむためである

 そしてティライミスの入り口に立つ


「連絡をもらって慌ててきたわ、リィリアちゃん」


 そこには父と母が立っていた。 その横にはセリセリ、ライラの両親がいた

 それぞれで家族の元へ戻り、抱きしめられる

 アエトはそんな様子を羨ましそうに眺めていた。 だから、私はアエトを呼んだ


「あなたがアエトちゃんね。 リィリアちゃんに連絡をもらってね、あなたもうちの子になりなさいな」


 それを聞いてアエトはキョトンとしている。 突然のことで頭がついて行かないようだ


「大丈夫、もう一人子供が増えるくらいどうってことないさ」


 父も受け入れてくれるみたいだ

 アエトを見ると、涙を流していた


「う、うぅ、私、お父さんもお母さんも死んじゃって、ずっと、ずっと一人で、グスッ、それに、私は魔人で、人間にもいっぱい迷惑かけて、そんな私が、ヒグッ、いいんでしょうか?」


 もちろん答えは決まっている

 私たち家族は彼女をもう一人の家族として受け入れた


 それから数ヵ月、旅の疲れを癒した私は聖王様から直接依頼を受けて、各地に赴いては解決していった

 アエトも張り切っており、彼女の友達魔物も増えた

 それぞれがかなり力をつけてきている

 その頃から私達は聖女とは違う聖乙女と呼ばれ始めていた

 どこからともなく現れ、人々を救う乙女たちという意味が込められているらしい

 その名前に恥じぬよう努めて行こうと思う

 

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