蠢くは悪の意思30
疲れ果てた私達はしばらくセロランド王国で休養を取った後に聖国へ一旦帰ることにした
二人の悪魔を倒したことでどうやら世界は落ち着きを取り戻したらしい
あれから3週間が経過したが悪魔側からは何の動きもみられないのだ
もしかすると悪魔はあの二体だけだったのかもしれないが、まだ警戒は解かない方がいいだろう
当面の所は警戒を続けて少しずつ解けばいいな
「もう脅威は去った、そうであればいいのでしょうが、私はまだ何かありそうで不安です」
「ミレさん…。確かにそうかもしれません。私も不安が拭い去れないんです」
それから完全に体も癒えた私達は聖国へ戻る
ラタリウスさんは重症を負っている星詠族の人たちの治療を行うために残ってくれることになった
「まぁ任せときなって。こいつらミズダコどもはしっかり治してやるよ!」
「お願いしますラタリウスさん」
彼女に任せておけば大丈夫だろう。なんてったってこの世界最高峰の医者だからな
私は悪魔を心配しておこう
それともう一つ、黒い力についてなのだが、この世界でも屈指の歴史を誇る星詠み族の文献でさえその記述は見つからなかったらしい
女神様だって知らなかったのだ。そう簡単にこの力について分かるとは思っていなかったが、一ついい発見があった
それは悪魔についてだ
遥かな遥かな昔、まだ女神ティライミス様もこの世界の担当者として就任もしておらず、ようやく文字という概念が生まれた頃、突如力ある悪魔が襲来した
かの者の名を知る者はいない
悪魔はこの世界にいた人間を自分と同じ悪魔に変え始めた
多くの人間が下級悪魔となり、その悪魔に平伏し、この世界は一度悪魔のものとなった
だがそんな折に空より一つの光が降り注いだ
その光から現れた大いなる女神は下級悪魔たちを屠り、その悪魔と対峙する
悪魔は苦虫を噛み潰したかのような顔で女神を睨むとこの世界より去った
女神は現状を嘆き、この世界に王位を持つような悪魔すら侵入できないほどの結界を張り、女神ティライミスを遣わした
それがこの世界の成り立ちらしい
この話はどうやらあまり語られた話ではないらしく、ティライミス様は自分が遣わされた経緯も知らなかったようだ
「そうですわね、恐らくその大いなる女神様というのは光の大神ルーチェ様ですわ。かつての大戦ですでに亡くなられている方ですが、今は娘様が光の女神様をされていますの。わたくしのような中位の女神では詳しいことは知りませんの」
「では女神様、悪魔についてはどうでしょうか?」
「悪魔、悪魔と呼ばれていた者たちはかつて確かにいたそうなのですが、それは人々が名付けた名称です。本来の彼らは黒族と呼ばれる気のいい人たちでしたが、何者かに意思を乗っ取られた為様々な世界で破壊活動を繰り返していました。今は元に戻りどこかの世界で平和に暮らしているそうですが…。要するに悪魔とはその彼らの総称、の筈でしたの。この世界にはそれ以来悪魔の襲来はないはずですわ。だってもう悪魔はいないのですもの」
「ですが現に悪魔が襲来し、この世界を襲っていますよね」
「ええ、ええ、そうですわね。一体今この世界を襲っている悪魔とは何なのでしょうか?」
「私の元居た世界では悪魔とはこう伝わっています。神の袂を別った反逆者と。元天使であったルシファー、またはルシフェルと呼ばれる天使長が人間に火を与え、神の怒りを買い堕天して悪魔となった。天使長ったため彼に賛同した天使たちも同じく堕天したらしいのです。それが悪魔たち」
「そ、そうでしたわね、あなたの元居た世界はあの地球…。では神の反逆者たちは本当にいる。そういうことなのでしょうか?」
「分かりませんが、先の倒した二人は自分達を悪魔だと名乗っていました。それは悪魔の存在する証拠ではないのでしょうか?」
「なんにせよ、神と同等の力を持つ悪魔がいるということは考えていた方がよさそうですわね」
「はい」
私はミレさんからその資料を借り受け、聖国へ戻った
聖国ではハイプリエステスのレニ・ヴァニラさんと聖王様が出迎えてくれる
まずはレニさんが無事戻って来たリアナさんを抱きしめる
「レニ様、その、痛いです」
「よくぞ無事で…。本当に、よかった。リィリア、よく頑張りましたね」
「いえ、私一人の力ではありません。みんながいたからこそ成し遂げられたと思っています」
それから聖国にて一週間ほどゆっくりと静養したのだが、いまだ悪魔の動きはない
そして数日経ったところで一つの問題が起きた
この国に、二人の少女が入国したことで起きた問題
驚くことに一人は悪魔、もう一人は魔王だったのだ
私達はその少女たちを保護し、話を聞くことになった