聖乙女生まれる10
ブラックウルフ。 レッドウルフのリーダー格の魔物で、その強さはレッドウルフがFランクであるのに対し、ブラックウルフはCランクと、中堅冒険者パーティで倒すような相手である
「君たち! 今ここへきてはだめだ!」
ビース先生が私達を帰らせようとしたが、レッドウルフの群れに退路を断たれてしまった
さてここでランクというものについてまとめなおすとしよう
ランクとは、この世界の強さの基準となるものである。 基本はFからSまであり、Fは最下級、Sが最上級となる。 これは人間にも当てはまるらしく、世界各地で人を襲う魔物、盗賊や空賊、海賊などと言ったものから人を救う職業、冒険者と言うらしいが、彼らはその功績に応じてランクを与えられるらしい。 初心者冒険者はFランクから始まり、最終的なSランクに上り詰めるのはほんの一握りだそうだ
一方魔物の方はと言うと、こちらもFランクを最下級としてSランクが最上級。 しかしながら例外もある。 それが災害、厄災、神話だ
災害は文字通り災害が起きたときに発動される危険度、Bランク以上の冒険者が数百人単位で事に当たる事態だ
厄災はその上の危険度、あまりにも危険な魔獣や魔物が大量発生したときに発動される。 Aランク以上の冒険者全てが事態の収束に向かうようだ
そして神話。 このような事態は過去2度しかない。 数千年前の話なのだが、かつて邪神がこの世界に降り立った時が二度目、一度目は語り継がれることなくただあったという事実のみが残っているのだそうだ
ランクついでにこの世界にあるマジックアイテムと呼ばれる特殊なものについても確認しておく
まずこの世界のアイテムには魔法がかかったものが多いらしい
例えばいくらでも物が入る袋、空間をつないで長距離を瞬時に行き来できる扉、蓄えておいた水をいつでも排出出来る水瓶などなど、なるほどこの世界は歴史あれど科学が発展しないわけだ。 そもそも科学が必要ないのだ
さてこれらマジックアイテムだが、その使い勝手や威力、能力によってランクが決まる
最下級からコモン、アンコモン、レア、伝説、幻想、神話とクラス分けされており、レジェンド以上となると世界中に点在する迷宮という場所でしか手に入らないようだ
ここまでは授業で習うことなのだが、冒険者になるわけでもなし、魔物の強さとマジックアイテムだけ覚えておくとしよう
さて、私達が今直面しているのはCランクのブラックウルフ、私達のような学園に入ったばかりの子供が相手に出来るような魔物ではない。 当然先生方が退治してくれるのだろう。 これは彼らのお手並みを見るいい機会なのかもしれない
「君たちは下がりなさい! タム先生、ワーズレット先生、生徒たちを守っててください」
ビース先生が手甲をつけてブラックウルフに歩み寄る
どうやらこの格闘スタイルが彼本来の戦い方のようだ
まるでボクシングのように構え、半身になってブラックウルフを見つめた。 牙をむき出して唸るブラックウルフが最初に仕掛けた
遠吠えだ。 それによって大量のレッドウルフが走ってくる。 およその数は100体はいるだろうか
「タム先生、私は結界を張りますから攻撃をお願いします」
「ああ」
歴史の授業で教鞭をとっておられるタム先生は犬獣人の男性。 温厚でいつも笑っている。 顔立ちもいいため女生徒からは人気が高いようだ
そんな彼の戦闘スタイルは脚撃。 拳撃のビース先生とは昔共に武者修行をした仲なのだとか
「タスクブリッド!」
ビース先生の拳が爪のように鋭くレッドウルフたちを切り裂いていく。 速い、あまりにも速く私の目でも追うのがやっとなほどだ
それに続くようにタム先生の脚撃がレッドウルフたちを襲った
「クエイクドーン!」
高く飛び上がり、レッドウルフの群れの中に突っ込んだ。 地面は大きく揺れ、割れた地面にレッドウルフが吸い込まれるように落ちていく
「タム先生、久しぶりにあれ行きますか」
「ああ、いいだろう」
ん? どうやら二人で合わせるようだ。 これは面白いものが見れそうだな
「拳脚合わせ通し、滅波!」
タム先生が飛び上がって回転し、地面を蹴りつけて周囲を爆撃する。 そう、まさに爆撃のような威力だ。 それによって巻き上がったレッドウルフをビース先生が拳で撃ち落としていく。 当然一撃一撃が必殺、地面には叩き落され絶命したレッドウルフがうずたかく積みあがっていった
残るはブラックウルフのみ
「溜まりました。 タム先生、ビース先生、後ろに下がってください」
驚いた。 いつの間に詠唱していたのか、ワーズレット先生が上級魔法を組み上げていた
「ダムドサークル」
空中に浮かぶ黒い玉、それがゆっくりとブラックウルフに落ちる。 危険を察知したのか逃げ出そうとするが、どうやら黒い玉に吸い込まれているらしく、段々と距離が詰まりその玉に飲み込まれてブラックウルフは消滅した
「さすがワーズレット先生ですね」
上級魔法をこれほど短時間で組み上げると言うのはこの世界ではかなりすごいことらしい。 冒険者のランクで言えばBランク相当と言うことだ
「さて、生徒たちも無事なようだな」
「ワーーン、先生!怖かったよぉおお!」
襲われていた子供たちが先生に抱き着いている。 無理もない、本来ならばFランクの魔物を倒すというのも危険な年齢である
先生方は泣く子供達を優しく抱き寄せ、他の先生が待つスタート地点へと一緒に戻った