聖乙女生まれる11
どうやら最初の課外授業は少しの混乱はあったものの、皆無事に終えたようだ。 それにしても先生方があれほどに強いとは…。 まぁそうでなければ生徒を守れないということか
「ひぃふぅみぃ…。 生徒たちは全員集まったようですね。 誰も怪我はありませんか?」
ワーズレット先生が生徒の人数を数えて再度怪我がないか確認している。 まぁこういった現場では心配性なくらいがちょうどいいだろう
「みんなよくやったな。 今の感じをよく覚えておくように。 魔物はそれこそ神出鬼没だ。 街道に出ればいついかなる時でも警戒しておくんだぞ」
ビース先生はそう言って今日の授業をしめた。 さすがの私も少しだけ疲れたのでゆっくり休もうと思う。 帰ったら共同だが大浴場の浴槽にゆっくり浸かるとしよう
「あの狼、怖かったわね」
「うんうん、セリセリもそう思うのですよ。 あんなのもう会いたくないのですよ」
口々に先ほどのブラックウルフについて語る。 私にはただの大きな狼にしか見えなかったが、あれには恐ろしい能力があったらしい。 眷属のレッドウルフが周囲にいる時のみ発動させることができる力で、レッドウルフのいる場所へと瞬間的に移動できるという能力だ。 確かにそれで移動されていたら子供達がいくら逃げようとも追いつかれ、喰い殺されていたかもしれない。 私の無詠唱での魔法でも間に合わなかっただろう。 そう考えると先生方が真っ先にリーダーではなくレッドウルフを全滅させたのも頷ける
学園へ帰ると学園長と聖王様が立っていた。 ブラックウルフに襲われた連絡を受けて子供達の様子を見に来たようだ。 まぁみんな元気で歌を歌いながら帰ってきているからホッと胸を撫で下ろしているようだが
「大丈夫でしたかな? ビース先生」
「はい、問題ありません」
問題は、確かになかったな。 素早い殲滅と子供へのケア、見事としか言いようがない。 私もいずれ指導者となったときに見習うべきだろう
さて、今日の授業はこれで終わりだ。 大浴場で汗を流すとしよう。 そう思い向かおうとするとやはりと言うか三人もついてきた
「お風呂ですか? 私も行きます」
「セリセリもー」
「私も行っていいかな?」
構わないが洗いっこなどは勘弁してもらいたい。 私にも恥じらいという考えくらいはある
「じゃぁ一緒に行きましょうか。 まだ時間は少し早いですけど大丈夫でしょう」
今は昼すぎ、この時間だと誰も入っていないだろう。 つまり私達の貸し切りと言うわけだ
一旦部屋に帰り、入浴の準備をしてから大浴場へ向かう。 ウキウキしている三人は何なのだろう?
「こっちのお風呂に入るのは初めてです~」
つまりはそのウキウキ感だったということだ。 この学園には大浴場とは別に寮ごとの浴場がある。 私達は普段そちらを使っているのだ。
どちらを使ってもいいが、大浴場は上級生たちが使うことが多いので私達のような初等部の学生はなかなか入れない
「ぬふふ、一番乗りなのです。 セリセリが一番なのです!」
セリセリは服を脱ぐと走って、いや、飛ぶように浴場内に入って行ってしまった。 私達も服を脱いで籠に入れ(セリセリが散らかしたものも入れておく)風呂へ
「まずは体を洗いっこす」
「しません。 自分で洗いなさい」
ナリヤが止めてくれたおかげで洗いっこは回避できた。 そう思っていたが、セリセリが無理やりにナリヤを洗い始めたため、それに習ってライラも私を洗おうと迫って来た。 それを華麗にかわし、椅子に座って自分を洗う。 だが無駄な抵抗だったようだ。 セリセリとライラ、そしてナリヤまでもが私を捕まえ、隅々まで現れてしまった。 この中で一番小さな私は成すすべなくされるがままとなってしまった
私が洗われ終わってすぐにお返しとばかりにウォッシュという魔法で三人を洗濯、もとい洗った。 三人とも大笑いしていたのでまぁ楽しんでもらえてよかった
ちなみにこのウォッシュと言う魔法は生活魔法という分類に入る。 生活に便利な魔法、くらいの認識でいいだろう
風呂に入ってすっきりした私達は夕飯までの自由時間に魔法の練習をすることにした。 やはり反復は大切で、セリセリはエアー以外にも風魔法をいくつか覚えていた
彼女は水魔法とも相性がいいのだが、なぜかそちらを練習していないようだ
「セリセリの魔法、見ていてくださいです!」
彼女は羽毛の生えた手で魔力を込めている。 その姿がなかなか様になっているな
「風よ風、吹き荒れ切り裂く刃となれ。 ウィンドカッター!」
的に向かって放たれた風の刃は見事その的を真っ二つに切り裂いた
「見て下さい! ほらほら! セリセリがやったのですよ!」
見ていたからそんなに言わなくてもわかるが、うむ、子供ならではのかわいらしさがあるな
「私も、いきます!」
「小さな火種よ、その身を焦がす炎となれ!」
初級魔法でも高威力を誇るファイアボム。 指先からろうそくくらいの小さな火を飛ばすと、的にぶつかった瞬間弾けて燃え上がった。 詠唱は長いが初級でも威力はそれなりに出るため使う者が多い
「やった! 練習した甲斐がありましたよ!」
次はナリヤの番だ。 彼女の魔法は三人のうちで一番うまいと言ってもいい。 うまくすれば中級魔法も扱かえるかもしれないな
「あなたなら上級魔法も詠唱なしで使えますわよ?」
あー女神様、今魔法の練習中なので黙っててください
「そんな、寂しいじゃありませんか!」
頭の中で話しかけてくる女神を無視してナリヤの魔法を見る
「大地に根付く花々よ、私に力を、貸して!」
木魔法は少し特殊で、植物に話しかけてその力を借りるというものだ。 花の力を借りてどうなるのかと思われるかもしれないが、これがなかなかに侮りがたい。 毒を振りまく種類もあるし、ツタやツルで拘束もできる。 さらには尖った木々で貫くなどなど戦闘ではかなり活躍する魔法だ
ナリヤの呼びかけに答え、一輪の花が咲いて伸びた。 そしてそのつぼみが大きく膨らむと、種を銃の弾のように飛ばした。 その弾は見事に的を撃ちぬく
驚いた。 木魔法は初級でも習得が難しい。 彼女の努力がうかがい知れるな
「どう? これでも結構頑張ったのよ」
ああ、よく分かるさ。 みんなそれぞれ成長していることが分かり、実りある修練だった