終わりの始まり2
旅立ちの日、サクラは私を呼び止めてお守りを渡してくれた
「それは私の故郷に伝わるお守りなの。それがいつかまた私達を繋いでくれるの。もし、目的を達成してどこにも行くところがないならまたここに来ればいいの。私が面倒見てやるの」
「サクラ…」
また、大切な人ができてしまった
もし彼女が白に狙われることがあったなら、その時は、私の全力を持ってやつを殺す
絶対に復活できないように
「じゃぁまたなの。うまくいくよう祈ってるの」
「何をするのか聞かないのですか?」
「聞かなくてもその顔を見れば悪いことをしようとしてるんじゃないことは一目瞭然なの。だから私は、笑顔で送り出してやるの」
「ありがとう、ございます」
涙がこみ上げそうになるのを必死でこらえて、私は振り向かずにこの場を去った
「さて、そろそろ出てくるの」
「あらん、ばれてるじゃない」
「お前、あいつと同じ気配がするけど、お前の方は邪悪そのものなの」
「ふふ、たかだか一世界の住人風情に気づかれたのは驚いたけど、それだけよね。あんた、今から死ぬから。そうね、あいつがいないから一瞬で殺して、その首をあいつの前に転がしてあげるわ」
「お前は何か思い違いをしているの。私は一世界の住人じゃなくて、複数世界の住人なの、よ!」
サクラが白の少女の視界から消えた
その気配も力も完全に消えたため白の少女は驚きを隠しきれなかった
「な!? どういうことよ! その力は私達と同じ」
「そう、次元も時空も関係ないの。お前らのことは知ってるの。昔苦戦したけど、今では倒し方を知ってるの」
「何を馬鹿なことを! お前のことなんて核の情報にない! つまりお前ははったりを」
「はったりかどうかはその身に刻むといいの。まぁもっとも、もう刻む意識すらないだろうけど」
サクラの声が多重に聞こえ、次の瞬間白の少女は自分が死んだことにすら気づかぬまま消滅した
「ふぅ、厄介なやつらがまた動き出したみたいなの。せっかく数千年をかけてゆっくりと着実に消してきたと言うのに…」
サクラの姿は先ほどまでの幼い姿ではなかった
立派な、それはそれは美しい桜色の髪と角を携えた美女へと変貌している
これが本来の彼女の姿だった
「はぁ、もう少しこの世界で後継を鍛えたかったけど、そうもいかないみたいね。エイティア」
「ここに! サクラ様!」
「あなたに私の全権をあげる。これからも日々精進しなさいな」
「で、では、もう」
「ええ、その時が来たみたい。私は故郷に戻る。子孫もいい具合に育ってるみたいだもの」
「本当に、私などでこの世界を守れるのでしょうか?」
「心配?」
「はい」
「大丈夫よ。貴方には私の全てを叩き込んだもの。それに、異世界から来る魔物だって簡単に倒せるでしょう?」
「ですが、私はサクラ様がいなければ」
「ほら顔をあげなさい。これからはあなたがこの世界の王なのよ? 貴方は世界に愛されてる。きっとうまくいくわ」
サクラは涙目になっているエイティアの涙を指でぬぐうと頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でた
目を細め、気持ちよさそうにする鬼人の少女エイティアは、それで元気づいたのか目をキリッと開けた
「それじゃぁ、またね」
「はい、サクラ様もお元気で」
エイティアの頭から手を放すとサクラは次元の扉を開いて中に入っていった
その後ろ姿を寂しそうに見るエイティア
彼女は深く息を吸って吐くと、国民にこの事を伝えるため歩き出した
「さて、まずは故郷に帰らなくちゃね。まったく、神々にも少しきつく言ってやらないと。どこを見てるのかしら。大方少し前の異変で手が離せなかったんでしょうけど、まぁいいわ。神々の再教育はまたこんど」
彼女はただの鬼人だった
それが仙術を得て鬼仙となり、研鑽を積んで童子へ、鬼神へ、そして内なる力の最果てを目指して鬼神の王へ、さらにその限界を超えて誰も到達しえなかった領域へと自己進化した
彼女は特異点
全ての力を持ち、全ての力を体に統合させた大いなる力そのものだった
サクラは鼻歌交じりに多次元、他世界へと繋がる特殊な回廊を歩生き始めた