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悪は嗤う3

 ったく、僕が行く前に勝手に…

 だがまさかあのヒツメがやられるなんて思わなかった

 あいつ、無口でいけ好かなかったけど、その実力だけは僕も認めていた

 だからこそ何かがおかしいと思う

 あいつの力は若手の虚無の中でも群を抜いてたし、皆が一目置いていた

 それだけにそんなあいつをあっさり殺したあのリィリアとかいうガキの存在がおかしいってことが分かるんだ

 そもそも僕が一世界の住人にやられたって言うのも腑に落ちないしな

 混沌の力を使ったにしてもどこか、何かがおかしいんだ

 そのことについて帰って来たハスクに話を聞いてみることにしよう


「なぁ、なあおいハスク。おいって。無視すんなよ」

「なんだよワニュ、僕はこれでも忙しいんだ。失った下半身を再生させないといけないし」

「ちょっとだけだから、ちょっとだけ話を聞かせてくれよぉ」

「はぁ、少しだぞ」

「やった」


 とりあえず場所を変えて僕らは他の虚無がいない場所に来た


「で、何が聞きたい? まぁどうせお前のことだからあの少女の力について知りたいんだろう」

「お、分かってるねぇ。さすがハスク。で、どうだった?」

「そうだな、率直な感想を言うと得体が知れない、だ」

「得体が知れない? そんだけ近くで戦っといて分かんないの?」

「ああ、分からない。何もわからなかった。それどころか、虚無である僕が恐怖を感じるほどだったよ。あれは一体何だったんだ。異放でもないあの力…。どう考えても普通じゃない。あれは、本当に人間だったのか?」

「そ、そこまでなのか?」

「とにかく、お前はあれにこれ以上関わるな。殺されて、終わりだ」


 体が震える

 恐怖じゃなくて武者震い

 誰にも言っていなかったけど、僕は死に場所を探していた

 憧れのあの人が虚無を抜けてから、僕はあの人に必要とされていない存在と分かってから、僕はただひたすらに自分の力を磨いてきた

 それもこれも、あの人を忘れるため、あの人のいない世界に未練のない僕は、ただ死にたかったんだ

 ハスクの姉であるラスアさんに、僕は恋していたんだ


「まぁそう言うことだ。その震え、やっぱりお前も恐怖を覚えたんだな。だが恥じることはない。奴の力を間近に見たのならそれは正しい反応だからね」

「あ、ああ、でも僕は行くよ。もう一度あれと戦う。そして僕は」

「ふん、君も中身はやはり虚無なんだね。だけどまあ、危なくなったら絶対逃げろ。ただでさえ少なくなってきている虚無がこれ以上減るのは、セアドール様も悲しむ」

「分かってるよ、分かってるんだそんなことは…。でも僕はこの衝動を抑えれない。抑えれないんだよハスク。ラスアさんが抜けたその日から、僕は」

「そうか、前は姉さんにべったりだったからな。ショックだったよな」

「今はもう、そうでもないよ。目的があるからねぇ」

「ふん、ほどほどにしろよ」

「わかってますって」


 嘘だ。僕は次の戦いで、あのガキ、いや、あの子に殺されるだろう

 いいんだそれで…。僕たちの生みの親である虚無の大本、セアドール様には悪いけど、僕はもう、疲れたんだ


「じゃあ行ってくるよハスク」

「うん、気を付けて」

「バイバイ」


 聞こえるか聞こえないかの声で、僕は、親友と呼べるハスクに別れを告げる

 ハスクはただ振り返りもせず手だけを振った

 君らしい

 僕はもうここには帰らないけど、せめて君にだけは僕がいたということを覚えていて欲しい

 忘れないで欲しい

 虚無は消えればそこに残るのは虚無だけだ

 記憶も、数億年単位で生きる僕らだから薄れていく

 だからせめて一人だけでも記憶にとどめて欲しい

 死を望む馬鹿な虚無がいたってことを


 これは自殺だ

 絶対に勝てないのが分かってるから自殺なんだ

 転移するための扉を開いた僕は死地に向かう

 

 くぐって目を開けると、あの子は目の前にいた


「来たよ。殺されに。さぁ僕を殺して、僕をもう、楽にして。君のような虚無を殺せる者を、ずっと探してたんだからさぁ」


 くひゃひゃ、何て間抜けな表情で驚くのかな?

 あ、手が動いた

 あああ、さようなら世界、ごめんねハスク、僕の親友

 やっとこれで、楽に…

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