咲き誇るは惡の華9
翌日、回復した王と王妃、それにセッディちゃんにまたも感謝された
自分たちは死んだものだと思ったのだ、当然だろう
一つ心懸かりなのがセッディちゃんに植わってしまった恐怖、つまりトラウマだ
姉を人質に取られ、自分は首の骨を折られたのだ。死に対する恐怖が克明と刻みつけられている
ちょっとやそっとではこの心の傷は治らないだろうが、私は彼女と何度も合うことでその傷を取り除きたいと考える
幼いが強い彼女ならば必ず乗り越えられると信じよう
震えが修まらないセッディちゃんをしっかりと抱きしめると、彼女もギュッと私を抱き返してくれた
「リ、リィリア、我と、お、お前は親友なのだ。必ず、また来るのだ」
「はい、必ずまた来ます」
セッディちゃんは満足そうに微笑むと私から離れ、両親に寄り添いながら手を振った
強い子だ。普通なら部屋に籠って出てこなくなってもおかしくないだろう
私は、まだまだ無力だ。彼女や王たちを危険にさらしたのだ。もっと力をつけなくては
「それでは、失礼いたします」
「ああ、私達を救っていただきありがとうございました」
王が深々と頭を下げると、王妃、セッディちゃん、セラルさんもこちらに頭を下げた
私も同じように頭を下げるとバルガー王国を後にする
しかしまたすぐに来ることになるとは、私も予想していなかった
聖国に戻って数日、私達はつかの間の休息を楽しんでいた
この休日が終わればナリヤはまた勇者としての仕事に戻り、私はハイプリエステス見習いとしてレニさんと共に旅に出ることになっていた
ライラ、セリセリは聖女として他国に行く予定となっている
それと悪魔のヨローナ、魔王カレアナ、魔人アエトの三人はここでの生活が認められているので、三人で店を開くことにしたらしい
なんでも悪魔飯店というらしく、辛い料理がおススメなんだとか
何にせよ平和的で喜ばしい限りだ
休みも終わり、私はレニさんと共に旅立つことになった
両親に行ってきますと別れを告げて、レニさんの後をついてく
25歳のレニさんはほぼすべての聖魔法を使える他に、槍術の達人だと聞く
一体どれほどの鍛錬を積めばそこまで強くなれるのだろうか
確かに私も昔に比べればはるかに強くはなっているだろう。しかしながらレニさんのように洗練された動きはできない
これはやはり何度も戦闘経験を積むしかないのだろうな
「どうしたのリィリア? あ、お母様がこいしいのでしょう? いくら大人びているとは言ってもまだ小さいものね。ほら、わたくしをお母様だと思っていいのですよ?」
「あの、それは、ちょっと」
大きな胸を揺らしながらレニさんはこちらに手を広げるが、それは遠慮しておいた
魅力的ではあるが、それはさすがに恥ずかしいしな。大きな街道ゆえに人目もあるし
で、である。今どこを目指しているのかというと、またも獣人国バルガーだ
そう、例のセラルさんを飲み込んだ磁気嵐のようなものを調べるためである
今まで自然現象にしてもそのように人が別の場所に転移させられてしまうようなことはなかった
それは女神様にも言質は取れている
ただ女神様が言うには、この磁気嵐は別世界からの扉が開いた時の現象に似ているらしい
ということはこの世界に何かが来たと言うことなのだろうか?
その時たまたまいたセラルさんが巻き込まれたのかも知らない
普通なら意志の弱い者がそれに巻き込まれれば、体がバラバラに分解されて死ぬか、次元の狭間に残され永遠に彷徨うことになるらしい
セラルさんは意志が強かったため記憶を無くした程度で済んだのだろうか?
再びバルガーに到着すると、数日ぶりの王と王妃、それにセラルさんとセッディちゃんに会う
四人供比較的元気そうだが、セッディちゃんはまだ夜寝る時に悪夢を見たり、寝小便が再発してしまったようだ
こればかりは、時間が解決してくれるのを待つしかない
それにセラルさんがセッディちゃんと一緒に寝ているので少しは落ち着いてきているようだな
「そうですか、それは助かります」
「ええ、ではわたくし達は調査に向かいますので案内をお願いできますでしょうか?」
「わかりました、フレドをここへ」
「ハッ!」
近衛兵の一人が部屋を出ると、セラルさんと共にその調査に向かったフレドという一般兵を連れ立って帰って来た
彼はまだ幼さの残る少年だが、剣術の腕前は新人の中ではとびぬけているらしい
「フ、フレドです!」
彼は始終緊張してどもっていたが、その説明を要約すると、強力な魔力の膨れ上がりを感じた宮廷魔導士その場所を特定し、調査隊が派遣された
その時指揮を執ったのがセラルさんで、その調査隊の中にフレドさんもいたようだ
そしてセラルさんは、磁気嵐に飲み込まれそうになったフレドさんをかばって飲み込まれ、聖国の村付近まで飛ばされたのだ
話しはそれだけなのかと思ったが、ここ数ヵ月でフレドさんは思い出したことがあったらしい
それは、磁気嵐の中に誰か人の姿が見えたというものだった