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聖乙女生まれる37

 彼女は私達にトラウマを植え付けた魔人の男、あの男と一緒にいた少女だった

 あの時は顔しか見えなかったが、今はローブを脱ぎ、全容が明らかになっている

 手足は外骨格のような硬い甲殻に覆われ、鋭い爪が長く伸びている

 頭にはユニコーンのような角が生え、それが赤く光っている

 見た目の年齢は私達と変わらないくらいに見えた


「行きましょう。 バーロックさんじゃあの子に絶対勝てない。 私達で何とかしないと」


 バーロックさんは子供の守護者だ

 どう見ても子供なあの魔人に対して攻撃を躊躇するだろう

 そうなればその隙を突かれて、バールックさんは…


「掴まって! 一気にあそこに飛ぶよ!」


 ライラと二人でセリセリに掴まるとセリセリは一気に飛んでバーロックさんを追い越し、少女の前に立った

 少女はこちらに目を向けて無表情のままゆっくりと顔を動かす


「死んで」


 圧倒的な魔力が周囲を包み、そこに巨大な雷を纏う蛇が現れた


「メトー、噛み殺して」


 メトーと呼ばれる巨大な蛇はバチバチと雷による火花を飛び散らせながら鎌首をもたげて迫ってくる


「ドルグランド!」


 とっさに中位の土魔法を放つと、思いのほか効果があったようだ

 纏っていた雷は消え、目に入った泥に苦しんでいる


「アーデスカイル!」


 周囲に風が渦巻き、一斉に蛇に襲い掛かって切り裂いた


「メトー! よくも」


 少女は怒りをあらわにして歯をむき出した

 猛獣のような牙が生えている


「アデル、メイチェ、マフト!」


 名前を呼ばれて今度は怪鳥、巨大蟹、角が二本生えた馬の魔物が現れた

 どうやらこの少女は魔物を操る以外に召喚までこなすようだ


「ブースト!」


 少女が三匹に手を触れると、その形状が変化した

 怪鳥は鋼のような羽に覆われ、鋭く切り裂くような翼に

 巨大蟹はより硬質化して銃弾すら弾くような強度に

 馬は角がさらに鋭く伸びあがり、尾がサソリのような形状へと変わった


「殺して」


 少女が私達を指さすと一斉に三匹が襲い掛かって来た


「ルーナシールド!」


 ひとまず強固な盾を展開して初撃を防ぎ、体勢を立て直すと反撃に転じる


「ロードバレット!」


「アイシエイラ!」


 セリセリの援護射撃とライラの攻撃魔法のおかげで魔法を溜めるインターバルを安全に通り抜け、私の魔法が巨大蟹に命中した


「ヴァースセル!」


 これは防御を無視した体内の細胞を焼く上位魔法

 蟹はひとたまりもなく内部から焼き尽くされた


「メイチェ!」


 少女は涙を流しながら蟹魔物に駆け寄った

 それによって残った二匹の魔物の動きも止まり、少女の元へ駆けよる


「ああ、メイチェ、ごめんね、ごめんね」


 かろうじて生きている蟹を治療しているようだ


「なんだか、魔人とは思えない慈愛を感じるよ。 セリセリは、この子を、嫌いになれないです」

 

 確かに、あの時のザルフという男魔人にしても、この子にしても

 人間と変わらないような心を持っているように感じる

 だが、この子も含め魔人は人類の敵だ。 ここでこの子を倒しておかなければもっと被害が拡大する

 

「メイチェ、ゆっくり休んで。 こうなったら、私が直接」


 その時バーロックさんが合流したようで、のこっていた二匹の魔物を一瞬で叩きつぶした


「大丈夫かリィリアちゃん!」


 なんという剛腕なのだろう。 潰された魔物は一撃で絶命していた


「いやぁあああ! アデル! マフト!」


 少女は泣き叫んで魔物の死体にすがる


「だめ、死なないで。 置いてかないで」


 少女はその場で大泣きし始めた

 もうすでにこちらへの敵意は向けておらず、ただ悲しみを引き出し続けていた


「何だこの魔人は…。 まだ子供じゃないか」


「だから戦わせたくなかったんです。 バーロックさんじゃこの子に勝てないから。 私が、やります」


 私はカリスを構えると少女の首に当てる


「ごめんなさい。 でも、みんなを守るためだから」


 私は震える手を抑えながら少女の首を見る

 私とあまり変わらない小さな肩と、泣きながら震える背中


「ごめんなさい、ごめんなさい。 もうこの子たちを傷つけないで下さい。 もう殺さないで下さい。 私はどうなってもいいから、この子たちを助けて下さい」


 急に少女が振り向いて泣きながらそう求めてきた

 自分が死ぬことよりも魔物たちが傷つくことの方が耐えられないのだろう

 現に今幻術は解け、そこには魔物の死体が死屍累々と広がっていた


「私の負け! 私は殺していいから、だから!」


 魔物はすでに動きを止めていて、人間を襲ってはいない

 この戦闘を我々は勝利したのだった


「なぁ、君はもう戦う意思はないのか?」


「もうやだ、魔物たちを戦わせたくない。 みんなが傷つくの何てホントは見たくないもん。 私は私の場所であの子たちと平和に暮らしたいだけ! なのにみんな人間を滅ぼすとか魔王様のためとか…。 やりたくないのに! でもやらなきゃ、やらなきゃみんな殺されちゃう。 だから私を殺して! そうすればあの子たちは助かるはず…」


 どうやらこの少女は魔人ながらも魔王軍に無理やり戦わさせられていたようだ

 ひとまず少女を捕縛して話し合いをすることとなった

 戦闘は終わったが、こちらにもかなりの被害が出ている

 少女が助かる見込みは少ないだろう

 だが、私はこの子を助けたいと思ってしまった

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