聖乙女生まれる35
数週間後、仲間の魔物も増え、塀も完成した
ちょっとやそっとでは崩すことの出来ない強固な塀が
試しに魔法を放ってみたが、うまく私の結界が作用してくれたのでこれで大丈夫だろう
もしこれを壊せる者がいるとすればそれはAランク以上の魔物だろうが、この辺りにそこまで強い魔物は確認されていない
「これだけ村を守る魔物がいれば安心でしょう。 彼らをここで繁殖させればさらに言ううことを聞いてくれる魔物も増えるはずです」
私の魔物たちは繁殖することができる。 しかも出来た子供もちゃんと人間を主と認めてくれるらしい
女神様も凄い力をくれたものだ
「何から何までありがとうございます聖女様。 きっとこの村にも活気が戻ることでしょう。 本当になんとお礼を言ってよいやら…。 私も全力でこの村を守ります!」
すっかり元気になったセラルさんがガッツポーズのようなしぐさをこちらに向けた
可憐でどこか高貴な感じがするのだが、もしかして記憶をなくす前は貴族の出だったりするのだろうか
この国にその概念はないが、他国では当然貴族制度や王政が一般的である
この聖国が特殊なのだ
「ではイチ、セスタ、トレス。 皆さんを守ってくださいね」
三頭のデュアルウルフにそう頼むと尻尾を振って返事を返してくれた
よく懐いてくれているのが分かる
「聖女様、ありがとうございました!」
またセリセリに抱えられ、私達は次なる目的地へと飛んだ
次ぎはティライミスと同じくらい発展した街、副都のアーベントだ
ここに来たのは昨日聖王様からのメッセージという生活魔法が届いたからだ
この魔法は声を任意の人物に届けることができる便利なものだが、距離に制限があるためあまり長距離には適さないという難点もある
「実は君たちに折り入って頼みがあるんですよ。 これは早急に解決すべき問題です。 副都アーベントに魔物の群れが迫ってきています。 数はおよそ二万の混成されたもので、危険度がAの魔物も確認されています。 街のハンターや遣わした聖女たちと共にこれを解決してください」
これは急がなければなるまい
今こうしている間にも魔物は迫ってきているはずだ。 私達も街を守る一団に加わらなければ
「見えてきたですよ。 アーベントです」
セリセリの速さのおかげで夕刻にはアーベントに着くことができた
これならすぐ合流して対策を立てることができるだろう
ここに来ているハンターと聖女たち、そして副都にいた街を守るための兵、合わせて2万5千人
魔物と戦うのだから少なからず犠牲が出るだろう
なるべく出したくはない。 皆を守らなくては
「私、指揮官の元へ行って来ます。 ライラとセリセリは街の中でも見て回っててください」
「分かったですよ」
指揮官は街長の私邸にいるらしい
そこで作戦とそれに関する会議が行われていると街の兵に聞いた
「こちらです聖女様」
厳密に言うと私は聖女ではなくハイプリエステス見習いなのだが、細かいことは置いておこう
言われるがままに案内されると、そこに聖王様の姿もあったので驚いた
「ああ、リィリアちゃん、来てくれたんだね」
聖王様にハグをして自分の席を探した
そこには見知った聖女の顔もある
卒業生で皆現役で活躍している人たちばかりだ
「リィリア、お久しぶりですね」
話しかけてきたのは三年先輩だったカレアラス・セルドーさん
亡くなった聖女ミューシャさんの従姉にあたる女性である
もちろんミューシャさんの魂を女神さまの元へ還したときもその場にいた人物だ
「カレアさん!」
抱き着くと良い匂いがふわりと鼻をつく
まるで母のような包容力のある人で、ミューシャさんと目の色が同じ、ミューシャさんのことを思い出して涙が出てきてしまった
「リィリア、あなたもつらいのね。 気を張らなくてもいいのよ。 大丈夫、ここにはみんながいるわ。 あなた一人で気負おうとしないで」
そうだ。 ここには数十人の聖女と数千人のハンター、そして屈強な兵士たちがいる
魔物の大群と戦うのは私一人じゃない
落ち着くと私は自分に宛がわれた席へとついた
「さて、みな席に着いたようだな。 今回指揮を務めさせていただくバーロックだ。 こう見えてAランクハンターチーム“モンストロチェイサー”のリーダーだ」
屈強な男
全てを筋肉で片づけそうな見た目をしておきながら切れ者だと評判の男だ
歳は見た目のせいで老けて見られがちだが、まだ20代後半に入ったばかりだと言う
「まず状況だが、魔物の群れは二日後にはここに到着するだろう。 なぜここまでの規模の魔物が発生したのかは理由は分からんが、調査隊によると何の前触れもなく突如現れたそうだ。 恐らくだが、魔人がかかわっていると思われる」
バーロックさんは地図に印を付けて行った
幸いこの群れに襲われた村や町はまだなく。 まっすぐにこちらに向かってきているそうだ
「このまま向かって来るならば予定では一日後にはロナウ平原に到着するだろう。 ここで迎え撃つ!」
ドンとそこに拳を置いた
ロナウ平原か。 地図で見る限り大規模で、戦闘を繰り広げるのに十分な広さだと言える
「まずは魔法部隊で先頭の魔物を一掃する。 聖女様、ハンターの魔法使いたちと共にお願いできますでしょうか?」
聖女たちは一斉にうなづく
私もうなづいておいたが、どうやら私はこの部隊に配属されてはいなかったらしい
「次にハンターと兵士の混成部隊で次に向かって来る魔物を迎え撃つ。 恐らく最初の魔法で魔物は混乱するはずだ。 そこを一気に叩く」
それからバーロックさんは失敗したときのための対抗策なども考えており、それらを伝えた
魔法が効かなければ弓や神力によっての遠距離攻撃もできるよう人間を配置しておく
驚いたことにこの数の人間の神力などを一度目を通しただけで記憶したようだ
彼の神力は聖王様と同じ超記憶であった
「では作戦通りに頼む。 準備ができ次第出立するぞ」
会議は終わり、私は部屋から出ようと立ち上がった
それをバーロックさんが引き留める
「やぁ、君がハイプリエステス見習いのリィリアちゃんだね?」
笑顔を向けているのだろうが、その笑顔は子供が泣くと思うのだが
「君には大事な任務を任せたい。 これは混乱を避けるために私と一部の人間しか知らないことなのだが、この魔物の群れは確実に魔人が率いている。 その魔人の目を欺いてほしい」
魔人が、いる? 確認されていたということか
そうか、やはりこの魔物の軍は魔人が率いていたのか
バーロックさんの話ではその姿は群れの中におらず、魔物たちの最後方で操っているとのことだ
「欺いてほしいとは?」
「君の力は知っている。 たしか幻術も使えるのだろう? それでこちらが劣勢のように見せて欲しいんだ。 そうすれば魔人は姿を現すはずだ。 こういった輩は勝ちを確信したところで出て来る傾向にある。 そこを俺たちで討ち取る」
確かに魔人は彼らに任せた方がよさそうだ
私はその役目を請け負い、ライラたちの元へ戻った