聖乙女生まれる15
それから幾日、幾週間もたったが、この国では大した混乱も起きず、魔物たちの活動もぱったりとなりを潜めた。 まるで異常事態などなかったかのように穏やかな日々が続いている
ちょっとした事件と言えば最近私が女性特有のアレが始まったことと、聖王様お付きの護衛騎士の一人に子供が生まれ、聖王様が名付け親になったことくらいか
いやなんだ…。 女性の体と言うのは色々大変なのだな。 男などのんきなものだ
授業では相変わらず訓練と座学によって高度な教育を受けられている。 ここまでの教育が受けられるのもこの学園が国営と言うこともあるのだろう
他国にも学園や学校はあるものの、この学園のようにしっかりとした体制が整っているものはあまりに少ない。 魔法など教えてくれない学校が大半だと言う
中等部は14歳まで、高等部は17歳までなのだが、私の場合は15歳で卒業か。 卒業後は当然各国に赴いて布教活動をするつもりである。 できればこの四人でしたいものだ
聖女となれば護衛を5人までつけることができる。 それならば気心知れたメンツの方がいいに決まっているからな
魔物や盗賊といった危険から聖人を守る護衛は当然強くなければいけないのだが、私含め四人は学年でもトップ10に入る実力者ばかりである。 問題はなさそうだ
「であるからして、初代王様はこの国を築き上げたとき、女神様に忠誠を誓うと同時に、必ず世界の宗教をまとめ上げると誓ったのです。 その誓いは未だ果たされていませんが、もしかしたらこの中の誰かが成し遂げるかもしれませんね」
タム先生はそう言って歴史の授業を締めくくった。 そのすぐ後に授業の終わりを告げる鐘の音が響いた
「お昼、どうしよっか?」
「セリセリは売店のベーコンサンドにするよー」
「私は朝お弁当を作ってきました」
「私もです」
ナリヤとセリセリは売店。 私とライラは朝一緒に作った弁当。 二人が売店で購入するのを待ってから中庭へ行き、そこでともに昼食をとることにした
購入といったが実はこの世界にはお金がない。 いや、正確にはあるのだが、コインやお札といったものがないのだ
全世界に普及されている個人カード。 これは自分の身分を証明するもので、全ての人族が持つものである。 書かれているのは名前、性別、年齢、職業等々多岐にわたるが、このカードのすごいところはマジックアイテムという点である
比較的簡単な魔法なのだが、偽造防止、個人情報の提示(任意で隠せる部分もある)、金銭のやり取りといった様々な魔法がかけられている
特にこの金銭のやり取りはすごい。 お金がカードにポイントのようにたまり、物を購入する時や、逆に売ったことで手に入れた金銭を入れることができる。 つまりクレジットカードや電子マネーに近いと言っていいだろう
私達のお小遣いは親からこのカードに送られたり、魔物を倒した成果報告をすることで手に入れる
ちなみに私達はそれなりの金額を持っているので注意しなければな
偽造防止魔法がかかってはいるものの、お金を引き出すような魔法を持つ悪人もいないわけではない。 対策しようにもすぐに新しい魔法が作られるためいたちごっこで、自分たちで守るしかないのが現状だろう
「はむっ、むしゃむしゃ。 ん~このサンドイッチ、最高だよ~」
セリセリは売店で買ったベーコンレタストマトサンド、通称BLTサンドを頬張っている。 このサンドイッチ、表面がサックリと焼けていて香ばしく、ベーコンはカリカリ、レタスがその油を受け止め、トマトがすっきりさせてくれているという、売店でも人気のサンドイッチだ。 当然すぐ売り切れるため、セリセリが買えたのは運がよかったと言える
「こっちのエッグサンドも美味しいわよ。 半分ずつ交換しない?」
「うん!」
ナリヤとセリセリはお互いのサンドイッチを交換して幸せそうな顔で食べている。 おっと、人のものばかり見ていないで私も食べるとするか
今日の弁当はおにぎり(梅)と漬物だ。 この国には本来無かった料理だが、お米があったのはよかった
それに梅干しや漬物。 なぜ売られているのか街の商店の店主に聞いてみたところ、異世界人と呼ばれる他の世界から来た旅人がこういったものを伝えるらしい
ふむ、異世界人か。 私と同郷なのかもしれない
この世界に流れ着く異世界人はなかなかに多いらしいので機会があれば会いたいものだな
昼食を食べ終わり、この日は午後の授業もないので街にでてショッピングを楽しむことにした
ナリヤ、ライラは服が好きで、アパレルショップのような店に行くことが多い。 私も最近ではおしゃれを楽しむようになってきたのだが、如何せんセンスが悪いらしく、いつもナリヤとライラに見てもらっていた。 ナリヤはそのあたり詳しいので任せた方がこちらとしても良いのである
セリセリはというと、ゴーグルが好きで、すでに20個ものゴーグルをコレクションしている
そうそう、最近セリセリは少しの間空を飛べるようになっているのだ。 空を飛ぶときにゴーグルは欠かせない。 しかも彼女も女の子だ。 当然ゴーグルとておしゃれしたいのだろう
四人でショッピングを楽しみ、屋台で夕食を済ませ、平和な一日を終えた