プロローグ・神様の過ち
初投稿です
これは物語の始まりの話です。
これは、遠い昔の話だ。
その土地には神様がいた。
神様は気付いた時にはその土地にいた。
神様自身もいつからそこにいたのか、いつ目覚めたのか覚えていなかった。
目覚めた時から、生まれついた時からの務めとしてその土地の人々を見守ってきた。
それから、幾年にも渡り見守ってきた。
神様は独り、山奥の古びた御堂で人々の願いを聞き願いを叶えた。
だが年が経つにつれ、徐々に人々の足が御堂から遠のいていく。
信仰が廃れると同時に、御堂から出ない神様は人と触れ合う機会も減ってくる。
神様は人間が大好きだった。
とても愛しかった。
彼等を見守る事が生まれてきてからの務めでもあり、自分の生き甲斐でもあったからだ。
だから、神様は人足が途絶えてしまった今、どうしても人に会いたくなった。
そこで、初めて御堂を出て人里に下りる事にした。
生まれて初めて出た御堂の外は気持ちが良かった。
髪の毛を遊ぶようになびく風が、肌に触れる暖かい陽射しが、踏みしめた土の感触のどれもが新鮮に思えて神様の散歩に祝福を与えているようだった。
神様が人里に下りるとそこには沢山の愛すべき人々がそこにいた。
御堂から眺めている時とは違い、人の暖かさ、活気、様々な表情が溢れていた。
どれもこれもが神様にとってこれもまた新鮮だった。
御堂で独りで居るよりも人里で人々に触れていた方がとても楽しいと神様はそこで知ってしまったのだ。
それと同時に神様は知ってしまったのだ。
人は何れは死ぬという事に。
昨日親しげに話した女の人も、楽しく遊んだ子供も、色んなことを教えてくれたお爺さんも、年が経つと何れは死んでしまうのだ。
皆皆、神様を置いて先に死んでしまうのだ。
親しくなった分、大切に思った程、失ってしまった時の傷は大きくなる。
御堂で独りで居れば知らなくてよかったものだ。
当然だが、神様は死ねない。
神様は人ではないからだ。
神様はこの土地を見守る装置に過ぎないからだ。
幾ら親しく話して、幾ら見た目が一緒でも彼等とは一緒ではない。
神様の身体には『命』という概念が無い。
『生きている』という概念が無い。
もし、神様に人間と同じ命があったのなら、人間が不死の存在だったのならどれほど良かっただろう。
神様は人間の温かさを知ってしまった。
知らなければ苦しむことなど無かったのに。
もう、独りで御堂に居ることなど寒くて出来はしない。
神様は独りが嫌いになった。
神様は大切な人々が失うのが辛かった。
独りにされるのが怖かった。
神様は誰かにずっとそばにいて欲しかった。
しかし、皮肉な事に神様は人間の願いは聞けるが、神様自信の願いは聞き届けることは出来なかった。
これが神様が過ちを犯してしまった始まりでもあった。