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悪は嗤う2

 ヒツメが消滅したと聞いた時、僕はどんな顔をしていいのやら分からずに首を傾げた

 あの子は今まで誰かに負けると言うことはなかった

 積極的に戦っていたわけじゃないから、ただ任務を淡々とこなしていただけだから、本当に強い虚無とは戦ったことが無いんだけど、それでも、世界を着実に虚無へと変えていた実績がある

 あの子は嗤わない子だった

 何の表情も浮かべず、言葉も少ない彼女だったけど、僕は彼女に焦がれていた

 恋ではなく、単純な憧れ

 いつか僕は彼女と共に…。一緒になるものだと思っていたんだ

 でも彼女は消えた

 消えたということはこの虚無の世界での復活もあり得ない

 本体ごと消滅したんだから

 不思議と涙が出た。止まらない…

 こんな時姉さんがいてくれれば相談出来たのに、あの人はマセルと共に虚無を抜けてしまった

 マセルは数十億年以上も前に虚無と袂を別った者

 その名はタブーとされているけれどよく覚えている

 だって姉さんが恋した男だから

 でも、あいつについて行ったせいで姉さんは死んだ

 あいつさえいなければ、姉さんも、そしてヒツメも死ぬことはなかった

 あいつが力を与えたから、ヒツメはその力に殺されたんだ

 だから僕は、あいつとヒツメを殺した子供を許さない 


「ハスク、知っての通りヒツメがやられた。一人で行かせた俺の采配ミスだ」

「いえ、ザイさんのせいではないです…。僕がいきますよ。このままじゃワニュも殺されかねないですし」

「ああ、頼む。ラスアの弟であるお前なら、奴を倒すことができるだろう」

「姉さんはマセルを愛していた。だからこそ許せないんです。ザイさん、僕はやりますよ。必ずマセル一派も、あの子供も、そしてすべての世界も、無に帰してやります」

「それは、構わないが、あの少女は得体がしれん。虚無の力や秘神の力だけではない何かがあの少女にはある。気をつけろ」

「はい!」


 あの少女は今あの世界をぐるぐると蠢いているようだ

 まるでその世界を守る守護者のように別世界から来る者を警戒して、見つけ次第屠っている

 僕はその様子を見ながら気づかれないよう少女の蠢く世界へ降りた

 まずはあの少女から消さなければならない

 ニヤリとした笑みを抑えられない

 結局僕も、消すのが楽しいのかもな

 ヒツメや姉さんが消えたのは確かに悲しいけれども、根本的に僕はやっぱり虚無なんだ

 だからこそ虚無空間に惹かれるんだ

 今は、この世界を消したくてたまらない。あの少女も、マセルも、何もかも全てを虚無に帰してしまいたい

 ああ、僕は今幸せを感じている

 リィリア、君は一体何なんだい? その興味と、それを壊してしまいたい衝動、そしてヒツメを消したその力への渇望

 ずっと乾く僕達を満たせるのかもしれない君は、今僕の前にいた


「グガルルルルル」


 ケモノのような咆哮をあげる君は僕を敵として正しく認識しているようだ

 右腕だけが黒かったはずが、その黒は少しずつ彼女を侵食して周囲の景色をゆがめている

 やはり分からない。彼女の力の正体が分からない

 こんな力は知らない。異放の力でもないこの力は、一体どこから来たんだ?

 興味は尽きないが、今は彼女の一挙手一投足を見逃さないようにしなければならない

 一瞬の油断が僕という存在を消すのには十分な時間

 彼女は泣き出しそうな顔をこちらに向けて黒い右腕を振る

 周囲に何の被害もなく、僕の腹部の一部がちぎれ飛んだ

 驚いた。この世界に何の影響も与えない力だったのか

 いや、虚無にのみ行使される力なのか?

 何にせよ分からな過ぎて笑えて来る

 

「アハハ、ハハハハハハ! 何なんだよそれ! 何やってるのか全然わかんないよ!」


 腹部の傷はまったく治らない

 普段ならこの程度数秒もあれば塞がるのに

 なるほど、本体をやられてるってわけなのか

 まいったな、これは、僕じゃ無理だ

 なにしろ攻撃手段が分からないんだから

 あの手を振る動作は一体何なんだろう? そこから攻撃が出ている気配だってないんだからね

 ここは、逃げるしかないようだ

 だが、逃がしてくれるか?


「グルァアアアアア!!」


 再び右腕を振り上げる動作をしたので、好機とばかりにこの世界から移動した

 安心してふと下半身に違和感を覚えたので見てみると、ごっそりなくなっていた

 空間を越えて来たのか、今の攻撃は

 分からない。何が起こってるんだ?

 これ以上追ってくる気配はない

 逃げなくちゃ


 僕は逃げた

 そうかヒツメ、君も、これにやられたんだね

 やばい、笑いが修まらないよ

 あの子に僕は恋していた

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