咲き誇るは惡の華22
クライマックスに入ってきました
私はその手を思わず取ってしまった
そのとたん、私の過去が記憶になだれ込んでくる
遥かな昔の記憶が、ネイトとして生きていた記憶が私の中を占領していく
リィリアとして生きた記憶も、宗重郎として生きた記憶も、そしてそれ以前に人として生きていた記憶も、その全てがネイトに埋め尽くされていくのを感じた
私はネイト、白から世界を守るモノ
体が黒に覆いつくされていき、目の前にいたおじいさんが驚きに声をあげている
彼には関係がないことだから、そのまま無視してレヴァに抱き着く
「ああ、ああ、懐かしい。昔はずっとこうしていたね」
「ネイト、よかった。戻ってくれたのね?」
「ええ、さぁ帰りましょう、私達の世界へ」
レヴァの手を握り直した瞬間、彼女の体が視界から消え、ベシャリという音が私の右側から響いた
驚愕に目を見開きながらゆっくりとそちらを向くと、私の大切なレヴァがグチャグチャの肉塊となって壁にへばりついていた
私の手にはレヴァの右手だけがぶら下がっている
「ようやく捕まえた。この数億年、よくも逃げてくれたじゃない」
どこからか声が聞こえる
その声には覚えがあった
だって、私を殺した奴の声だから
「まぁ結果的に殺せたし、それにもう一つ、いいものも見つかったわ」
私は突然のことに愕然として動けないでいた
声の主が目の前に姿を現す
「何これ、邪魔なんだけど」
体の全てが真っ白な少女
彼女は後ろに立っていたおじいさん、リィリアの記憶では聖王というこの国の王、その王の頭を指ではしいて、まるでスイカのように弾けさせた
「さて、次はお前。いや、ここまでさんざん私の手を煩わせたお礼に、お前の前でお前の大切な者全てを壊してしまってからにしようっと」
声が出ない
力を使おうにも、復活したばかりの私はうまく黒を扱えないでいた
そんな私の前に、白の少女は何かを召喚した
それはリィリアの記憶にある人間…
「何じゃここは、な、なぜ我はこのような」
グチャッ
召喚されたのはダークエルフの女王
リィリアとしての記憶からそれが分かったが、彼女は疑問を解消されることなく一瞬で頭をつぶされ、殺された
次に竜人の王女、力ある者だったが、白の少女を見て戦闘態勢を取った瞬間に首が真後ろに回転し、その場に倒れ絶命した
ようやく体が動きだしたけど、白の少女は私をその力で拘束する
次から次へとこの世界で出会った住人を召喚しては、彼女はそれを壊していった
星詠み族の王女とその恋人である勇者は、互いに抱き着くような形でつぶされ、異世界から来た医者は全身の頭部以外の皮をはがされ苦しみながら死に、帝国の皇帝とその妹の勇者は、皇帝の目の前で妹が四肢をもがれ、泣き叫ぶ皇帝の目の前でゆっくりといたぶりながら殺し、その皇帝も憎しみに満ちた顔で白の少女を恨みながら首を落とされた
次から次へとリィリアが親しくしていた人物を召喚しては、残酷に殺してく
リィリアとしての記憶、彼女自身が私の中で泣き叫び、白の少女への怒りがこみあげて来る
「次は~、こいつらかな」
召喚されたのリィリアの見たことがない者たち
しかしその力の流れから理解できる
彼らはリィリアに力を与えていた秘神
「こ、こんな、まさか…。そうか、リィリア、君は」
何かを言い切る前に、時の秘神は真っ二つに引き裂かれて殺され、その場にいた秘神たちもその全てが簡単に、紙でも破るかのように簡単に殺されていった
力を使う間もなく、ただただ彼らは一瞬で死に絶えた
次に現れたのは力の流れから混沌。恐らくリィリアに力を与えていた混沌たちなのだろう
彼らも秘神と同じように驚きながら殺された
必死でもがくけど、私はその光景を見ていることしか出来ない
「無駄無駄、前も私に殺されたくせに、私より弱いお前が抵抗できるわけないじゃない」
そして召喚されたのはハイプリエステスのレニ
彼女は私を見て、手を伸ばした瞬間にバラバラになってその場に崩れ落ちた
私は血の涙を流しながらその手で肉片に触れようとしたが、白の少女に一笑されて拘束をさらに強められた
直後に、彼女はリィリアの愛する者たちを召喚した
親友のナリヤ、ライラ、セリセリ、そしてリィリアの両親、女神ティライミス
彼女らは拷問という拷問をされ、苦しみながら、泣き叫びながら、私に助けを求め、ゆっくりと死んでいった
そこで私の中の何かがプツリと切れた
「ああああああああああああああ!!」
「いくら叫んでも、もうこの死体は元には戻らない。いくらお前たち黒でも、甦らせないほど徹底的に壊しちゃったもの」
「あああ! ウアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
口が裂け、目が裂け、黒い血液が吹き出る
私は自分の手足を引きちぎって拘束を解き、黒の力を最大限に発揮した
その力が変質していく
怒りと、憎しみと、悲しみによって、黒より暗く、深く深い黒に
「アハハハハ! いいじゃない! それでこそ殺しがいが」
「もう、その口を、閉じろ!」
黒の力で手足を造ると白の少女の頭を掴む
「あがっ、アハハ、ハハハハハ、痛ァアアアハハハハハ! 憎しみ、怒り、悲しみ、ああ、黒になかった感情。お前はそれが芽生えたのね! アハハ、アハハハハハハハハ!!」
グシャリと白の頭をつぶした
だらりと垂れ下がる手足
「ハァ、ハァ、あああ! あがぁ! うっ、ゲボァ、ゲホッ、ゲホッ」
苦しい、感情がぐるぐると渦巻く
吐き気が、眩暈がする
目の前に積みあがる死体の山は、わたしが大事にしていた者の死体
「白を、滅ぼさなきゃ。あいつらは、敵だ」
白なんだ
全ての元凶は、白
全ての世界の平和を目指すなら、白を滅ぼすのが必要不可欠だったんだ
私は。私達黒はずっと間違っていた
世界の枠を飛び越え、残りの白を探すために私は動き始めた
私が世界から去った直後、白の死体は死を書き換え、再び動き始めた