咲き誇るは惡の華14
「少しの間夢を見ていたようでした」
レニさんは目覚めた瞬間そう言い放った
まだ意識ははっきりしていないのか目は虚ろなのだが、体調は指が一本欠けている以外問題ないようだ
その指も婚約指輪付きだったため回収してあり、氷魔法で冷凍してあるからすぐにでもラタリウスさんに見てもらえれば治るはずだ
「リィリア、私が死んだと思ってこんなになってしまって…。その手は、大丈夫なのですか?」
「はい、元の右腕は消し飛ばされてしまいましたが、この黒い腕も案外に使い勝手がいいですよ遠くのものを引き寄せれるみたいですし」
そう言いながら水の入ったコップをその黒い腕から出る何かで引き寄せてレニさんに渡した
「すごいわね。力の流れも感じないのに、一体どういう原理なのかしら」
確かに分からない。超能力、とも思ったが、超能力と言うのは気力と魔力の合わさったような力の流れがあるのだが、この力は何も、本当に何も感じれない
レニさんも不思議そうにその手を触ってみている
感触は普通の皮膚より少し硬く、触る度にモワモワとした黒い靄が出ては消える
特に悪い影響もなさそうなので大丈夫だろう
「あ、目が覚めたのねレニ」
扉を開けてコルティさんが入って来た
目を腫らしていたので泣いていたのだろう
その後ろからフェイさんも食事を持って入って来た
「よかった、思ったよりも元気そうで」
「はい、ですが、大切な婚約指輪と、それをつける指が…」
「レニさん、それなら冷凍保存してあるのですぐにラタリウスさんの元へ向かいましょう。彼女なら恐らく治せるはずです」
「本当!?」
途端に顔を輝かせる
もう体も大丈夫そうなので調査をいったん打ち切ってからラタリウスさんの元へ向かうことにした
調査は引き続きエルフたちがしてくれるようだ。ダークエルフたちとも連携が取れたようで、ダークエルフも黒い少女の行方についてはエルフ族全体に関わりそうな問題だと快く了承してくれたようだ
「とにかく、あなた達はしばらく療養した方がいいわ。リィリアちゃんも、その手、しっかりと見てもらいなさい」
「はい」
ラタリウスさんが見て分かるとも思えないが、それでも私の腕の傷を見てくれるかもしれない
そう言うわけで私はレニさんを連れて、また聖国に戻ることになった
「ごめんねリィリア、私のせいで」
「いえ、レニさんが無事だったから、本当に、よかったです。もし死んでいたら私は、あのまま元に戻ることができなかったかもしれません」
「やはりあれは夢じゃなったのですね。あなたのあの姿…」
「すいません、怖がらせてしまいましたよね」
「いいえ、心配なのです。もしあなたがあのままだったらと思うと…」
私はレニさんに全てを放してしまいたい気持ちを抑え、一緒に聖国にあるラタリウスさんの元へと戻った
ラタリウスさんは相も変わらずマイペースで少し安心する
「なるほどな、そっちのカトンボの指を引っ付けちまえばいいってわけか? いいぜ、簡単だしな。ほれ、手だしてみ」
「お願いします」
レニさんが手を出すと冷凍しておいた指を見てすぐに縫合し始めた
壊死した部分をラタリウスさんの魔法で再生させながらの縫合、見惚れるほどの技術だ
「ほれ、動かしてみ」
「はい」
レニさんがゆっくりと指を動かしてみた
「す、すごいです。痛みも傷ももうないですし、どのような技術でこんな」
「ふむ、コウロギにもわかりやすいよう教えてやる。俺が今縫合に使った糸は特別製でな傷口を元通りに細胞レベルで繋ぎ合わせる代物だ。抜糸も必要ない。だから傷も残らねぇ」
素晴らしい技術だった
彼女も日々研究しているようで、その技術はメキメキと上達しているらしい
そして彼女は将来について語ってくれた
「まぁなんだ、こんなちっこい診療所からそろそろ出るべきなのかもな。だからよ、聖都の方で診療所でも開こうと思ってんだ」
「それは何と素晴らしいのでしょう! 貴方の技術があれば多くの方が救われるはずです」
「そこでだ! リィリア、お前に俺の助手になりそうなやつを見つけて欲しい。なに、すぐじゃなくていい。手が空いてる時でいいんだ」
「分かりました。では聖王様にそう伝えてみます」
「おお、頼むわ」
これはなんとも素晴らしいことではないか
人間不信だった彼女にようやく心境の変化があったのか。何がきっかけかわからないが、いいことだな
「よし、そうと決まれば引っ越しの準備だ。忙しくなっからしばらくこの診療所は休む。まぁ急患なら見てやるぜ」
「はい、わかりました」
ウキウキしているラタリウスさんはそのまま準備を始めてしまった
レニさんももう大丈夫のようなので、二人で聖都に戻り、これまでの報告をしておいた
聖王様もエルフたちが協力してくれることに喜んでおられる
それと、ラタリウスさんがここで診療所を開くことも喜ばれていた
ちなみに私の腕についてはやはり何も分からなかった…
それから数日経って、ダークエルフから書状が届いた
どうやら黒い少女についての目撃証言をまとめたものらしい
それを読み進めているうちに私はある共通点を見つけた