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聖乙女生まれる20

 次の日、湖で少し、いや、かなり厄介な事件が起きていた

 どうやら聖獣フィニキアが何者かに攫われたらしい。 私の可愛いフィニキアを攫うとは不届き千万としか言いようがない


「あなたのではありませんが、あの子が心配です。 どうか助け出してください」


 わかりました。 必ず私のフィニーちゃんを助けます


「おお、愛称までつけて…。 まぁいいです。 とにかく頼みましたよ」


 女神さまからの正式な依頼だ。 守護聖獣や守護神獣のいる土地は彼らがいなくなると瘴気という悪いモノが溜まり、魔物の発生源となってしまう。 そうなればこの綺麗な景色や澄んだ湖はよどみ濁るだろう。 それだけは避けなければならない。 なんとしても私のフィニーちゃんを取り戻さなければ


「リィリア、何かわかる?」


 私は探知魔法を使って痕跡を探す。 この魔法はなかなかに便利なもので、兵士ならば必ず覚えている初歩の生活魔法だ。 探知魔法に引っかからない魔法を使う者もいるが、今回は間抜けな犯人だったようだな

 目に宿った魔法でフィニキアの痕跡を探す。 すると岸辺に何かが引きずられたような跡と人間のものと思われる足跡が見つかった

 魔法を発動したままその痕跡を辿っていくと、荷馬車の車輪痕が街道に続いているのが見えた。 フィニキアはなかなかに大きな神獣なのだが、丸まれば大きな袋くらいには入るだろう。 つまり荷馬車になら簡単に乗せれるということだ


「セリセリが飛んでみてこようか?」


 それはいい考えだ。セリセリはかなり飛行がうまくなっている。 彼女の飛行ならば魔力を使うこともないので、後々フィニキアを攫った連中と戦うとなると魔力は温存しておきたい


「痕跡は街道を横切って東に向かっています。 セリセリ、よろしくお願いしますね」


「うん! セリセリは頑張るよ!」


 翼を広げ、セリセリは痕跡を追って飛んでいった。 待っている間湖に来ていた観光客たちに聞き込みをする。 愛すべき神獣フィニキアのためにと皆喜んで情報提供をしてくれた

 そんな中、昨日悪漢を引き渡した兵士から情報が寄せられた。 どうやらあの悪漢どもはフィニキアを攫うよう依頼されていたらしい。 依頼してきたのは女で、顔はフードを目深にかぶっていたため見えなかったそうだが背は高く、声は聴いているだけでもとろけそうなほど甘美だったと言っていたらしい


「他には何か言ってませんでしたか?」


「えーっと、あ、そうそう、依頼されたのはあいつらだけじゃなかったみたいだね。 他にも何グループかいたらしいんだけど、それぞれ別に依頼されたからどんなグループなのかは一切分からないみたいだ」


 聞き出せた情報は大体予想がついているものだったが、それを確認できただけでもいいとしよう。 つまりこの事件は裏で糸を引く何者かがいると言うことになるな


 そうこうしているとセリセリが戻って来た


「リィリアちゃん! セリセリはやり遂げたのですよ! 荷馬車の居場所が分かったのです!」


 セリセリの追跡の結果、荷馬車は森の奥の広場に止められていたそうだ。 そこにはフィニキアを攫ったと思われる数人の男たちと、そのグループとは明らかに違う二人組が男たちにお金(本人同士の合意があればカードからカードに受け渡せる)を渡していたらしい


「これは急がなきゃ、フィニキアちゃんが危ないですね」


 私は冷静に、怒りを胸の奥に沸かせながらセリセリと共に四人でそこまで飛んだ。 兵士たちもついて来ようとしたが、大勢で行けば悟られて逃げられるかもしれないので、待っていてもらうことにした


「あそこです! あの広場に!」


 セリセリが指さした場所には森が切り開かれたと思われる広場。 そして荷馬車があった。 既に男たちはおらず、二人組が今まさにその荷馬車に乗り込もうとしているところだった

 逃がしはしない


「プランツヴァインド!」


 ナリヤが植物のツルを使って荷馬車の車輪をしっかりと固定した。 かなりの強度を誇るこのツルはたとえ巨人であろうとなかなか引きちぎることはできない


「なんだ? 車輪が動いてないぞ? ちょっと見て来い!」


「はい」


 二人組のうちの一人、声の低い男がもう一人の女と思われる方に命令して車輪の様子を見に行かせた

 これはチャンスである


「アクアバレット! ウィンドバレット!」


 今度はセリセリが魔砲銃で二人を狙い撃つ。 かなり距離があったが、セリセリは見事に命中させた。 どうやら今ので女の方は気絶したようだ

 男はと言うと、ダメージは受けたもののすぐに体勢を立て直してこちらを見上げた。 その際に顔が見えた 

 人族、ではない!?

 これは魔人というやつではないのだろうか? 魔人は人族に分類される魔族ではなく、魔物が人化したものだ。 そう、魔王と同様の進化した魔物である


「やってくれたな。 まぁいい、ここで殺せば計画に支障はない」


 低く唸るような声に体に震えが来る。 今の私達では、天地がひっくり返ろうとも勝てないことがすぐに理解できた。 逃げようにも動けない。 あまりに力の差があった時、弱者は動けなくなると言うが、この時それを痛感した。 私達は、成すすべなく殺されるのだろうとはっきりそう悟った瞬間だった

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