聖乙女生まれる14
目が覚めると学園の医務室、そのベッドの中だった。 どうやら私とライラを二人が運んでくれたらしい
ライラは私の隣で寝ており、その横に椅子に座って眠るセリセリとナリヤがいた
「う、痛っ」
深くえぐられた腕の傷を見ると、少し傷跡が残っているもののほぼ全快していた。 この痛みは傷を魔法で癒したとき特有の細胞が再生していくときのものだろう
「心配したんですのよ。 わたくしとあなたは繋がっていますから、なんとか再生力を高めて傷はふさぎましたが、あと少し遅ければ死んでいるところでしたのよ?」
はい、申し訳ないです
「それにしても、あなたたちが無事でよかったですわ…。 気が抜けて、なんだか、眠気、が」
ありがとうございます女神様、ゆっくりと休んでください
私が頭の中で彼女にそう告げると、女神様はそのまま眠りについたようだ
いつもは少し間が抜けていて、変な発言をする女神さまだが、私のことを娘のように思ってくれているのは確かだ。 言葉の節々や、繋がっている心からそのことはよく分かる
「目、覚めたのね。 良かった」
声のした方向を見るとナリヤが目覚めて微笑んでいた。 彼女達にも心配をかけたようだ
「よかったですよ! セリセリはもう心配で心配で!」
うわっぷ、セリセリが抱き着いた拍子に彼女の羽毛が口の中に大量に…。 だがまぁたまにはこういうのも悪くはない
口の中の羽毛をぬぐい取ってからライラの様子を見た。 この中で一番重症だったのは彼女だ。 ナイフによる一撃は彼女の内臓にまで達していた。 もう少しずれていれば死んでいたかもしれない
「ライラ、ごめんなさい。 あなたのおかげで私達は助かった」
眠るライラの頬に手を添えてまだ痛むであろう腹部に手を置いた。 完全に治ってはいない傷の治療をするためだ
数分後、完全に治療を終えるとライラの苦しそうだった顔が和らいでいくのが分かった
「ライラちゃんは先生が見ておくから、君たちはもう寮に帰りなさい」
そう言ってくれたのは医務室の教諭であるエルフのパーシル先生だ。 彼女は1200歳を超えるエルダーエルフという種族で、長命なエルフの中でもさらに長命な種族だそうだ。 それ故に知識も深く広く、この国の相談役にもなっている
「ありがとうございますバーシル先生。 ライラをお願いします」
バーシル先生にライラを任せて医務室を出た。 既にライラの傷はいえており、あとは目が覚めるのを待つだけなので大丈夫だろうとは思う
寮に帰るとサリューイ先生が待っていた
「ああ、よかったのですよ。 傷は、大丈夫です?」
サリューイ先生も心配して待っていてくれたようだ。 私達を見上げる顔から不安が見える
「もう大丈夫です。 ご迷惑をおかけしました。 ライラの方ももう問題なさそうです」
「迷惑だなんて思ってないですよ。 先生は生徒であるあなた達を護れなくて、教師失格なのですよ」
しょぼんとするサリューイ先生だが、ホブゴブリンがいるなど完全に予想のつかない事態だ
そう、あのあたりにホブゴブリンは今までいなかった。 かつて出たブラックウルフにしてもそうだ。 ホブゴブリンはこの辺りで一度も確認されていない。 ブラックウルフにしてもここまで国に近い場所での目撃は初めてだった
何かが起こっているのかもしれない。 そう考えるが私の考えだけではまだ何とも言えない。 女神様の助言を得ようにも、あの方は力を使いすぎて眠っておられるし
しばらく考えた末に先生に話を聞いてもらうことにした。 こういった話ならばビース先生がいいだろう。 バーシル先生はライラのことで手一杯だろうしな
ナリヤたちと寮で別れて早速ビース先生の元へ。 彼は大体自室にいるので見つけやすいのだが、この日はどこかに行っているようだ
次に職員室を探すがいない。 丁度職員室にいたワーズレット先生に居場所を聞いた
「あら、ビース先生なら学園長のところですよ。 何か気になることがあるとかで」
なるほど、学園長先生もいるなら話は早そうだ。 ビース先生に話せばいずれ学園長へも話は通る。 だが一度に二人と話せれば手早く済む
学長室をノックすると中から声がした
「どうぞ、リィリアさん」
なぜ、私とわかったのだろう?
「む、やはり来たか。 君もおかしいと思っているのだろう」
どうやらビース先生もこれらの事態を異常と感じていたみたいだ。 彼はそのことを学園長先生に相談に来ていたというわけだ
「さて、確かにここ数年魔物が活発化し、被害もかなり出ています。 この学園の生徒も何人か負傷しているようですし、対策しなければなりませんね。 それにしても、魔物はともかく亜人のゴブリン、それもホブゴブリンがこのようなところに出現するなど今まで前例がありません。 彼らはぐれゴブリンに何かを吹き込んでいる、あるいは悪い影響を与えている者がいるかもしれません。 卒業生やギルドに報告し、情報を集めましょう」
学園長先生は通信魔法(これも生活魔法の部類だ)で外部と連絡を取り始めた。 相手はこの国の冒険者ギルドマスターと、卒業生で最も信頼厚く、聖王様の護衛も務める騎士団長だ
「これでいいでしょう。 少し情報が集まるのを待ちましょう。 リィリアさん、あなたは寮に戻りなさい。 この件は私達で預かります」
危険なことはさせられないとばかりに私は寮へと返された。 まぁ先生方のことだ、何とかしてくれるとは思うが、どうにも不安が払拭できなかった