聖乙女生まれる26
今回はこの街での観光禁止を言い渡されたのでおとなしくそれに従った
サーリ先生もずっと監視してくれているので、もうあのような目には遭わないだろう
兎にも角にもこれからオートマタデルタの討伐へ向かう。 討伐数は二体だが、相手の出方によってはかなり苦戦するだろう
なにせオートマタ系統の魔物は一定以下の魔法を受け付けないシールドを持っている。 それを壊すには中位以上の魔法を連発する必要があるらしい
さらには物理攻撃も硬い装甲に守られて効果が薄いと来ている
「なかなかに強敵だから、火力の高い私とリィリアが攻撃の中心になって、セリセリは相手の遠距離射撃に対するけん制、ライラは私達に強化魔法をかけて。 かけるのは筋力強化と、あとは思考加速くらいでいいかしら?」
「それでいいと思います」
ライラが使う強化魔法というのは、補助魔法系統という種類だ。 筋力強化や思考加速のほかに、並列思考(同時にいくつかの処理ができるようになるが、数分で頭痛が起きてしまうデメリットあり)、速度上昇、自然治癒付与、魔法力上昇などなどと戦闘には欠かせない魔法だ
特に筋力増強や速度上昇、思考加速などは、私やナリヤのように魔法も武器も使う魔法戦士と呼ばれる者達には欠かせない
思考加速があれば剣を振るいながら魔法の詠唱し、魔法を撃ちだすと言ったことが可能になる
「で、イプシロンとウプシロンが出てきたらまずそっちを破壊ね。 一回倒しちゃえば打ち止めだし。 増援は後々苦しくなるもん」
ナリヤの作戦をしっかりと頭に叩き込んで私達は街の外へ出た
件のオートマタは外を徘徊しているので見つけるのはたやすい
ただ、街道には出ない。 どうやら街道には魔物避けの魔法などがかかっているようだ
街の外周に沿って歩いているとすぐにそれらしき魔物が見つかった
ガシャガシャといかにもロボットのような歩き方をし、その姿は顔のない球体関節人形のようであった
近づくとすぐにこちらを捉え、向かってきた
「動きはそこまで速くないようです。 みんな、行きますよ」
ナリヤがまず前に出てデルタの動きを制限した
そこにライラの補助魔法が飛び、私とナリヤを強化する。 筋力強化のおかげでデルタの攻撃を難なく受け止めることができた
デルタは手を変形させて剣として振るっているが、ナリヤはうまく受け止め、弾き、受け流している
「エアリアルボルト!」
私は初級合成魔法を放った。 結構魔力を持っていかれるのだが、配下を召喚されないよう短期決戦を狙う
「直撃です! ナリヤ、追撃を!}
「剣術、二連削!」
この剣術は全てビース先生直伝のものだ
私達全員が一応使えるのだが、ナリヤは特に鋭く速い
そのナリヤの剣術はデルタの腕を一つ斬りとばした
「く、ちょっと逸れた」
いや、ナリヤの狙いが甘かったわけではない。 デルタが変な体勢で避けたのだ
「ツインフレアバレット!」
そのデルタに向かって炎の弾丸が雨あられのように注ぎ込まれる
セリセリが隙を突いたのだ
「うまいですよセリセリ!」
セリセリによる攻撃はうまくデルタの胸部を捉え、その動力源である魔石を砕いた
魔石というのは魔物の体内にある、魔力を発生させる臓器のようなものだ
それを破壊されれば魔物は死に、このようなオートマタは動きを止める
「これで一匹。 あと一匹ね。 どうやら探さなくていいみたいよ」
丁度良くもう一体がこちらに走って来ていた。 飛んで火にいる夏の蟲だな
「同じ手でいくわ。 ライラ、また補助魔法をお願い」
「はい!」
ライラに再び補助魔法をかけてもらうと私とナリヤはデルタの元へ走った
だが今度のデルタはすでにイプシロンとウプシロンを召喚している。 デルタとこの二体の見た目の違いは色だけなのだが、その性能には大きな違いがある
イプシロンとウプシロンは単純な行動しかできず、対してデルタは自分で考えて行動する
「う、横の二体が邪魔ね。 セリセリ、お願い!」
「分かったですよ。 セリセリの力を見るがいいです!」
セリセリはスプレッドガンに自らの神力を込めて放った
強大な水の力は圧縮されて撃ちだされることでウォーターカッターのようにイプシロンとウプシロンを切り裂いた
「やったです!」
が、喜んだのもつかの間、イプシロンの上半身が飛んで来てセリセリに抱き着いた
「な、何ですこれ! セリセリは怖いのです」
これはまずい。 イプシロンの体が発光し、力が集約していくのが分かった
「セリセリ!」
私はセリセリから無理やりイプシロンを引きはがすとイプシロンを魔法で上空にはね上げた
その直後に大きな爆発が起きる
少しでも遅れていればセリセリは…。 そう思うと冷や汗がどっと出た
「あ、ありがとうなのですリィリア。 リィリアは命の恩人なのです」
ほっと安心したが、これで終わりじゃない。 デルタは未だ銃撃でナリヤを襲っているのだ
まぁナリヤの鎧はその程度で壊れる代物ではない上に、私の結界もあるから大丈夫のようだが
「剣術、三日月斬り!」
まるで三日月を描くかのような美しい剣すじがデルタの頭から胴にかけてを切り抜いた
「これで終わりね」
その攻撃は的確に魔石を破壊し、デルタは動かなくなった
初の遠征討伐だったが、初めてながらも私達はうまく出来たと思う
まあ私が攫われそうになったのを加味しなければおおむねよかったと言えるな