咲き誇るは惡の華21
その日の夜、私は夢を見た
真っ黒な、全てが本当に黒く染まった世界の中で、私は一人佇んでいた
空を見ると何かがこちらに落ちて来るのが見えた
それに向かって私は走り出す
気づくと横には数人の真っ黒な人型の何かが共に走っている
彼らと顔を見合わせるとうなづきあい、落ちて来た何かを止めるためこの世界の黒いものを体に吸収した
私達の内の一人、恐らく女性だろう姿の黒い人型が落ちて来たものを固めた拳で殴りつける
近くまで来て分かったが、それは真っ白な人型で、邪悪な笑みを浮かべて黒い女性の攻撃を受け止めている
黒い女性は真っ赤な口を開いて何事かを叫んでいるが、私にその声は聞こえなかった
その女性に続いて仲間たちが次々と白い人型に攻撃していくが、白い人型はものともせず攻撃をいなし躱す
しばらく攻防が続いたのちに白い人型が動いた
カッと目を見開くと、邪悪そのもののような笑みで体から白いエネルギーのようなものを出して、この世界を真っ白に染め上げた
そのエネルギーに飲まれるように黒い女性も、他にいた仲間も、この世界も、そして私も、消滅した
目が覚めるとケスティル様がのぞき込んでいた
「大丈夫か? ひどくうなされていたぞ」
「だ、大丈夫です。ちょっと悪夢を見たくらいですから」
「そうか、それで、もう帰るのか?」
「はい、なるべく早く聖王様に調査報告をしなければなりませんから」
「うむ、ならばこの研究調査書も持って行くといい。お主に関することを詳細に書いておいた。まだ全ては分からぬが、とりあえず今分かることだけだな」
「ありがとうございますケスティル様」
「また来い。いつでも待っておるぞ」
「はい、是非ともまた」
ケスティル様は引き続き研究をしてくれるようだ
彼女に感謝しながら私は聖国へと戻った
聖国に戻るといきなり私は聖王様に呼ばれた
まぁ会うつもりだったから丁度いいな
しかしなぜここまで慌てて私を呼んだのだろうか? 心なしか聖国内も慌てているように見える
先輩聖女に手を引かれながら聖王様の部屋へ連れていかれた
「きましたねリィリア。貴方にお客様です」
「え、そんな、なんで、なぜその子がここに…」
その客の特徴は目撃証言と完全に一致していた
真っ黒に染まった体に赤い目と赤い口腔。ニコニコと笑う温和そうな表情に、飾ってある花の香りを楽しむ可愛らしい性格
彼女は、私を見上げるようにしてこちらを向くと嬉しそうに抱き着いてきた
「え、あの、この子」
「リィリア、あなたを訪ねてここまで来たようです」
驚きすぎて思考が追いつかない
黒い少女はただ私の胸に顔をうずめて喜んでいる
彼女の顔を見ると、目には涙を浮かべている
「あの、あなたは」
「ヤトアエタ。レヴァ、ズットサガシタ。レヴァ、ガンバタ」
やっと会えた? この子は二年前にこの世界に来て以来ずっと私を探していたと言うのか? しかし今になってなぜ?
「ヤトチカラツカタカラワカタ。レヴァ、タンチトクイ。ネイト、モドテキテ」
「えっと、レヴァちゃん? でいいのですか? 何故私を探していたのですか?」
「キマテル。ネイト連れ戻す役目。レヴァイロンナトコマワタ。何億年もサマヨタ。ヨヤク見つけた。連れて帰る役目」
段々と彼女の言葉が聞き取りやすくなってくる
恐らく私と話すために恐るべき速さで学習したのだろう
「連れ戻すって、どこに?」
「どこテ、私達の世界。一度無くなったケド、アルフェイナ直した。レヴァも手伝った。ネイト、ネイトいないと世界動けない。戻ろ。戻ってまた平和に暮らすの」
「戻るって、何を言ってるんですか? 私は、人間ですよ?」
「違う! ネイトはネイト! 私の大好きなネイト! 帰ろうネイト、そんな体脱ぎ捨てて、一緒に戻ろ。またあいつが来る。あいつは私達を滅ぼす気なの! だから戻ろうよ、ね!」
言っていることが何も理解できない
戻る? それに私をネイトと呼ぶこの少女の体は、まるで私の右腕と同じようではないか
そしてあいつ、あいつとは一体何なんだ?
「記憶なくなってるんだよね? 大丈夫、レヴァが思い出させてあげる」
レヴァという少女は私の頭に自分のおでこをつけると、目の前に映像が広がった
そこは夢で見た世界
全てが黒く染まった平和な世界で、私はこの世界を狙う何かから世界を守る役目を担っていた
それは遥か遥か昔
全ての世界が生まれるよりもさらに前
黒と白があった
黒は平和を求めて世界を創り、白は全てを支配するため世界を壊した
互いの力は拮抗し、決着はつかないでいた
しかし、その日々も終わりを告げる
白にイレギュラーともいえる一つの絶対的な個が生まれた
それはあっという間に黒の領域を侵食し、ついに私達が住む世界にまでその手を広げた
そして、あの夢へと繋がる
そう、だ。全てを思い出した
そうだったんだ
私は、あの時消えるはずだったのに、どういうわけかこびりついた汚れのようにずっと何かの魂に付いて転生を繰り返していたんだ
私は、三神宗重郎であり、リィリアであり…。いや、もっと以前から私はその魂を持ち続けていた
私の本来の名は
「記憶戻ったね。さぁ帰ろうネイト」
レヴァは私に手を取るよう右手を差し向けた