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聖乙女生まれる42

 眠っているアエトはハァハァと息苦しそうに呼吸をしている

 あまりにも辛そうで、出来れば変わってやりたい


「残念ですが、そのような神力はありませんの。 どうにか本人に持ちこたえてもらうしかありません」


 女神さまもアエトを心配しているのを感じる

 ラタリウスさんの元へは私とアエトのみで向かっている

 あまり大勢で行くと機嫌を損ねて診てもらえなくなるかもしれないからだ


「う、ぐ、リィリア、ちゃん、ごめ…、なさ、い。 私、役に」


「しゃべっちゃダメ! おとなしく寝てなさい!」


 アエトには眠りに対する耐性もあったのか、もう目覚めてしまったようだ

 だがもう一度眠らせて飛行速度を上げる


「うぅ、あ…。 クフゥ、ハァハァ」


 寝息を立て始めた。 だが顔半分がただれているため、鼻での呼吸がしにくいようだ

 ラタリウスさんの住む小屋までようやく半分ほどといったところか

 このままでは間に合わないかもしれない

 アエトの呼吸が弱弱しい


「アエト、お願いですから頑張って!」


 私の心からの声をアエトにささやくと、アエトは突然咳をし始めた

 右肺は完全に焼きつぶれているので、普通なら咳が困難であるにもかかわらずだ


「ゲフッ、ケホッケホッ」


 かなり苦しそうな咳だが、これは呼吸ができ始めた証拠だ。 血痰を吐けているのも肺に詰まった血が吐き出されているのである

 私の背は彼女の吐いた血で血まみれになるが、彼女はまだまだ生きるのをあきらめていない。 それが私には嬉しかった

 アエトは生きようとしてくれている


 およそ20分後、ようやくラタリウスさんの小屋が見えた

 注意深く目を凝らしていなければ見逃したであろう、森に溶けこんだ緑色の屋根に保護色としか思えないほどの色をした外装

 どこまで人に会いたくないんだここの住人は


「アエト、着きました。 もうすぐですから頑張って」


 小屋のすぐ横の柔らかそうな草の上に布をひいてアエトを寝かせると、私は扉をたたいた


「すいません、ラタリウスさん、お願いです、友達を助けてください!」


 しかしいくら扉を叩いても反応はなく、仕方なく扉を押してみると、鍵がかかっていないのかあっさり開いた


「す、すいません、ラタリウスさん?」


 中は真っ暗だが、何かの息遣いは聞こえる

 恐る恐る奥へ進むと、足で何かを踏んだ

 パキリと音を立てて折れる白い棒状のもの

 私の記憶が確かならばこれは恐らく、骨?


「ま、まさか、ラタリウスさんはもう亡くなって…」


「だーれが亡くなってるって? このラタリウスちゃんってば不死身と名高いパーフェクティな美少女ちゃんなんよ」


 私が踏んだ骨、その前には骨塚があり、さらにその上に、私と同い年くらいの少女が座って本を読んでいた


「まったく、俺が死ぬわけないかんな? よく覚え解けよちっこいの」


 なんというか、思っていた感じとは違う


「で、お前誰よ? 聖女ならお断り。 聖王の馬鹿にもそう言ってんだろっての?」


 聖王様を、馬鹿呼ばわりだと?

 私はこいつが好きになれそうにない

 だが今は私怨で動くわけにはいかない

 アエトを治してもらうのが先決である


「お、お願いがあるんです」


「ほぉほぉほほぉ、何でも俺に言ってみな。 場合に寄っちゃ何とかしてやる気も起こるかもな」


「私の友人が、酷い火傷を負ってしまい、今にも死にそうなのです。 どうか、どうかアエトを救ってください」


 私はできうる限り深く頭を下げて頼み込んだ


「こーとーわーらーぬ!」


 駄目か…。 だがあきらめ…

 ん? 断らぬ?


「え? あの、その」


「なんだよノリ悪いなぁお前。 いいからそのアエトとかいうの、診せてみなって」


 ラタリウスさんは骨の山から飛び降りるとトテトテと歩き、椅子に掛かっていた白衣を羽織るとアエトの寝ている小屋前の空き地へ向かった

 

「まーずーはー、何だこのシーツ、お前ちゃんと清潔な布くらい用意しとけやナマコが!」


 ものすごく怒られた

 ナマコでは、ない、断じて


「ほれ、そっち持ってろウミウシ」


 言われるがままシーツを持つと、ラタリウスさんはどこからともなくキングサイズのベッドを取り出した


「え? 今どこから」


「答えは風に吹かれているのさ友よ」


 何故どこかで聞いたことある歌風に答えたかは分からないが、どうやら彼女ならアエトを治せそうだ


「いやぁなかなかにぐちゃぐちゃに引っ付いちゃってるねー。 ここなんか知覚神経まで焼けてるから、ほれ、つついても痛がらないだろ? Ⅲ度の熱傷。 ひきつれまで起こしてやがるか。 応急処置は適切、そのおかげでもってるようなもんだわこれ。 あちゃー、右肺が熱波で潰れてるな。 再生治療の必要アリっと」


 これまたどこからか取り出したカルテのようなものにアエトの症状を書き込んでいく

 

「Ⅱ度の熱傷が39%、Ⅲ度の熱傷が11%っと、こりゃひでぇ、俺が今まで見た火傷患者の中で一番ひどいねー、中等症以上…。 ま、ここに来て正解だわな。 俺がばっちり丸っときれいさっぱり治してやんよ」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ、任せろっての。 だがこいつってよ、魔人だろ? なんで助けるんだ? ええ、聖女様よー」


 やはり、ばれていたのか


「安心しろ、ちゃんと治してやるって意思は変わらねー。 医師だけに意思はかてーんだ。 で、なんで助けたいんだ?」


 私はアエトとの関係、いきさつを話して聞かせた


「なるほどなー。 いいじゃん、友情じゃん。 俺ってばそういう話好きだぜー」


 よかった、アエトは助かりそうだ

 彼女が言うには、とある魚の皮を彼女の上皮組織と挿げ替えることで皮膚が綺麗に再生できるそうだ

 ただ、皮膚の色は少し変色するかもしれないとのことだが、彼女の作り出した薬を服用すれば、次第に新しい皮も馴染んで、元通りになるようだ

 

「お前、感謝しろよー。 これは最新医療なんだぜ? 念のため皮をストックしといてよかったってもんよ」


「本当に、ありがとうございます!」


 12時間後、アエトの治療が無事終わる

 あとは魚の皮が皮膚に馴染んで、アエトの皮膚を再生させればぐるぐる巻きに巻かれた包帯も解けるらしい

 私は頭を地面につける勢いで礼を言った


「あー、頭下げるのやめてくんね? めんどいわ。 それよりさ、カタツムリ、お前、なんなんだ? 人間か?」


 ラタリウスさんは、とても医者とは思えないような背筋も凍りそうな笑顔でその質問を私にぶつけた

 どうやら、彼女の眼は、私の正体を見抜いたようだった

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