事件は現場で起きている
「あ、あかりちゃん…?」
耳元に低く響いた声に背筋が凍る。
恐る恐る声の主を見れば晴れやかな笑顔のあかりちゃんが真後ろに立っていた。
ステージに集中していて気付かなかった…。
「なぁに、してるのかな…?」
「ひぃぃっ…」
するっと真後ろから伸びた腕が腰に巻き付いて、私とあかりちゃんとの距離が無くなる。
あかりちゃんの方が身長が高いせいで丁度首筋の辺りに息がかかった。
嫌なゾワゾワ感に全身が粟立つ。
「いく、すぐ行くから…!」
ちゅっちゅ、と首筋に唇を付けてくるあかりちゃんを引き離そうと身を捩るも巻き付いてる腕は更に強くなって離れない。
前回の横浜の夜を思い出し更に冷や汗が出てくる。
また噛み痣だらけにされちゃたまったもんじゃない。
「ね、人が見てるかもしれないから!離して!」
そうだよ。
こんなライブハウスの最後列とはいえ、不特定多数の人間がいる場所でソロライブのメイングループの1人が女と公衆の面前でイチャイチャしてたなんて知られたら大変だ。
私だって週刊誌デビューはしたくない。
キリッとして、後ろを向いた瞬間に肩を服越しに噛まれた。
「イッ…!!」
「ほら、いいよ?見てて。前向きなよ」
腰に巻き付いていた手が私の顎に伸びてグイとステージの方を向かせる。
この間から思ってたけど私の推し、サドっ気が強過ぎるんじゃないですかね?
「2ねん1くみのあゆちゃん…可愛いよねぇ。意地悪したくなっちゃうよね」
スンスンと耳の後ろ辺りの匂いを嗅ぐあかりちゃんの発言にいよいよ頭の中で鳴っていた警鐘が大きくなる。
ヤバいやつ、絶対ヤバいやつ。
「え…な、なんで…」
後ろに立っているせいで、私からあかりちゃんの表情は見えない。
「だって、可愛いんでしょ?あゆちゃん」
うふふ、と後ろで笑う声が怖い。
推しを、推しから守らねば!
このライブハウスが事件現場になってしまう!
意を決して振り返れば急な方向転換にあかりちゃんの手が弛み、腕の中で向かい合う。
「あかりちゃん以外、可愛いと思うわけないじゃん」
ちゅっ、と唇と唇が触れた。
死亡フラグ回避…かな?




