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崩壊の魔亀

「なんじゃありゃぁぁぁ!!」


ユーマは叫んでいた。無理もない。でっかいうえに気持ちの悪い亀が

こちらへ来ているのだから。


「うるさい。」


隣にいるアカネがユーマを黙らせる。彼女は強いのだろうがそれにしても肝が据わりすぎている。

(まさかこれが来ることわかって……?)


「そのとおりよ。」


アカネは立ち上がり埃を払いながら言った。

「私はアレが伝説の生き物なのか。はたまた魔術師の幻覚なのか、調査しに来たのよ。」

ほとんど前者だ。本当の恐怖と言うのを感じたのは始めてだ。

ユーマが立ちすくんでいると後ろから引っ張られた。

「行くわよ。戦うにしろ逃げるにしろ準備がいるわ。」

ユーマはアカネと共にギルドへ戻った。



ギルドにはアリアしかいなかった。


「おかえりなさい。無事ですか?!」


「ああ、一応。サンキューな。」

アリアはアカネを一瞥した後


「あなたは?」


「私は王都騎士団第六席アカネ・ルブルミエス。ここへは神獣の調査で来たわ。」


神獣と言うのはあの亀のことだとユーマにも分かった。


「やはり魔亀でしたか。」


「なあ魔亀ってなんなんだ?」


異世界人であることは隠しているせいか不思議がられたがアカネが説明して

くれた。


「魔亀は神獣の伝説に登場するうちの一柱だ。瘴気で大地を支配していたが

空を飛ぶ竜にはかなわず最初に死ぬ神獣だ。」


「竜がいたのか?」


ユーマのスキルにも『竜撃の王』とあるがすでに絶滅しているとしか聞いていない。

まさか神話に関わっていたとは。


「ええ。神に反抗した唯一の生き物よ。いや反抗できたと言った方がいいかしら。」


「人間は戦えなかったのか?」


アカネは首を振る。


「戦うことはできたわ。でも瘴気の壁を貫通する手段がなかったと伝わっているわ。」


つまりドラゴンは何らかの方法でその瘴気を突破できたということか。


「あのような魔物は見たことがありません。人の手のみで倒せるとは私は思えません。」


反論する様子はない。アカネもそう思っているようだ。


「じゃあ早く逃げないとダメだろ!」


「実はそうでもないのよ。」


「ぐえっ」


アカネが逃げようとするユーマの服の首元を掴んで言った。


「勇者の力ならあれにダメージを与えられる。ついでに瘴気をはがすことができれば

私たちも戦えるはずよ。」


勇者の力か。


「なあ俺の特性が竜撃の王(ドラゴンスレイヤー)っていうんだけど……」


竜が人にとって友好的ならユーマのスキルは明らかに敵側のものだ。

だがこの場をどうにかできる可能性の中でユーマが提示できる唯一の物がそれだった。

なにより神話の登場人物を殺す力。何かに使えるはずだ。


「聞いたことないわね。でもだからこそ可能性はあるわ。」


アカネがユーマにどこから出したのか箱を手渡した。

少し大きい。両手でなければ持てないサイズの箱だ。金でできていて目が痛い。

ユーマが持つとその箱は不思議な光を放った。懐かしいような感覚がユーマを襲う。


(見たことある?!)


光が無くなった時、箱はすでに消えていた。代わりに


「ナニコレ?」


手元には一本の剣があった。ソフィアの持つレイピアとも違う、シンプルなロングソード。

だがそれにしては装飾が華美でなによりも


「軽い?!つか重さ感じねぇ!」


「あなたが勇者だったのね。特性が命の今の時代によく用済みの特性で生きてこれたわね。」


アカネが励ましているとも毒を吐いているともとれることを言ってくる。


「これがあれば魔亀を倒せるのか?」


「可能性が高まるだけで倒せるとは限らないわ。私もその剣については未知数よ。」


ユーマは一つ気がかりなことを思い出した。


「そういえばあいつらは?」


「ソフィーとライラさんは魔亀の元へ他の冒険者とオリビアさんは消息不明です。」


オリビアがいないのは前と同じ。ソフィアとライラは足を引っ張ってないだろうか。


「まずいわね。ただの冒険者では魔亀の相手は難しいわ。」


「行こう!」


ユーマとアカネはすぐに駆けだした。



「ちょっと私着替えてくるから。」


そう言い残しどこかへとアカネが消えた。


「あの女逃げてないだろうな。」


本人は仕事で来ているしあの性格が本物なら逃げている可能性は低い。

先ほどまで持っていた剣はユーマが邪魔だと思った瞬間に消えた。


(体の中になんか力みたいなの感じるんだよな……)


