咲き誇るは惡の華15
少女は目撃された場所場所で特に何をするでもなく立っていたのだが、時折人々に近づいては不思議そうに生活の様子を観察していたそうだ
特に邪悪そうな気配はしなかったらしいが、その子はセラルさんを酷い目に合わせた原因を作った人物だ。悪ではないとは限らない
ただ、人々の目撃証言として共通しているのが無邪気で好奇心旺盛な子供そのものだったということ
特に何かをされたわけでもなく、体色が全体的に黒いということだけで、本当に悪意が無いように思える
一体何を考えているのか…。そもそも何者なのだろうか? 虚無であるならば私に干渉してくるはずだが、二年もの間私の元へ来たことはない
目撃証言から行くと、どうやらインセクトイドと呼ばれる蟲人族のいる国へ向かったようなのだが、あそこはあまり他国と交流をしていないのでどうしたものか…
とにかく聖王様に報告して、それからどうするか考えるか
「待ってくださいな、蟲人族なら私の話を聞いてくれるはずですわ。少しの間リィリアの体を貸していただければ、私が説得しますわ」
「本当ですか女神様! 助かります」
「蟲人族はわたくしを崇めている者たちですからね。わたくしの声を聞けるはずですわ」
それなら女神様に任せて入国させてもらおう
蟲人族は未だ見たことの無い種族だが、見た目は人型の蟲らしい
聖王様は確か見たことがあると言っていたな
あの方は若いころから世界を旅していたらしい
一度彼の腕を見たことがあるが、傷だらけで、実は歴戦の戦士であったことがわかる
聖王様がおっしゃることには蟲人族は無口で武人気質な人が多いらしい
特に甲蟲人は聞いた感じ侍のようだ
聖王様も一度戦ったが、歯が立たなかったとおっしゃっていた
しかしその実力を気に入られ入国を許可されたのだとか
「まぁ、私が話せばきっとすんなり通してくれるはずですわ。任せなさいな」
「はい!」
自信たっぷりの女神様
しかし女神様の自信はあっさりと砕かれた
数日後、私は再びダークエルフの国まで来ていた
前回は入国前にあのような事態になってしまったが、今度はようやくダークエルフたちに会える
いやまあ聖都にもいたから初めて会うわけではないが、自然と共に暮らすダークエルフか
普通のエルフと違い闇の精霊に愛されている彼らと交流を持てることが少し嬉しい
「待て、お前は誰だ」
急に後ろから声をかけられ、槍の切っ先らしきものを突き付けられる
「あ、あの、エルフの方にお話は聞かれていると思うのですが…。聖国の」
「おお! 貴殿がそうであったか。すまない、つい先日この辺りで大きな力の流動があったもので警戒していたのだ」
「ああ、それなら私が退治しましたのでもう大丈夫かと」
「なんと真か!? ふむ、聖国の聖女は優秀だと聞いていたがここまでとは…。いやはや重ね重ね失礼を。では案内するのでこちらへ」
ダークエルフの青年。彼の名はプレトというらしい
やはり普通のエルフと同じく美しい顔立ちをしているな
彼はかなり話好きなようで、どうちゅうずっと話しているのだが、中々に面白い話なので聞いていて飽きない
自分の失敗談やら失恋話などを織り交ぜてくる辺り裏表がなく、好感が持てる
「おっと、すっかり話し込んでしまったな。君のような少女には少しつまらない話だったかもしれん」
「いえ、面白かったですよ?」
「そ、そうか、それならよかった。さて、ここは我らが国長のおわす樹霊の館だ。国長は非常にフランクな方なので気負いせずにな」
「はい、ありがとうございます!」
プレトさんは私の頭をポンポンとすると去って行った
ふむ、悪くないものだ
館に入ると数人の国長付きのダークエルフが国長の元まで案内してくれた
こっちは大分無口のようだな
そして肝心の国長だが…
この方、いや、この子が?
「うにゅ、わらわを見て子供だと思うたな? わらわは魔力が強すぎて成長が遅いのじゃ。こう見えて齢五百を超えておるわ!」
「いえ、その」
「良い良い慣れておるからの。わらわの名はケスティル・マールホーンじゃ! して、先の報告にも書いた通りじゃがの、目撃証言はあれで全てじゃ…。それにしてものぉ。お主、なんなのじゃ? 人間? いや、人間にしてはおかしな力を持っておるの。なぁなぁ、お主しばらくここに滞在する気はないか? その力、わらわに見せておくれよ」
「すみません、どうしても行かなければならない場所がありまして」
「蟲人族の国じゃろ? それならもう話はつけてある。数日後に向かうと言っておいたからの」
「え?」
どうやらすでに先手は打たれていたようだ
女神様が私の中でがっくりしていたが、今はそっとしておこう
とりあえずはこの国に滞在することが決まったので、私はケスティル様本人の案内で部屋に通された
かなり手入れされており、客人としてもてなされているのが分かる
「食事はすぐにでも用意できるがどうする?」
「あ、はい、あいえ、そこまでお世話になるわけには」
「良い良い、わらわが引き留めたのだからこのくらいはさせてくれ」
というわけで私はすぐにケスティルさんと共に食事をとることになった
彼女はウキウキしている。相当に気に入られてしまったようだな