聖乙女生まれる13
まずはゴブリンを取り囲んで逃げ道を無くす。 当然相手は抵抗しようと武器を構えるが、すでに呪文を唱え終わっていたナリヤが魔法で腕ごと武器を吹き飛ばした。 牽制は成功である
腕を落とされたことで戦う意思がなくなったのか、逃げようと辺りをキョロキョロと見渡して悲鳴のような声をあげた。 逃げ道を塞がれて焦っているのだろうか
「アクアバレット!」
そこをセリセリの銃撃が撃ちぬいた。 一撃で心臓を撃ちぬいているあたり、セリセリの狙撃精度と威力がうかがえるな
あっさりとゴブリンを倒した私達は少し調子に乗っていた。 まさか一転の大ピンチとなるとは思わなかった。 これは私の不徳の致すところだ
倒れたゴブリンの討伐証明として耳を切り取っていると、周囲の茂みが揺れて10匹ものゴブリンが私達を取り囲んだ。 そのどれもがいやらしい笑みをこちらに向けて涎をたらしている。 私達を性を満たすための道具としか見ていないのがよく分かる
「こ、こんなに…。 さっきの悲鳴って仲間を呼んでたってこと?」
ナリヤはそれでも冷静に敵の状況を分析しているようだ
「囲まれましたよぉお! どうすればいいんですかぁあ!」
ライラは恐怖で震えているが、私はそっとライラの肩に手を置いて安心させ、私の後ろへやり、三人で守るように囲んだ
じりじりとにじり寄ってくるゴブリンたちの手つきがいやらしい。 早々にご退場いただこう。 今世からな
「ブレイブスタイル!」
弓を分解して二刀の剣に変え、ゴブリンに向ける
「瞬撃、十連斬!」
ゴブリンの眼では絶対に捕らえられないであろう速度で走りながらゴブリンの首を斬りつけていく。 急所である頸動脈の場所は人間と同じ。 値踏みしていたため油断していたゴブリンたちは成すすべなく喉を掻き切られて絶命していった
だが一匹だけそれを防いだ者がいる。 奴は他のゴブリンと体色が違っており、体格も少し大きいように見える
「小娘の癖に、なかなかやるな」
相変わらず醜悪な顔をしているが、そうか、話しをする個体もいるということか。 体色や大きさを見るに恐らくホブゴブリンか。 そうなると実力はDランク。 少し厳しい相手かもしれないな
「だが俺にはお前の動きが見えている。 おとなしく掴まれば優しくしてやるぞ?」
だめだ。 不快感と嫌悪感が尋常ではない。 私だけではなく友人たちにまでその目を向けているのが許せない
「クレアスラッシュ!」
ナリヤの剣技がホブゴブリンの耳を少し切り取る
「おっと、あぶねぇなクソガキが!」
手を伸ばしてナリヤの腕をつかみ、引き倒してその頭に脚を乗せた
「う、ぐぅ」
「武器を捨てろ。 こいつの顔がズタズタになって二目と見れない顔にされたくなかったらな」
ナリヤの頬にナイフを押し当てている。 仕方なく私達は武装を解除して下がった
「よし、おい! こいつらを縛り上げろ! 今日は大豊作だぜ」
しまった。 まだ伏兵がいたのか。 ナリヤを人質に取られている今救難魔法を使うわけにもいかない。 ここはおとなしく従って隙を見て逃げるしかない。 ひとまずナリヤを助け出さなければ…
こういった事態を経験したことのない私はこの時明らかに焦っていた
「洞窟に帰ったら早速味見と行くか。 お前らには俺たちの繁殖を手伝ってもらうぜ? 今殺された奴らの倍以上は産んでもらわないとな」
ゴブリンの繁殖率は異常に高い。 人間相手ならば数週間で赤子が生まれるらしい。 とにかく洞窟に着くまでに何とかしなければ、連れ込まれれば多勢に無勢で恐らく助からないだろう。 幸い今いるゴブリンの数はホブゴブリンを含めて7人か。 縛られているロープはマジックアイテムではないな。 こちらの魔法は封じられていないということになる。 加えて私は無詠唱で魔法を放てる。 とにかく隙を見つけなければ
ゴブリンたちは周りの警戒を怠らずに周囲を見張っている。 それに私達への監視も緩めない。 よく統率がとれているようだ。 だが
私は無詠唱で魔力を練り上げ、風の弓を作り出して、気づかれないようにゴブリン七人の頭上に配置すると一斉に放った
この作戦は半分成功だったと言える。 ホブゴブリン以外は直撃を受けて弓に頭を貫かれ、絶命した。 しかしこのホブゴブリン、危機察知能力でもあるのか、死角からの一撃を綺麗にかわした
「わかった。 お前はこの場で凌辱しつくして殺してやる」
ホブゴブリンは怒り、私に向かって走るとナイフで斬りつけてきた。 手足の腱を狙っているようだ。 動けなくしてから私を凌辱するつもりなのだろう
だがどこを狙っているのか分かれば対処しやすい。 こちらは無手だがうまくナイフをいなし、逆に一撃をホブゴブリンのみぞおちに入れた
「ぐお! もう許さねぇ!」
ナイフを無茶苦茶に振り回し始める。 こういう時暴れられるとなかなかに避けにくい。 こちらは手を縛られている状態だ。 ギリギリで躱し、転びながらもなんとか体勢を立て直して反撃の手立てを考える
しかしナイフは私の右腕を深く斬りつけ、骨まで達するような傷をつけた
「ああ!」
痛い。 生前殺された時は一瞬だったが、この傷で即死はできない。 つまり痛みが継続して襲ってくるのだ。 あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、それでも攻撃を躱さなければ二度目の死が訪れる
「リィリアちゃん!」
その時ライラが後ろからホブゴブリンに体当たりをかました。 そのおかげで奴の体勢が大きく崩れる
「フレア!」
無詠唱で中級魔法をホブゴブリンの頭に直撃させる。 さすがにこれは避けれず、頭を失ったホブゴブリンはその場に倒れた
「た、助かった…。 ありがとうライラ」
お礼を言おうとふとライラを見ると、彼女の腹部に深々とナイフが突き刺さっていた。 体当たりの時もみ合い、奴のナイフが刺さってしまったのだろう。 私はすぐにそのナイフを引き抜くと、ライラの傷口に治療を施した。 天使の左手のおかげですぐに治ったのだが、私はその場で気を失ってしまった。 右手の出血が激しい。 このままでは失血死をしてしまうだろう。 それは分かっているのだが、意識は途切れてしまった