聖乙女生まれる18
まずは荷物をそれぞれあてがわれた部屋に降ろしに行く。 広い別荘だけあって部屋数も多い
使用人が荷物を運んでくれようとしたが、体力づくりの一環として私は荷物は全て自分で運ぶと決めている
まぁ元々の体力が高いからあまり意味はないのかもしれないが、要は気持ちの問題だな
荷物を置いて一旦別荘内の食堂に集合した。 ここまで朝から何も食べていない私達は既に腹の減り具合がピークを迎えていた
「うちのシェフはみんなすごいわよ。 あの世界メグルメグループのグルメガイドでシングル以上を取ったシェフばかりなの。 今ここにいるのはダブルのシェフね」
これはすごい! メグルメグループというのは、世界の料理の美味しさの基準を作り出している超大手グルメ企業だ。 当然のごとく味に厳しく、星と呼ばれる評価の最低ランク、星1を獲得するだけでも相当に難しい
これの評価値は星1から始まり、星2、3、4、5と5段階あり、さらにその上が月の1、2、3と三段階。 そしてその上が太陽のシングル、ダブル、トリプルと呼ばれる最高位の評価だ
つまりここにいるシェフはその最高位のダブル、相当な腕前が期待できる
「お嬢様、お食事のご用意が出来ました」
うやうやしくナリヤに話しかけたのはナリヤお付きのメイド、リーラッカさんという猫獣人の女性だ。 ナリヤが小さいころ家にメイドとしてやってきたらしく、歳は20歳と若い。 顔立ちは非常に整っていて、目がクリッとしたショートヘアの可愛らしい女性だ。 この歳にしてメイド長も勤めているという
「ありがとうリーラ。 一緒に食べる?」
「いえ、わたくしなどがお嬢様とご一緒するなど」
「ほらまた…。 良いから一緒に食べなさいって!」
リーラッカさんを無理やり席に座らせるとナリヤは満足そうに笑った。 ナリヤにとってリーラッカさんは家族同然らしい
「じゃぁ食べましょ。 ほら、皆も」
他のメイドや執事にも食べるよう促した。 ナリヤが使用人たちを大切にしているのがよく分かる。 こういうところがナリヤの良いところだな
高級料理店でも出せないようなまるで宮廷料理のような料理を存分に味わい、天にも昇るような心地で食事を終えた。 幸せとは食べることである
さて腹ごなしに湖で泳ぐとしよう。 それぞれが部屋で着替えるのだが、メイドたちがついてきて寄ってたかって脱がされ着替えさせられてしまった。 だがまぁそれぞれに合う水着を着せてくれたようで、鏡で見ると我ながら可愛いと思う
まず私はフリルのついた少女少女とした水着だ。 胸元に大きなリボンがついており、白地にピンクのドット柄。 水着を着るのは初めてだったためかなり恥ずかしいが、そのうち慣れるだろう
ライラは赤いパレオ。 膨らみ始めた胸を強調しているようだ。 クラスの男子が見れば卒倒するかもしれない
セリセリの水着はそのプロポーションの良さを際立たせているようだ。 青い三角ビキニか、これはまた男子の眼を釘付けにするだろう
最後はナリヤ。 彼女はクリーム色のスカートワンピースタイプで、どこからどう見ても令嬢だ。 白いハットがよく似あっている
「みんな準備はできた? それじゃぁテラスに行きましょ」
別荘のテラスに出ると、太陽の陽光に照らされた湖がキラキラと輝いていた
湖は透明度が高く、浅瀬では魚が泳いでいるのが見えた。 そして深くなる岸から50メートルほど離れた場所を見ると、そこにうねる何かを見つけた
「な、ナリヤ、あ、あれはなんなのでしょうか?」
これから泳ごうという湖に巨大な何かがいる。 正直かなり怖かった
「おお! あれは!」
ナリヤは大喜びしているようだ。 一体何なのだあれは…
「みんな! すごい幸運よ! あれはこの湖を守る聖竜、フィニキアよ!」
聖竜? そんなものがいるのか?
「フィニキアを見ると何かいいことがあるそうなの。 今日はとってもラッキーな日ね」
「ナリヤ、あれ、襲ってこない?」
「あら、リィリアってば怖がってるの? 大丈夫よ、フィニキアはおとなしくて、湖に悪ささえしなければむしろ寄ってきて一緒に遊んでくれたりするのよ」
どうやら安全な聖竜のようだ。 この世界には聖獣と呼ばれるその土地を守る獣や竜などがいる。 その中には土地を守るためならば侵入者全てを排除するような危険な聖獣もいるそうだ。 だがここのフィニキアは悪事を働かなければおとなしいらしい。 それなら安心だろう
うねる波がこちらに近づいてきた。 まだ内心ドキドキしていたが、恐る恐るその様子を見つめていると、うねりは勢いよくこちらに向かってきた
「ななななナリヤ! 来てる来てる来てる! 怖いんですが!」
私は取り乱しながらナリヤに抱き着いた
すぐ目の前にまで来た巨大な蛇のようなシルエットに私はそれはもう思わず漏らしてしまいそうなほど驚いた(漏らしてはいない! 絶対に!)
水から首を出すフィニキア、恐怖していた私は思わず目をつむったが、噛まれることもなくフィニキアから滴る水が頭にぽたぽたと落ちるのを感じた
「ほらリィリア、フィニキアを見てみなさいよ」
目を開けると、驚くほど可愛らしい竜が私の前にいた
フィニキアの鱗は薄紅色で、目は丸く大きく、蛇のような顔なのだが愛嬌があった
そんなフィニキアは私に懐くように頭を擦り付けて来る。 何と可愛いのだろう…
「その子はわたくしの加護を得ている聖獣ですわ。 あなたの中にわたくしがいるのを感じたのでしょう」
なるほど、それでここまで懐いているのですね
「その子だけではなく、貴方はどんな聖獣、神獣にも懐かれますわよ」
はい、ここでも判明しました、私の能力の一つなわけですね
「はい!」
後いくつあるのだろうか私の能力は…
気を取り直して私達はフィニキアと共に湖で大いに泳いだ。 フィニキアが滑り台になってくれたのだが、さながらウォータースライダーのようだったな。 まぁウォータースライダーなどやったことはないのだが