聖乙女生まれる24
長い休みも終わり、授業が再開した。 平和な日常がまた始まったのだ。 戦闘訓練は厳しいが、これも私たちが自分で自分の身を守るためのものであるので、不平不満を言う生徒は誰一人としていない
授業が始まってから数週間後、この日はギルド協力の元、Cランクの魔物と戦うことになった。 昔戦ったブラックウルフと同じ強さで、今の私達なら何とか勝てる相手か
「私達はオートマタ・デルタみたいね。 迷宮の“古代遺跡エルディーラ”に出て来る魔物ね。 この迷宮は私達じゃ入れないけど、周辺にもデルタはでるから、それを二体倒せば今回の訓練は終了よ」
こういった訓練は定期的に行われる。 頻度としては月二回だ。 一年が十三月なので年に26回となかなかの数だな
今まではDランクまでの魔物と戦っていたのだが、生徒たちの実力もついたと判断されたのだろう
ちなみにこれまで生徒に多少のけがはあったものの死者は出ていない。 それもひとえに先生たちが優秀だからだろう
ここで迷宮について説明しておくと、まず冒険者でないと入ることができない
これらは国やギルドが管理しており、その難易度によってランク分けされている
迷宮がどうやってできているのか以前女神様に聞いてみたところ、これらは神々が作り出した試練らしい。 人が魔物たちと戦うための力をつける試練の場だ
迷宮にはランク付けがあり、魔物などに宛がわれるF~Sランクとはまた別のランクとなっている
低ランクの銅等級から始まり、銀等級、金等級、白金等級、オリハルコン、ミスリルだ
銅は初心者が簡単に入れる難易度。 Fランク冒険者が自信をつけるために行くような場所だ
銀はFランク、Eランクが苦戦し、Dランクなら普通に攻略できる
金はFやEは入ることが許されず、一気に難易度が上がる。 Dランクも複数パーティで挑むような難易度だ
白金、これはD以下は挑めない。 Bランクでも管理しているギルドや国に申請が必要となり、Aランクが苦戦するようなレベルだ
オリハルコン、Aランク複数パーティ、Sランクでも数人でパーティを組むようなレベルで、もちろんBランク以下は挑めない
そしてミスリル、Sランクの複数パーティが必要となり、Aランク以下は挑めない
迷宮に入り死ねばそれで終わり。 金等級からはかなり危険なため当然死者も多いのだが、それでも挑む者が多いのは、そこから得られる恩恵が非常に多いからだ
銅等級ではポーションなどの薬、ちょっとした金属や一回使い切りのマジックアイテムなどが手に入るが、銀等級以上になると装備や高価な品、金属、宝石などが手に入るようになり、自分の強化ができる上に懐が潤うのだ
当然冒険者になるつもりはないので行くことはないのだがな
と、まぁこの時はそう思っていたわけだ
件の“古代遺跡エルディーラ”はこの国の端、隣国ピルカルトとの国境近くにある。 そのためピルカルトの冒険者もこの迷宮に挑むことが多いようだ
そして迷宮の周りはその魔力に惹かれるようにして同じような魔物が生まれる。 入る前に対処法を知ることができると言うことだ。 ただ、迷宮を守る最下層の主だけは迷宮オリジナルの魔物になるので、対処法は伝え聞きか、情報を買うしかない。 しかもそれも主が倒されるまでの話だ。 主は倒されると全く別物に変わってしまう。 対処法はまた一から練り直しとなる
「で、このデルタなんだけど、敵を認識すると体中から刃物を出して追いかけて来るそうなの。 その他に口からの銃撃、魔導核からのレーザーなんか脅威ね。 まぁ銃撃とレーザーは魔法で防げるみたいだから大丈夫よね?」
「ええ、そこは私に任せてください」
この四人の中で魔法結界を一番うまく扱えるのは私だ。 みんなを守る役割を担うことになるのでしっかりと敵の動きを見極めるとしよう
「あと、デルタはイプシロンとウプシロンを呼ぶことができるみたい。 この二体はデルタほど強くないけど、イプシロンは近接で、ウプシロンは遠距離で単純な攻撃をしてくるわ。 一度に呼べるのはその二体までで、倒しちゃえば次は呼べない」
ナリヤの仕入れてきた情報はかなり詳しかった。 これなら簡単に倒せるだろう
課題が出された翌日に私達は出立した。 今回はクラス全員で行くわけではなく、グループごとに出された魔物を狩ってくるというものだった
各グループに先生が一人見張りとして隠れてついてくるので危険な時は助けてくれるようだ。 ただその場合は課題失敗となり補習(戦闘訓練)だな
「乗合馬車で二日かぁ、結構かかるです。 セリセリ乗合馬車苦手なのですよ」
それはみんなも同じで、今回はクッションを持っていくことにした。 ついた時にお尻が痛くて動けないなど愚の骨頂だ。 それに以前乗合馬車に乗った時と違って遊びに行くわけではないのだからな
この乗合馬車は迷宮都市エルドへの直通便だ。 迷宮のある街は迷宮都市と呼ばれ、繁栄している。 この国の首都であるティライミスよりも発展しているようだ。 正直楽しみでもある。 なにせ娯楽施設がいっぱいなのだからな
遊びに行くわけではないが、少しならいいのではなかろうか?