理解度のある相棒
やってしまった。
やっちゃった。
あかりちゃんの目が大きく見開かれている。
薄暗くて音楽と声援でよく聞こえないし、よく見えない筈なのにしっかりとその表情は見えた。
一瞬触れただけのキス。
「私はあかりちゃんだけ。」
ニィっと片頬を釣り上げ笑って見せれば、あかりちゃんの腕の中から解放される。
ふるふると震えながら自分の唇を触っているあかりちゃん。
「…ニノちゃん…が…」
「ん?」
「ニノちゃんが好きっていってくれたぁああっんぐっ!!」
「ちょ、シッ!!」
なんだか大きく私の発言が曲げられていた気がしたが、絶叫しかかるあかりちゃんの口を塞ぎ誰に気が付かれる前にとステージスペースからあかりちゃんを連れ出した。
ロビーに出れば人もまばらになっていて、物販スペースには蘭ちゃんがボーッっとペットボトルの成分表示を眺めている。
「あ、おかえりぃ」
私達に気付いた蘭ちゃんがのんびりとした口調で出迎えてくれた。
「蘭ちゃん、お疲れ様です。この子返品しに来ましたー」
「あーそれはそれは。ありがとうございますぅ」
お互いにペコと頭を下げ、物販スペースの備え付けの椅子にあかりちゃんを座らせる。
あれだけ大騒ぎしていたあかりちゃんは下を俯いて唇を触りながらブツブツと何を唱えていた。
「どうしたの?この子」
隣に座ったあかりちゃんの様子をちらりと見て、蘭ちゃんが首を傾げている。
「いやぁ、興奮してたから少し静かにしてもらったらこうなっちゃって…」
先程の状況をうまいこと説明が出来ずに、はぐらかしヘラヘラと笑って見せれば「ふーん?」と蘭ちゃんが興味無さげに相槌を打ってくれた。




