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聖乙女生まれる28

 国はお祭りムード。 新たな勇者誕生はそれほどまでにめでたいことなのだ

 まもなく学園の卒業を迎える私達もその祭典に参加していた

 勇者誕生の日には毎回様々な国からの来賓もあるため、厳かな、また厳粛な雰囲気で進行されている

 私達は既に聖女候補として選抜されている。 その中でも私とナリヤの2トップが最も有力とされていた

 数百年ぶりの二人が選ばれることもありうるようだ


「勇者様、どんな方なのかしら?」


「分かりませんが、もうすぐ発表の時間です。 あ、聖王様がいらっしゃいましたよ」


 大扉が開き、聖王様と騎士達、聖女に聖人が続いて入って来た

 聖王様の後ろについている聖騎士ヴァーズさんはトレイのような四角い器に純白の丸められた羊皮紙を乗せている

 聖王様が壇上に上がると“フルヴォイス”という拡声魔法を使って話し始めた


「前任勇者が亡くなって早二年の歳月が流れました。 年々女神さまの祝福が薄れ、魔物が増えている中、魔人や魔王の脅威におびえる者も多いでしょう。 しかしながら、女神様より新たなる勇者を告げるお声を賜りました」


 そこで市民の歓声が上がる

 これでおびえて暮らす日々ともおさらばだと言わんばかりに


「女神ティライミス様の名のもとに、これより新たな勇者の名前を読み上げます」


 教会は静まり返り、聖王様の声を待った


「ナリヤ、壇上へ」


 私の心臓の鼓動が速くなった。 口から飛び出るかのような速さに気分が悪くなる。

 親友と言ってもいいナリヤが、勇者という死と隣り合わせの存在になる

 前勇者とミューシャさんの死を思い出して吐き気が込み上げてきた


「は、はい!」


 ナリヤはしっかりとそれにこたえて立ち上がった


「ナリ、ヤ…」


「大丈夫。 私は大丈夫よリィリア」


 私がナリヤを見ると、彼女は震えていた

 なぜですか女神様、なぜ彼女なのですか…


「あなたには申し訳ないと思っています。 しかし彼女は勇者たる条件を最も備えていました。 彼女でなければ次代勇者は務まらなかったのです」


 女神様が申し訳なさそうに私にそうおっしゃった。 仕方のないことだと言うのはよく分かっている

 女神様すら操れない絶対的な運命がたまたまナリヤを選んだのだ

 壇上に上がるナリヤはビクビクと恐れている。 代われるものなら代わりたい

 彼女にあのような危険なことをしてほしくはなかった


「ナリヤ、君が次の勇者に選ばれた。 つらい戦いになるかもしれないが、君の肩には人類の未来がかかっている。 それは分かってくれるかな?」


 聖王様も震えるナリヤという少女を見て悲しそうにそう言った。 彼もまた彼女の小さな双肩に人の未来を託すのがつらいのだろう。 この国の子供たちすべてを自分の子供の様に思っていてくださる聖王様だからこそである

 

「私は…。 正直に言うと怖いです…。 いまだ魔物と戦うときだってドキドキして、手が震える時もあります。 でも、前の勇者様はその命を賭して人々を守ってきました。 私もその助けられた一人です。 あの時助けて下さった勇者様を見て、私はこうありたいと思ったのです」


 ナリヤはゆっくりと、だがしっかりとした声で人々に自分の思いを伝える


「勇者とは勇ある者、人々を守り、その勇を分け与える者。 私は、皆に勇気を与えたい。 たとえどん底でも立ち上がれる力をあげたい!」


 大きく、はっきりと、教会中に届く声で勇者としての決意を市民に、各国の首脳に伝えた

 それを聞いた人々は拍手と大喝采を送った


「そしてそれと同時に聖女が選ばれます。 ナリヤと共に旅をする仲間であり、手助けし、支えあう聖女。 エリミーナ」


 ナリヤの横に並び立つ聖女は、去年の首席卒業生のエリミーナ先輩だった

 彼女もミューシャさん同様に後輩の面倒見がよく、優しく、非常に美しい女性だ

 神力は“精霊召喚”。 世にも珍しい、心を通わせた精霊を友として召喚できる力

 彼女にはたくさんの精霊がついている。 それも選ばれた要因なのだろう

 精霊を召喚できるというのはたとえ下位の精霊でも強力な力となる

 彼女はそんな精霊の最上位までもを召喚できる力を持っていた


「では勇者ナリヤ、聖女エリミーナ。 今日よりあなた方が世界の守護者となるのです」


 大歓声と教会が割れんばかりの拍手。 こうしてナリヤとエリミーナ先輩は世界を守る人類の盾となった


「まだ、実感はわかないけど、私頑張る! 見ててリィリア。 きっと魔王を倒して世界を平和にする。 でね! 平和になった世界でまたみんなで旅行するの!」


 ナリヤは私達を心配させまいと明るく元気にふるまっているが、私達は涙が止まらない

 もしかしたら彼女に会えるのはこれで最後になるかもしれないのだ

 行ってほしくないのと同時に、彼女を応援したいとも思う

 感情が、ぐちゃぐちゃになる


「それじゃぁみんな。 私、行くね」


 旅立ちの日、ナリヤとエリミーナ先輩は私達に手を振って行ってしまった

 国を挙げての旅立ちの筈だったが、ナリヤのたっての希望で家族と私達、ミィ、キィ、イィ姉妹、メイル、そして聖王様だけが見送る

 きっと彼女は大丈夫だ。 いつの日か魔王を討ち果たし、元気にこの国に帰ってくる

 私はそう自分に言い聞かせた

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