おそらく呼び出せば剣はすぐに出せる。そういう確信めいたものがユーマにはあった。

ギルドから町の外まで走って魔亀の元へ着くまで約20分。

魔亀の侵攻が確認されてからの時間を足すと50分。

それだけあれば血気盛んな冒険者が絶望するには十分だった。



魔亀の襲来が確認された時ソフィアとライラはギルドにいた。

その後そこで討伐隊が結成され勿論二人も加わった。

ホブゴブリン戦の時に使ったソフィアの知覚を消すことでソフィアに戦わせる作戦は成功していた。

が現実はそう甘くはなかった。


「剣が通らない?!」


「なんじゃこりゃ攻撃が弾かれちまう!」


「魔法も消される!なんなんだよこいつ!」


物理も魔法もすべて効かない。冒険者がいるおかげで侵攻は止まっているが

問題はそこではない。


「瘴気が来るぞぉぉぉ!」


瘴気だ。低濃度の物ならば魔力が減少していくくらいのものだが高濃度になると

人間の精神に重大なダメージを与えてくる。今の戦いの中でも約半数の冒険者が

瘴気によってダウンしている。

魔亀は魔法も撃ってくるので離れていても意味が無い。

離れれば離れるほど魔法の勢いが増すためギリギリ瘴気に触れないラインを保たなければ防衛戦も出来ない。

突如周囲の温度が急速に低下していき、空に氷の矢が作られた。


「氷だ!タンク隊、構えろ!」


氷の矢が討伐隊目がけて降ってくる。

それを軌道上にいるタンク隊が慣れた動きで止めた

初心者向けの町とはいえベテランも住んでいる。彼らは卓越したチームワークと

経験から来る憶測で臨機応変に戦っている。



「流石ね、討伐隊。」


ソフィアとライラは裏の方で魔亀に引き寄せられてきた魔物を倒している。今回は人が多いので知覚を消しても戦える時間が短かった。


「ゴブリンだけでなくオークまで、数が多いわ。」


「頑張ってソフィア!」


「あなたも魔法使いなさいよ……」


ライラは例のごとく鎌を持って突進かソフィアの知覚を消している。攻撃魔法を使う事は全く考えていないようだ。


「オリビアはともかくユーマはなしてんのよ!」


大体やってきた魔物を狩り尽くしてからソフィアは言った。

恐らくユーマは前のように策を練っているのだろうが、なにか打開策があるようには思えない。ソフィアが本気で戦ったとして魔亀の瘴気を突破できそうにはない。

(さっき全力で攻撃したけど全く効かなかったしね。)

なんとなくソフィアはユーマが来ていないことに安心していた。

戦力は一人でも欲しいはずなのに。ユーマが戦力になるかは置いておいて。

(ホント最近おかしいわ。私)



魔亀に対しての防衛戦は上手くいっていたが依然として攻撃は通らない。


「フル=イマチを捨てるぞ。お前は町長に伝えてこい。」


討伐隊のリーダーが一人の冒険者を使いに行かせた。


「こいつをここで止める。町から誰もいなくなったら俺達も逃げるぞ!」


永遠にも近い時間戦うよりはここで逃げた方が得策だ。

リーダーの意見に対して反対するものはもうこの場にはいない。

実際ここでのリーダーの手腕は素晴らしいものだ。

職業ごとに前衛、中衛、後衛を分けている。気絶したり怪我をした人間は中衛の冒険者が後衛まで運んでいる。そういう1人も見捨てない心掛けが終わりのない戦いの中で士気をギリギリ保たせていた。


「……」


ソフィアとライラは後衛にいる。リーダー曰く1人でも実力者は後ろに置いておきたいという事だがソフィアにとってはそうは思えなかった。


(足でまといは要らないってことね。)


