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聖乙女生まれる43

「まずカツオノエボシ、お前の名前を教えろ」


 さっきからチョイチョイ出て来る貝類や環形動物の名前が気になるが、私は一応この世界に生まれてからのことを話した

 だが、転生したことと女神様が憑いていることは黙っておいた


「なるほどっと。 てかジャンボタニシ、お前まだ隠してることあんだろ? まぁそっちは話したくなけりゃ別にいいけどな」


 ラタリウスさんは私が転生してきたことまでは見抜いていないようだが、その確信に迫ってきている


「さてムカデ、お前は聖女じゃねぇんだな? まぁもっとアブねぇことしようとしてるんだったな。 俺が聖女を嫌いな理由、教えてやろうか?」


 む、それは確かに興味がある

 どうやら女神様も聞きたいようだ


「俺が異世界から来たって話は知ってるだろう? 有名だからな。 俺は元々とある世界の軍医だった」


 そこからラタリウスさんは自らの生い立ちを語ってくれた


 魔法のない世界、地球、時は第二次世界大戦中だった

 イギリス軍の軍医だった彼女はそこで傷ついた兵の命を救い、再び戦場へと送り出していた

 その頃の彼女は男性で、女性になったのはこの世界に転移してからだそうだ

 女神様が言うには、異世界から転移した者は体が再構築される際に非常に強い力を有し、体がそれに合った姿に変わることがあるらしい

 そんな彼女はずっと疑問に感じていた

 何故死地へ赴く者を自らの手で治さなければならないのか

 せっかく救った命を送り出さなければならない自分に、嫌気がさしていた

 そして世界大戦は終局を迎え、彼女が救った者たちの中で戻って来た者はほんのわずかだった

 彼らが国を、大切なものを守るために戦ったのは分かっていたが、それでも家族を残して彼らは死んでしまったのだ

 もう二度と人は救わない。 そう思った矢先に彼女はこの世界へと転移した

 それは突然のことだったらしい

 朝目が覚めるとティライミス聖国のこの森にいた

 体はなぜか少女の姿で不思議な力を有しており、元の世界とは違うこともあって、彼女はその力でしばらくは人々を救っていた

 彼女の力とは“大いなる癒し”と“不老”というそれはもう強力な力だ

 その力で傷ついた人々を旅すがら救っていたのだが、ある時教会が彼女を聖女認定したらしく、彼女はそれを受け入れた

 より人を救えると思ったからだ

 だが、彼女が聖女になってからやっていることは世界大戦中にやっていたことと変わらなかった

 他の戦える聖女を癒し、再び魔物との戦いに向かわせること。 それが彼女に与えられた役割だった


「俺はな、自分で治した奴らがまた死にに行くってのが許せねぇんだよ。 だから、聖女をやめてここに隠居したんだ。 だが不老ってのは厄介でよ。 年老いないんだわな。 それに自殺ってのは俺の救った命に対する冒涜だ。 だからここで今でも研究だけはしてんだ。 力じゃなく、医学で救う道をな。 幸いこの森には薬になる草やらキノコやら多いんで助かってるぜ」


 語り終えたラタリウスさんは私にそっと紅茶を渡した


「飲め、んで寝ろ。 お前は聖女より危険な仕事に行くんだろうけどよ、死にに行くやつの目じゃねぇ。 だからよ、またここに顔でも見せてくれや。 でよ、たまに茶に付き合え」


「はい!」


 彼女は彼女なりに色々なことを思って生きてきたのだろう

 そして今も彼女なりに道を模索しているのだ。 前言を撤回しよう。 彼女は尊敬に足る人物だった


「ま、俺のことはこれくらいでよ、その魔人の子、なんでお前と一緒にいるんだ?」


 そうか、そのことがまだだった。 さっき話しておけばよかったな

 同じようにアエトについても語った


「なるほどな、魔人と魔王の間にもそんな角質があるのか…。 魔王側も一枚岩じゃねぇってことか。 まぁ俺には関係ねぇ。 俺は俺のやりたいことをやるって決めたからな。 まずはアエトの治療だぜ」


 それから二週間、いまだ意識の戻らないアエトを付きっきりで看病している間にセリセリとライラが来た

 聖女だとわかってラタリウスさんは警戒したが、私が説明したことで快く受け入れてくれた


「なぁお前らよ、頼むから死ぬって思ったら逃げてくんねぇ? 俺ぁよ、子供が死ぬのが一番、悲しいんだ。 分かってる、お前らは聖女で一人前、大人と変わりない扱いだが、それでも子供なんだよ」


 ラタリウスさんの言うことは理解できている。 時には逃げることも大切なのだ

 だが、もし逃げれない状況、状態にあったら? 何かを守っているとしたら?

 私達が逃げ、多くの犠牲が出たとしたら?

 私はそれが怖くてしょうがない。 自分が死ぬことよりも


「お、目が覚めたか」


 考え込んでいたらラタリウスさんの声がした

 どうやらアエトが目覚めたようだ


「あ、誰? ですか? リィリアちゃん、どこ、ですか?」


「アエト、私はここです」


 私の顔を見たとたんアエトは泣き始めた

 安心したのだろう、今は泣きたいように泣かせた


「落ち着いたらこれを飲め。 俺特製のポーションだぜ。 効果は皮膚の再生と色素の回復、体力の増強に栄養などなど、最高の病院食ってわけだ」


 アエトは受け取ったポーションをコクリと飲み下す

 まだ喉の火傷が完全に治っていないのか、少しずつゆっくりとだ


「これ、美味しいです!」


「そりゃそうよ、味にもこだわったからな」


 ライラたちが来たこともあってアエトはみるみる回復していった

 本人は私達がいることで元気が出たと言ってくれている。 なんと嬉しい言葉だろうか

 ちなみになぜ彼女を力で治してくれないのか聞いたところ、どうやら魔人と人とでは魔力の質が違うらしく、下手に力を使うと余計に状態が悪化する危険性があったらしい

 だからこそ自然に含まれる魔力を持った薬草や薬キノコなどで徐々に再生医療を施していったらしい

 その処置の説明を聞いてもさっぱりだったが、何にせよ全力でアエトを治してくれたことに感謝しなければな

 

 そしてそれから一週間と二日後、アエトはあの大火傷から完全復活を遂げた

 まだ少し肌の色素が白いところもあり、髪の左側が真っ白になっているが、体調は全く問題なさそうだ


「よっしゃ、見送ってやんよ、それと選別だ」


 そう言ってラタリウスさんは私達に5本ずつポーションをくれた


「それも俺特製だぜ? その名もフルポーション! どんな傷だろうが病だろうがたちどころに治しちまうって優れもんだ。 ただよ、傷ついてすぐ、病にかかってすぐじゃねぇと効果がねぇ。 時間がたてばたつほど効果は薄くなる。 アエトの傷は時間がたってて治せなかったがよ」


「なんと、フルポーションはほとんど伝説になっているような代物ですわ!」


 女神様が驚いているのだから確かに優れものなのだろう

 私はお礼を言ってラタリウスさんの元から出立した

 いつかまた、彼女にお礼をしに訪れよう。 そう心にとどめて次なる依頼人のいる場所へ飛んだ

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