咲き誇るは惡の華4
隣国ビルカルト、ここは人間族主体の国だが亜人も数多く住んでいる
治めるのは人間族の王で、その妻は翼人族の姫だった人だそうだ
この国の東には翼人族の国があり、お互いに非常に有効な関係を築けていると聞く
王も王妃も非常に仲睦まじいようで、かなり平和な国だな
ここから獣人族の国へ向かうための空輸があるのだ
空輸とは言っても荷物だけではなく、人も運ぶもので、翼人族の御者がグリフィンを引いてくれると言う面白そうなものだった
「すっごい! 自分たちで飛ばなくていいなんて楽ちんね」
「そうですね、姫、こちらへ、私とナリヤの間へお願いします」
「もう、姫はやめてほしいな。私全然実感ないんだから」
「すみません。ですがあなたは一国の姫、無下にすることなど」
「硬いぞお前! お姉さまがいいって言ってるんだからいいのだ! それと、私のこともセッディと呼ぶがいいぞ。お前はお姉さまを見つけてくれた。椅子からトモダチに昇格してやる! ありがたく思うがいい!」
「それは、ありがとうございます」
「ほれそれだ! 敬語は止めるのだ!」
「はあ、わかったよセッディちゃん」
「ちゃんはやめろ!」
「はいはいセッディ」
「うむ、それでいいのだ」
ふぅ、やっぱりこの子はわがままだ
だが、友達と言うのは悪くない
彼女も喜んでいるようだし、ここは言う通りにしておこう
セラルさんもニコニコとその様子を見守っている
「あ、もう出航するみたいですね。グリフィンがこっちに来ますよ」
ライラが指さす方を見ると、大きなグリフィンがクルクルという鳴き声を出しながら、翼人族の男性に頭をスリスリと寄せているのが見えた
可愛いではないか! 可愛いではないか!
グリフィンは幻獣種という魔物とは違った生物で、こうして心を通わせれば非常にいいパートナーとなるらしい
さらには強さもAランク越えなため、空の魔物なら竜や龍でもない限り大丈夫だと言う
まぁ竜や龍が出ると言うなら私達が対処するがな
やがてグリフィンに手綱と人の乗った馬車のような乗り物が繋がれて、御者の男性がグリフィンの首元を撫で、何事かを話す。するとグリフィンはクアァと嘶いて嬉しそうに尻尾を振った
可愛いではないか! 可愛いではないか!
コホン、少し興奮してしまったようだ
私の中で女神様も笑っておられる
「リィリアは動物が好きなのですわね」
「べ、別に好きというわけでは」
「あら、隠さなくてもいいですのに。わたくしにはよーくわかるのですわよ?」
そうだ、女神様はフェニキアちゃんのときのことも見られているのだし、別に隠すこともないな
そう、私は可愛い動物が好きすぎるのだ
このグリフィンの目! 嘴! モフモフとした羽毛!
どれをとっても控えめに言って最高ではあるまいか?
興奮抑えられないのがセラルさんやライラ達にもばれたようで、彼女たちにも笑われてしまったが、何を隠すものか、もう私はこういうことでは我慢しない
御者の男性に少し頼んで触らせてもらうことにした
「ハハハ、グリフィンが触りたいだなんてお嬢ちゃん通だね。この子の良さが分かってくれてお兄さんも嬉しいよ」
「同士!」
二人で握手してグリフィンの体毛を触らしてもらった
思った通りの柔らかな手触りに私はうっとりと目を閉じ顔をうずめた
この幸せに浸っていたいと思ったが、そうもいっていられないため名残惜しくも離れた
「お嬢ちゃん、好きならまたいつでもおいで。ファナスも喜んでいるみたいだし、また触らせてもらえるよ」
「本当ですか!?」
「うん。ここに来たらまた来なよ」
「はい! 是非とも!」
そんなやり取りを終えて私は馬車のような乗り物に乗り込んだ
うーむ、馬車のような乗り物と言うのは少し長いので空馬車とでも呼ぶか
「では発射します! シートベルトをしっかりとお閉めになってくださいね」
御者はそう言ってグリフィンのファナスちゃんを撫でた
ファナスちゃんはまた嘶いて翼を広げ、空を駆けるように飛び始めた
始めは結構なGがかかって苦しかったのだが、やがて安定し、気持ちのいい浮遊感に変わった
「これから5時間ほどですかね?」
「そのはずだぞ、なぁじぃ」
「はい姫様」
「フフ、セッディちゃんは空が好きなの?」
「そうだぞお姉さま! 昔からお姉さまとこれに乗ってたではないか!」
「そう、なのね。またこうやって、セッディちゃんとの思い出を作らなきゃね」
「うん!」
ほほえましい姉妹のやり取りを皆がら空馬車に揺られ、空の景色を楽しみつつ時折船をこいだりもした
それから二時間ほどが経ったとき、セッディちゃんにとてつもなく大きな危機が訪れたのだ