ソフィアはリーダーと面識がある。残念ながらリーダーの名前は覚えていない。

彼にはソフィアが人前で戦えない事の真意を知られている。

吹聴しない辺り悪人ではないことは確かだ。


「でもこうも露骨に端に追いやられるなんて。」


知覚を消しての戦闘は連携は愚か仲間すら巻き込みかねない、という事で

彼女らは離れたところで取り巻きの排除を命じられた。

瘴気の壁は突破できていない。

それどころか瘴気は肥大化していき今となっては中衛まで瘴気の中にいる。

瘴気の恐ろしいところは気を失うことでは無い、それならいい方だ。

気を失わなくても徐々に人間性を破壊されていく。長く濃度の濃いところに居れば居るほど。


「おい!邪魔だ!」


「倒れてるやつ!誰か運べ!」


乱戦の中で怒号が響く。陣形もぐちゃぐちゃになりそれぞれ思うように攻撃している。

瘴気の壁は突破できていない。

魔亀が咆哮を上げた。距離のあるソフィア達ですら耳を塞いでしまうレベルのものだ。

至近距離で聞いている冒険者達は耐え切ることが出来なかった。


「耳が?!」


「何も聞こえねぇ?!」


冒険者たちの内の何人かは鼓膜を破壊され耳が機能しなくなってしまった。

それ以外の冒険者は倒れている。死んだかどうかは定かではない。



「ライラ。逃げなさい。」


ソフィアは緊急事態と言うことを悟る。残るは後衛組と怪我から回復した何人かだ。

この場のメンバーで倒せるとは思わない。だが倒れている冒険者の保護は必要だ。

()()()()()()()()()()()()()

ライラは察したようで


「ソフィア!ダメ!」


ソフィアの腕をつかんで止めようとする。

それを微笑みながら引き離し


「ユーマによろしくね。契約解除ってこと伝えておいて。」


一人魔亀へ向かっていった。


「私も戦う!」


「ふざけないで!」


ライラの方がびくっと震えた。


「魔法を使おうともしないのに戦う気?!足を引っ張るのはやめて!」


ライラはうつむき黙り込んでしまった。

それを見た後


「私が奴を引き付ける。みんなは倒れている人の保護、それが終わったら各自逃げて。」


後衛組は接近戦が苦手だ。だから可能な限り自分にターゲットを向けさせる必要がある。

(カッコつけて何言ってんだか。私だって人の足引っ張ってばっかの癖に。)


「ごめんねライラ。」


それだけ言ってソフィアは飛んだ。



魔亀の行動パターンは単純だ。まずは氷の矢の形成。これはソフィアの特性『矢避けの加護』で

回避可能なことは前衛にいた時に経験している。

魔亀の体が動いた時の地震も体力を減らされるので厄介だ。ソフィアは得意の風魔法で

空を飛ぶことでこれに対処する。

そしてもう一つの特性『導きの加護』により次にするべき行動が分かるのだが


(加護をもってしても奴に対する対抗策はないってわけね。)


疾風(シルフィード)!」


人前で打つと絶対に失敗する必殺技。だが今回は成功した。出力不足な点はあるが。


(瘴気の壁は全く削れないわね。ならっ!)


彼女のもう一つの必殺。苦手な光魔法を使った技だ。


限界突破(オーバードライブ)|光の審判《》」


レイピアからまばゆい極光の柱が魔亀めがけて放たれる。

瘴気の壁を突破こそしないものの確実に壁を削っていた。

そして

ガラスの割れるような音と共に壁が一部分開いた。瘴気が筒状に削られ魔亀の本当の姿が見える。

ソフィアはそこを通過すると瘴気の壁は再びできあがった。


「逃げ場はないってことね。」


魔亀を見る。ずっとうねうねしていると思っていた皮膚は人間でできていた。

いくつもの人間が重なり魔亀の体を形成している。遠目には目らしきものはなかったが近づいても

それはない。臭いもひどいものだ。息を吸っただけで昏倒しそうになる。


「うぶっ」


ソフィアは吐き気をこらえる。魔法を形成する集中力が切れてしまい地面に落下した。

体制を直しながらどうやって倒すか考えていたら


「まさかここまでくるとは人間にしてはやるねぇ。」


男が姿を現した。真っ白の肌だ。ちょうど魔亀を作っている人間と同じような。


「やだなぁ。そんな奴らと違ってこっちは選ばれているんだからぁ。」


「何によ。」


「神様。」


そういいながら見たことのない武器を取り出すちょうど大砲を小型にしたようなものだ。


「遅れまして俺の名前はゼスト。アルアジフって組織にいる。で早い話アンタに仲間にならないか相談に来たんだけどぉ」


ソフィアが高速の突きを放つ。それを軽々とゼストは避けた。


「まあそうなるよね。」


「敵から勧誘されてやすやすと入るやつがいるわけないでしょう。」


「それもそうだ。でもアンタは気づいてないみたいだけどぉ」


ソフィアは嫌な予感がした。それを嗤いながらゼストは言った。


「アンタ今、嫉妬しているなぁ。」



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