ヘタレ界の演技派
「あのね!!さっきも言ったけど、私は!ニノちゃんが好きなの!わかる?!」
物凄い剣幕であかりちゃんが怒っている。
そうだ、好きだか何だかって言われてたのだった…。
「…いや、それは友達としてでしょ」
一口に好きだ、って言われたってLoveとLikeでは意味合いがガラリと変わってくる。
「あかりちゃんの私に対しての好き、って恋愛感情じゃないよ」
私がそうだ。
自分のお客様はどんなに大切で好きでもLoveではない。
あくまでも"その感情"は疑似恋愛なのだ。
炭酸の少し抜けたシャンパンを口に含む。
ギリッとあかりちゃんが歯を食いしばる音が聞こえた。
あかりちゃんの方を見れば、私の膝に額をくつけていてその表情は見えない。
「……ょ、のくせに…」
「え。なに?」
ボソッと言われた言葉が全て聞き取れずに、あかりちゃんに聞き返す。
「もう何年も恋人居ない喪女のくせに!!」
キィーーー!!と威嚇しながら言われた言葉に目玉が飛び出るかと思った。
やだ、何この子、なんで喪女なんて言葉知ってるの?
ビックリするわぁ…。
「な、何年も恋人は居ないけど、喪女じゃないし!!」
「喪女!!喪女!!絶対そーじゃん!!お前の恋愛感を私に押し付けんな!!」
「いやいやいやいや!あかりちゃん、なんかキャラ変わってるけど!!?」
さっきまで見えていなかった、あかりちゃんの顔があがり目が合う。
大きい目がうるうると水分を含んでいて、アルコールの酔いのせいで顔も蒸気し赤くなっている。
「こんなに…好きなのに…」
小さく小さく、蚊の鳴くような声で言われた言葉に頭を掻いてしまう。
どうにも女の子の泣きそうな顔とかは苦手だ。
「あのさ、あかりちゃん。例えばなんだけど、あかりちゃんと私が付き合ったらセックスするんだよ?出来るの?」
ハーッ、と長い溜息を吐いてから私が言った言葉にあかりちゃんの顔が先程の顔色から更に真っ赤になった。
「私は"両方いける口"だから、お手手繋いで仲良しこよしするよりも、2人で気持ち良くなるような事したいんだけど?」
前に好きだ、と言ってくれた声音を作り紡いた脅しを口にして、顔を真っ赤にしてグッと唇を噛んでいるあかりちゃんの髪を撫でる。
ゆっくりと髪を撫で下ろしていく指が彼女の耳に触れれば、ビクッと肩を竦められた。
「それでも良ければ、気持ちに応えるけど。」
細い首筋を撫でて、少し傷んでいる毛先を掬えばそこに口付けあかりちゃんの顔を至近距離から覗き込む。
ニッと余裕ぶって口元を歪めて見せる。
この推しとファンという関係を壊したくなくてビビりすぎてるのを気取られるな、と思い余裕ぶった演技。
心臓は過去最多なくらいにバクバク言ってるし、酔いも悪い方に冷めてきた。
出来ることなら返事とかどうでもいいから、この場から逃げ去りたい。
あかりちゃん顔を覗き込んでいれば、少しの沈黙の後、意を決したような視線を返された。
「……いいよ、あなたとなら」




