新生活
*蘭視点*
ここ最近、生活が少し変わった。
アイドル1本じゃ食べてけないしアルバイトは辞められてはいないけれど、多い時は3箇所掛け持ちしていたバイト先を1箇所に減らす事が出来た。
時間と多少生活に余裕が出来れば、ボイストレーニングとダンスレッスンにあてられる時間が増えて嬉しい。
「最近、蘭ちゃん楽しそうだね。いい事あったー?」
ダンスレッスンの先生に休憩中言われた事に顔が自然と表情が柔らかくなっている事に気が付く。
「今まで必死ー!って感じだったけど、今の方が絶対いいよ!」
「はい、ありがとうございます」
人から何かを褒められるのは照れくさい。
アイドルに憧れて高校卒業して関西の田舎から出てきたのはもう10年前の事で、もうアラサーと呼ばれる歳になってしまった。
家の人間にも親戚の人間にも東京でフラフラ遊んでるなら、帰ってこい、結婚しろ。とせっつかれて、事務所からは今年中に成果を出さなければ熟女系のアダルトビデオに出演させる。と言われ続けていた。
(必死にならないわけないじゃん…)
関西訛りかくしのゆっくりとした話し方も、歌もダンスも、必死にやってきた。
横浜のあの夜、特別な営業をセッティングされて、あかりは嫌がるかもしれないけど、どんな手を使ってでも成果を出さなきゃ。って思っていた。
まぁ、ことは私もあかりも予想をしていなかった方に転がって今に至るのだけど…。
「次はソロライブかぁ…。」
まだ日が暮れてから時間は経ってなく、蒸し暑く人の多い駅前の道を歩く。
手に握っていた携帯が震え、画面を見れば横浜のあの夜に"友達"になった金髪のあの子からの着信。
「もしもーし」
電話に出たつもりが、パッとビデオ通話に切り替わり耳元でスピーカーに切り替わった音のまま『もしもし?!』と大音量で相手から返ってきた。
『コイツ迎えに来てよ!!!お前の相方だろ?!』
一瞬、金髪が見えたが次に写ったのはあかりとあかりの"ヒーロー"の姿だ。
あかりはヒーローにベタベタとくっつき、そのヒーローは「やめて、離れて、お願い」と泣きそうな声をあげていた。
変な光景。
画面を見てクスクスと笑っていれば、金髪のあの子に画面が切り替わった。
『迎えに来て!!!飯作って待ってるから!電車代はあかりに請求しろよ!』
なんと理不尽な。
こっちが何かを言う前にとブチッと切れた電話。
良かった、今日はこのあとバイトもないや。
そのまま私は帰宅客でごった返している駅の中に入っていく。
1時間後に困ったちゃんな相棒と、少し遠くに住む友達に会いに行くために新幹線の切符を買わなきゃ。




