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咲き誇るは惡の華17

 ゼブカブラに入ってすぐ蟲人に囲まれた

 顔立ちは人間に近いが、複眼の者が多く、体は固い甲殻に覆われていた

 見たところ蜂のような威嚇をあらわにしている姿の者、甲虫のような勇ましい姿の者、蝶のような可憐な姿の者など多岐にわたっている

 彼らは私の持つケスティル様からの書状を受け取るとすぐについて来るよう案内をしてくれた


「ケスティル様からのご紹介なら悪い人ではないのでしょう。私はペイオス。この通り国境警備隊の隊長をしています」


 そう言って話しかけてくれたのはカブトムシのような角のある身の丈三メートルはありそうな巨躯の男性ペイオスさんで、非常に礼儀正しく、その身のこなしはまるで武人のようだ

 聖王様が武人気質の者が多いとおっしゃっていたが、なるほど、確かに彼らは侍のようである

 ふと彼の腰元を見ると、不思議な形の刀のような武器が下がっていた


「おや、これが気になりますか?」

「はい、珍しい形の刀ですね」

「ええ、これは私の亡くなった父の角で作ったものなのです」

「え!?」


 死体から作られたと聞いて驚いたが、彼らにとっては珍しくないことで、鉄よりも硬い甲殻を持つ彼らは父母や先祖の体から武器や鎧を作り出し、それを着こむことで先祖と共にあるのだと認識するのだそうだ

 さらに言うと、蟲人族の甲殻は魔力を帯びており、死してもなおその魔力は失われることはなく、その甲殻で作った鎧を着れば着た者を守るらしい

 それ故にかつては様々な種族から狙われて、一時は絶滅寸前まで追い込まれたのだそうだ

 それを当時の聖王様やエルフたち、精霊の働きもあって、なんとかここまで増えることができたらしい

 だからこそ、聖国の人間は実は出入りできるらしかったのだが、現聖王様はかつて相当な実力の持ち主だったため、彼らの琴線に触れたらしい

 つまり、聖王様の力を試したいがために勝負を挑んできたと言うわけだ


「なるほど、あの頃の彼は聖王になっているのですか、いやはや、あれほどに強い人族を見たのは初めてでしたよ。彼にはいい一撃をもらいました」


 なんと、聖王様と戦ったというのはペイオスさんだったのか

 彼は気恥ずかしそうに聖王様につけられた傷を見せる

 肩口の所に大きなひびが入っていて、少し凹んでいる

 聖王様の拳の一撃でこうなったのだそうだ

 鉄より硬い甲殻を素手で…。どんな拳をしているんだあの方は


「この傷、治せるのですが、彼と戦った記念に残しているのですよ。もう一度彼と戦えたら、と思いましたが、人族と私達とでは生きる時間が違いますからね」


 そうなのだ

 私達の寿命が大体八十年、長くて百年と少しほどなのに対して、彼ら蟲人族は大体三百年ほどだ

 ちなみにペイオスさんはちょうど二百歳だそうで、この国でもまぁまぁな年長者らしい


「もう間もなく女王様のおわす城へ着きます。ですがその、女王様はまだ幼く、恥ずかしがり屋なので、その辺りはご了承いただきたいのですが」

「分かりました。善処します」

「助かります」


 城が見えてきた

 エルフ族のように木に造ってあるのだが、まるでハチの巣のようだ

 これは巣を造る専門部隊、主に女性からなる部隊が作っているらしい

 体から出る体液と泥や木の枝などをより合わせ、形を整えて作る

 綺麗な正六角形の組み合わせが正にハチの巣と同じだな

 一部屋一部屋が城に住む者たちの部屋になっており、その中心に女王の部屋がある

 ついこの間に先代女王が寿命で亡くなったので、その娘である子が女王の座に就いた

 女王と成れる者は特別個体らしく、大人までの成長が早いが、今はまだ人間で言う十二歳くらいの見た目と精神年齢なのだそうだ

 

 城に入り、歓迎されながら奥へ進むと大きな部屋が見えた

 その奥に、小さな少女が震えながら座っている


「女王様、聖国からの使者が来られました」

「は、はい!」


 緊張しているのか、彼女はピシッと立ち上がる


「女王様、私はハイプリエステス見習いのリィリアと申します」

「う、うむ、苦しゅうないでしゅ。あああああの、わ、私は、女王の、エエエエ、エイレミリナ、でちゅ、しゅ、す」


 顔を真っ赤にしながら必死で答えようとしてくれているのだが、震え声過ぎていまいち聞き取り辛い


「リィリア様、こちらが女王エイレミリナ様です」


 ペイオスさんが助け舟を出してくれた

 するとエイレミリナ様は椅子から再び立ち上がって、壇上を降り、ペイオスさんに近づくと両手を差し向けた

 その小さな女王をペイオスさんは抱え上げる


「申し訳ありません、女王はこうすると落ち着くもので」

「ぺ、ペイオス、余計なことは言わないで下さい」

「すみません女王様」


 ペイオスさんは笑いながら謝っている

 

「親子のようですね」

「親子ですが?」

「え?」

「ですから、前女王と私の娘です」

「そ、そうなんですか!? でしたら、ペイオスさん、いえ、ペイオス様は王では?」

「いえ、女王統治国家であるこの国に王などいません。私も女王の一家臣でしかありませんから」

「私は、父様って呼びたいんですけど、とうさ、ペイオスがそれを許してくれないのです」

「当たり前です。あなたは女王。私は家臣。家臣を父様と呼ぶなど沽券にかかわります」


 エイレミリナ様はうなだれるが、それがこの国の在り方なのだから仕方がないことなのだろう

 しかし悪いことばかりでもない

 女王になった者の父親は必ず女王の側近になる

 つまり、スキンシップは取り放題ということだ


「さて、黒い少女がこの国に来なかったか、ということでしたね。いいでしょう、お話しましょう」


 急にエイレミリナ様は真面目な顔になり、この国に来た黒い少女について語り始めた

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