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聖乙女生まれる3

 しばらくすると父は返って来た。 その手には花束と何やらプレゼント包みを抱えている。 父は商人で、今回も商談へと隣国へ行っていたのだ。 機嫌がいいのを見るに成功したのだろう。 彼の出で立ちは黒髪の長髪を後ろで結った髪型、私と同じく輝くような金の瞳に整った顔立ち、顎髭を清潔に携えた若い男で、そのやさしさが体の内底から溢れ出ている


「父様! お帰りなさい!」


 私はこの年頃の娘らしく父に抱き着いた。 演技と思われるかもしれないが、父を愛しているのは嘘偽りない気持ちである。 前世での私の父も彼と同じく私を大切に思ってくれていた。 今世の父はそれに輪をかけて溺愛してくれているのだが…。 いずれにしてもその行為に父は大いに喜んで私を抱きかかえた


「リィ、ただいま。 うーーん、リィは可愛いなぁ。 きっと母さんに似たんだろうね」


「あら、目元なんてあなたにそっくりよ」


 母が駆け寄ってくると私は下に降ろされた

 父が帰ってくると二人はいつもこの状態になる。 いわゆるラブラブと言うやつだ。 夫婦仲がいいのは素晴らしいが、子供が見ていることも思い出してほしいものだ

 しばらく放っておかれたが、再び私に向き直ると二人で私の手を握った


「そうだ。 お前たちにお土産があるんだよ」


 すでに見えていた花束を母に、プレゼントを私に渡す。 父は開けてごらんと促すので丁寧に包装を開けて箱を開けた。 中から出てきたのはプリマベアというこの世界で屈指の人気を誇るクマのぬいぐるみだった。 正直に言うと少女少女しすぎたお土産だが、今の私は紛れもないそれである。 それに父の気持ちが嬉しくて私は心の底から喜んだ。 それを見て父も喜んでいる

 母はと言うと、父に抱き着いて口づけを交わしていた。 改めて仲がいいと思う


「さて、着替えて来るよ。 お腹もすいたし、今日の夕飯は何かな?」


「フフ、腕によりをかけて作ったのよ。 リィリアと一緒にね」


「本当かい!? 母さんとリィの手料理が食べれるなんてこれ以上の幸せがあるだろうか? いやないね」


 父はいそいそと自室に着替えに走った。 これ以上喜ばせるとスキップでもするのではなかろうか?


「よーっし、リィの手伝った料理はどれかな?」


「これです父様!」


 私は父の前にあるマッシュポテトとキュルレットというニンジンに似た野菜のマヨネーゼ和え、つまりポテトサラダを指さした。 この世界にマヨネーズと全く同じ調味料のマヨネーゼがあったのには驚いたが、当然のごとく有効活用させてもらった。 それは今までにない料理として母に驚かれる結果になったのだが…。


「マッシュポテトか! リィすごいぞ!」


 父はそれをスプーンですくって一口食べる


「え!? これがマッシュポテトかい!?」


「聞いてくださいあなた。 この料理、リィリアが考案したのよ? ポテトサラダと言うらしいの。 マッシュポテトに柔らかく煮たキュルレットを入れて、マヨネーゼで和えるのよ。 この子、天才だわ!」


 ポテトサラダを食べる手が止まらない父は自分の分を食べ終えると、感動したように目を潤ませながら私の方を見た


「リィはすごいな。 ハッ! でも、こんなに料理がおいしいとどこの馬の骨ともわからない男にとられるかも! そうなったら、父さんは、父さんはぁあ!!」


 号泣しながらまだまだ先であろう未来を思って嘆いている。 全く妄想力たくましい父だ


「大丈夫です父様! 私は父様と結婚するので!」


 父が娘に言われて嬉しいであろう言葉をとっさに発してしまった。 火に油を注いだかのように父は今度は喜びの号泣を始めた。 母になだめられてようやく食事の再開である


「それともう一つ、実はリィリア、もう神力を発揮できるようになったみたいなの」


「なんだって! さすが母さんの娘! その年で神力を。 天才だな! 末は聖者か英雄か。 だが父さんは冒険者だけにはならせないぞ! あんな危険な仕事、リィのようなか弱い子にさせられるわけがない」


「父様、私は冒険者にはなりませんよ。 私は聖女になりたいのです!」


 聖女、それは神から加護を与えられ、人々を導く聖人のことだ。 奇跡の力を持って人々の心と体を癒す存在でもある。 もしティライミス教を布教するならば聖女になるのが速い道であると女神に教わった。 だからこそ目指すのである


「おお! 聖女なら結婚もしなくていいし教会勤めになるから危ない場所にもいかなくて済む! リィ、私のために。 なんて良い子なんだ」


 父のため、と言うわけではないが、結果的にはそうなるのだからいいだろう。 それに父は喜んでくれているので私としても目指す意義がさらに増すというものだ。 まぁこの性別での結婚となると男性と、と言うのが一般的なのだろうが、元男性の私としては今はまだ男性との結婚など考えられない訳である。 今はまだと言うのはこれから先のことは分からないからだな


 楽しく賑やかな食卓を囲み、母の最高の料理を味わいつくし、父と一緒にふろに浸かり、父と母、そしてクマのぬいぐるみと共に眠りについた


「む、ようやくまた話せるようになりましたわ。 こんばんわ! 女神ティライミスですよー」


 知っていますよ。 何度も自己紹介をして面倒くさくはならないのだろうかこの女神は


「そう言われましても今自己紹介のレパートリーを考えるくらいしかできませんもの。 仕方ないではないですか」


 わかりましたよ。 で、今日は何の話なのですか?


「あなたの神力についてです。 恐らく数日の内には教会に行くかと思われますが、私から直接伝えたいので。 迷惑でしたか?」


 いや、私もその方がいいと思っております。 して私の力とはどのようなものなのですか?


「フフフ、それはですねー。 圧倒的破壊の力と、圧倒的な癒しの力ですのよ」


 フフフじゃないでしょうフフフじゃ。 癒しの力だけでいいでしょうに。 なぜ破壊の力まで付与したのですか!


「よ、良かれと思ってですよ。 そんなに怒らなくてもいいじゃないですか…」


 怒ってませんよ。 他に何か変なことはしていないでしょうね?


「え、あ、ほ、他には何もしししてませんよ。 女神を信じなさいな!」


 ハイハイ、あるのですね。 まあもうやってしまったものはしょうがないですよ。 甘んじて受け入れます


「そ、そうですかー。 まだ目覚めることはないですので、いずれお話しますね」


 そう言って女神はまた眠りについた。 意外と自由な女神である

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