蠢くは悪の意思39
エススが言うには私はまだ完全にはこの力を操り切れないらしい
例えば時間を止めれるのも数秒、進めたり戻したりするのも数秒、しかも一度使えば数時間は動けなくなると言う諸刃の剣だ
それでも、この力で何とかするしかない
私はエススに言われるがまま言葉を紡ぎ、力の流れを感じた
「はんっ! そんな借り物の力で僕を殺せるとか思ってる? 神でも僕は殺せない。闇でも、混沌でも、僕らは絶対殺せない。ククハハ、お前はそれでも僕に向かってくると言うんだね?」
「ええ、あなたが危険だと言うことは確かですから、ここで確実に止めさせてもらいます」
「やってみろよ蛆虫風情が!」
私の言葉に怒りをあらわにした虚無の少女はビキビキと顔に血管を浮き上がらせながら私に襲い掛かって来た
他の者には目もくれていないようだ
まだそこまで本気を出していないのか、目視で確認できる動き
人形を繰り出してくるのだと思ったが、その人形も地面に放り出してどこから出したのか棒のようなものを振り下ろしてくる
瞬時にその棒に触れれば死ぬと判断して躱した
棒が地面に穿たれてその部分からサラサラと砂状に崩れる
「ふん、このくらいは当然避けるか。目はなかなかにいいようだけど、少し速度を上げてみるか」
少女の速度が上がる
まだ何とか目で追えるが、明らかに動きが変わった
棒からは何か流動する波のようなものが出始めている。恐らくだがこの波に触れれば同じように分解され、砂になるのではないだろうか?
ウェーブはこちらの力で何とか打ち消すことができた
「ほぉ、興味深い。虚無とは逆の力を操っている? そうか、そう言うことなのか。でももう少し見させてもらおう」
「一体何を言ってるんですかあなたは?」
「気にすることはない、こっちのことだ。お前は僕と戦ってればいいんだよ」
どうにも彼女の様子がおかしい。先ほどとは打って変わって手加減をし始めている
さらには時折ケラケラと笑い楽しんでいるかのようだ
棒のウェーブはなくなり、するりと棒を消して今度は身の丈よりも大きな剣を振り下ろした
その振り下ろした場所に大きな爆発が起きる
「うん、このくらいでいっか。さてリィリア、君のことを少し僕は見くびっていたみたいだね。ただそれが正しいのかどうかを見させてもらおう。ククハハ、楽しくなりそうだ。君がその力をどう使いこなして見せるのかがね。まずはその力、解放させてもらう。君は、こちら側に来るべき者だから!」
大剣を振りぬくと空中が連爆を起こしてチリチリと肌を焼く
二撃、三撃と交わしていたが、周囲は既に燃え盛りヨローナとナリヤを避難させておいた
二人だけの空間になったこの場所で、戦いは続く
悔しいが遊ばれている。私にも、あのような力があれば、こいつに勝てるのに…
そのさなか、何かが私の感情を塗りつぶすような感覚がした
これは、あのときと同じ感覚だ
必死に抑えようとしたがどんどん感覚が広がっていき、私を塗りつぶした
“嫉妬”
羨ましい、あの力が羨ましい
羨ましくてどうにかなりそうだ
「それだよ! そうか! なるほど、君には素質があったのか! 僕らの全てを宿せる、全てを虚無に包む力が!」
「アアアガアアアア!!」
何も考えられず、ただやつを殺して力を奪ってやりたいという欲求が膨れ上がり、頭が嫉妬で満ち満ち黒く黒く染まった
だがそれを心地いいと感じる自分がいるのだ
「嫉妬する君はなんて可愛らしいんだ。そうだそれでいい。あいつらもいい仕事してるじゃない。掘り出し物だよ君は!」
「妬ましい! お前のその力! 私に寄こせぇええええ!!」
私が手を伸ばすと、まるでブラックホールのように手から黒い靄が出て少女の体を吸い寄せた
「なっ! もうこんなに力を! やめ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
力が私の中に流れる込んで奪えていると感じた
満足はできない。こいつの力を全てもらうとしよう
「駄目だリィリア! その力を止めるんだ! チーチー! 力を遮断してくれ!」
「分かったでござる!」
急に少女からの力の流入が止まった
ふと見ると、私の前で白くなった虚無の少女が転がっている
力を吸いつくされたのだろう、ぴくぴくと痙攣していた
「う、そ、僕が、力を吸いつく、され…。ぐ、う」
途端に体中に激痛が走って私も倒れた
あまりにも激しい痛みで意識が保てず、そのまま気絶する
「ごめんリィリア、君の力を止めることができなかったんだ。まさか奴がその力を増幅させるとは思いもよらなかった」
「いいんです、こうして止めてくれたんですから」
結局彼の力を使うことはなかったが、彼のおかげで虚無の力から逃れることができたのだ
そしてまたその黒い力を私の中から取り除いてくれている
虚無の少女はどうなっただろうか?
全ての力を私が吸い取ったのだ、無事ではいないだろう
黒い力を取り除かれながら私は眠った
くふっ、そうか、見つけたんだ、ようやく
これは報告しないと
ククハハ、ああ、楽しいなぁ
力が、僕の力がすっかりなくなっちゃったよ
助けを、呼ばないと。クハハハ、ククハハハハハ!
白く色の抜けた少女は霞のようにその場から消えた