花火のお話、その1
*蘭視点*
ライブの後、打ち上げをしようと誘ってくれたスタッフを置き去りに血相を変えて出て行ったあかりを見送り、打ち上げ参加を断って私もライブハウスを出た。
まだ陽も高くてビックリするくらいに暑い。
はぁ、と一息ついてからスマホを見る。
メッセージアプリに通知が1件。
『ライブおつかれ。今日来んの?』
と、ぶっきらぼうな文面に少し頬が緩む。
「今から行くよ…っと…。」
簡単に返信を送り、駅に向かう。
休日で人がごった返している道を縫うように進めば駅はすぐそこだ。
慣れたもので、今から向かう場所のホームにもすぐに行けるようになった。
タイミング良く乗り込めた電車の中で流れていく風景をぼんやりと見る。
都会のビル群から田園風景に移り変わっていくそれは見ていて飽きない。
都心から離れて人も疎らになった車内の居心地は良い。
ウトウトと背もたれに寄りかかり船を漕いでいれば、鞄の中でブーブーと鳴る携帯に意識を覚醒させられた。
『ニノちゃんが居ない、電話にも出ない』
携帯を開けば、あかりからの連絡だった。
また追いかけ回していて煙に巻かれたのかと察する。
何度か密に接するうちに、追いかければ追いかけるほど全速力で逃げてくタイプの人間だとわかるだろうに…。
愛したいタイプのあかりには中々手強い相手だと思う。
『がんばれ』
とただ一言、返信を送っておいた。
「おつかれ」
目的地の駅で降りれば、改札口を出てすぐに彼女が迎えに来てくれていた。
「おつかれぇ。待たせちゃった?」
迎えが嬉しくて頬が緩む。
あかりは頻繁にこっちに来てるが、私は1週間以上遊べていなかった。
「すんごい待った!待ちくたびれた!」
相変わらず見事な金髪に、今日は珍しくTシャツにジーパンという普通の格好だ。
ふん、と鼻を鳴らし待った!とわざとらしく怒って見せる彼女の横顔を見ていれば、彼女もチラリと私を見てすぐにヘヘッとイタズラっぽい笑顔を浮かべた。
「ニノさんとあかりは一緒じゃなかったんだ」
「うん、また追いかけ回してるみたい」
彼女が運転する車の助手席に座り、彼女達の住む家に向かう途中にあかりとニノちゃんの話題が上がった。
「ニノさん、変わってるからなぁ」
薄々感じていた事を彼女に言われ、確かに。と笑ってしまう。
ニノちゃんが私達Honeyにしてくれた事を鼻にかけるわけでもないし、それで何か言うことを聞かせるとかそういう行動もしないのだ。
ただ、いつもと変わらずライブハウスにライブに来て、物販のCDを買って、握手券をガチガチに緊張しながら握り締めてきて何秒かの握手をして帰っていく。
私達の色んな面を見てもずっとファンて居てくれていて感謝しかない。
「ホント、変な人だよねぇ」
「でしょ?!あの人変わっててさー」
ニノちゃんの普段の生活の変人ぶりを本人の知らないところで私に披露され、彼女と車の中で大笑いしていればすぐに彼女達の家に着いた。
続くよー!!




