battle アンド dead end
茂みを掻き分けた先には広間が広がっていた。
そこに佇む人影が二つ。
一つは、近所の高校の制服を着た少女。
腰に届きそうなくらいの長さの黒髪は月夜に照らされて正直に言うと美しいと思ってしまった。
極めつけ目を引くのは、この御時世で時代劇位でしか見ることが無い日本刀が少女の手に握りしめられている事だ。
遠くから見ても分かる、日本刀の刃の切れ味。
あれは模造刀では無い、真剣だ。
刀の刃に月の光が反射していて眩しい。
すると突然、少女はその鋭い刃に自分の手を当てて薄く切れ込みを入れ始めた。
それは、垂れた傷口の血を刀に吸わせているようにも見えた。
すると刃から紅い焔が立ち上る。
焔は、見ている者の心をざわつかせる様な妖しい色をしている。
紅い焔のせいで陽炎が出来て刀のシルエットがぶれる。
そして、刀に焔が灯ったことを確認すると少女は短く息を吐いて刀を中段に構え、敵対するもう一つの人影を睨みつけた。
少女の視線につられて真司はもう一つの人影を見た。
「なん、だよ・・・!?アレ!?」
そこには、ヒトの形をした人では無い何かがいた。
身体中に大量の包帯が巻かれていて、包帯越しでも分かる程の大量の傷跡や血の跡が残っている。
包帯の隙間からは黒い煤か、影のような物が溢れ出ている。
顔にも乱雑に包帯が巻かれていて、包帯の隙間から覗き込んでいる目は爛々と光っていて、少女の方を見ているようで焦点があっていない。
口は何が可笑しいのかずっとニマニマと不気味に笑っている。
この気味が悪い何かを簡単に表すとしたら、ミイラ男とでも言った方が分かりやすいのだろう。
もう一度言うがソイツは最早人間じゃ無い。
何故なら決定的な事にソイツの胸は、人間なら心臓がある所には拳大程の大きな穴が空いているからだ。
つまりだ、信じ難いことにソイツ(次からはミイラ男と呼ぶ)はあるべきものが無いのに普通に生きているのだ。
・・・余りにもの珍妙な姿に生理的悪寒がする。
黒髪の少女がミイラ男の方に駆ける。
一息に間合いを詰めて相手の面を斬り裂く。
ミイラ男はそれを左後ろに下がってギリギリ躱す。
少女は、間髪入れずに追撃とばかりに猛攻を仕掛ける。
すると、ミイラ男は反撃とばかりに腕を振るい少女をなぎ払おうとする。
ミイラ男の振るった腕の衝撃で風邪が舞い上がる。
少女の斬撃が達人の技とすれば、ミイラ男の攻撃は力に頼った竜巻のようである。
両者の攻防は苛烈さを増し、何者も近づかせない威圧を放っている。
両者の睨み合いが続く。
少しの出来事で均衡が崩れるかのような独特な緊張感が辺りを包み込む。
バキッ
おいおいおい!! まさかっ!?
その今は聴きたくもない音は自分の手元の方から聞こえてきた。
手元を見ると・・・・・・折れた枝が握られていた。
うわぁぁぁ・・・
少女が真司の隠れてる茂みの方に目を向けてしまっていた。
ミイラ男がその隙を見逃すことなどなく、低く腰を落とし少女に向かって駆けていた。
その速さは普通の人間が出せる速さではなかった。
ミイラ男は、一息で少女の懐に入り下から拳を振り上げた。
少女は、その攻撃を紙一重で躱し後ろに下がる。
ミイラ男は、その動きを読んでいたとばかりに後ろに下がる少女の腹に回し蹴りを叩き込む。
回し蹴りを受けた少女はまるでゴム毬の様に受け身も取れずに吹き飛ばされた。
少女は何とか起き上がろうとするが足元がおぼつかずフラフラしている。
ミイラ男はそんな少女の元にゆっくりとネズミを追い詰め、仕留める猫の様な動きで近ずいていく。
ヤバい、このままだとあの少女が殺される!!
真司はさっきまで止まっていた思考を何とか覚まして現状を見る。
真司は、直ぐに誰でも彼でも救うような主人公では無い。
少女を助けに行ったら確実に死ぬのは自分だと理解している。
自分の命より他人の命をとるほどできた人間でもない。
けれども、あんな化け物に殺されそうになっている人を無視するヒトデナシにはなりたくも無い。
真司の前には二つの選択肢がある。
助けるか・助けないか だ。
そうこう考えているうちに事態は進んでいる。
広場の方を見るとミイラ男は少女の目の前にいた。
ミイラ男は浮かんだ笑をより一層深めながら拳を少女に向かって振り上げる。
「あぁ、また俺は傍観者になっちまった・・・。」
真司は少女を殺してしまった胸糞悪い気持ちで吐き捨てた。
しかし、この後 真司が見た光景は想像とは違っていた。
少女はミイラ男が拳を振り下ろすより先にミイラ男の胴を横手に切り払っていた。
余りの剣速に斬られたミイラ男も状況が理解出来ていない。
斬られた胴から紅い焔が立ち上りミイラ男の身体を焼いていく。
心臓が潰されても死ななかったミイラ男は少女の焔でまるで糸が切れたかのように崩れ落ちた。
辺りには腐った肉の焼ける臭いが漂ってきた。
「終わった、のか?助けに行くまでもなかったな・・・。」
別段俺が行った所で、そこに転がっているミイラ男が自分に変わっただけなのだろうが・・・。
偶然なのだろう、ミイラ男が崩れ燃えている中、どんな因果か真司はミイラ男と目が合ってしまった。
すると、ミイラ男の包帯が茂みに隠れていた真司の方に一直線に飛んできた。
避けられない・・・!?
ぐしゃっと、耳障りな音が自分の身体から聞こえてきたきがした。
「げはっ・・・ぐふ・・・ッ!?」
口から生暖かい赤色の液体が溢れてくる。
何が起きたか突然の事で理解ができなかった。
真司は恐る恐る自分の体を確認した。
包帯が心臓をつ、ら、ぬ、い、て、い、た、。
認識した瞬間、体が思い出したかのように激痛が走る。
「がァ・・・ッ、あぁ、グッ・・・!?」
心臓に包帯が貫通した痛みだけの筈が、それとは別に身体中がまるで燃えているかの様な痛みがした気がした。
「が、があぁあああああああああああああああああああああああああああああ」
痛みで意識が飛かける最中、何故かミイラ男が最期に此方を見つめて呟いていた言葉を思い出していた。
ヤットミツケタゾォ
オマエダケハコロシテヤル と。