表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

闇の息吹(ダークネスコート)

10/23 ところどころ主人公の名前が変わっていたので修正しました。

ユーマは憂鬱だった。

自分のステータス、特性、パーティメンバーの個性。

先日のクエストではオリビア以外まともに戦えていなかった。


「う~ん。」


「どうしたのですか。キャラでもないのに考えてて。」


ギルドの食堂で考え事をしていたらアリアが毒舌と共にやってきた。


「アリア。そのキャラで行くんだな。」


「?」


どうしよう。本人ドSの自覚ないみたいだ。


「今のパーティ。問題あるのばっかなんだけど…どうしたらいい?」


「うーん何が問題なのかでいろいろ変わってきますし一概にこうしろとは言えませんが…」


オリビアは見た目以外何も問題ではない。ハイプリーストなら回復魔法も使えるはずだ。

ソフィアは見たことは一度もないが戦えた時の勝率は今のところ100%だ。

ライラが一番わからない。魔法で使った鎌はめったに壊れる事がないのを見るにまともに

戦えば前二人と同じく相当強いはず。ユーマに関しては商人の職業なので許してほしい。


「ライラに話聞いてみるか。」


もしかしたら無謀に接近戦をするのは何か理由があるのかもしれない。


「ライラが今どこにいるとかわかる?」


アリアのようなギルドで働く人間は冒険者の居場所がわかるらしい。

ギルドカードで場所を特定しているのでカード落としてさえいなければ場所はわかる。


「えっと……」


「いや別に遠慮しなくても大丈夫だよ。あいつだし。」


下着買いに行っていたとしても突撃してやるくらいの覚悟だ。


「後ろにいます。」


「うわ!いつからそこに?!」


「最初からいた。」


よかった。もう少し遅かったら何を言っていたかわからない。


「私に何か用?」


ライラは後ろにいただけで話をあまり聞いていなかったがなんとなく

自分に用があるみたいなことだけは聞こえていた。


「ああ。ライラお前鎌出す以外で何か魔法使えるか?」


ライラは一瞬考えた後食堂のテーブルの間の少し広いところに行き


「深淵ヨリ来ル我ガ(ちから)ヨ。」


ライラを中心に魔法陣が作られていく魔法陣がすべてできると闇色に光った。


「おお!」


「これは!」


ユーマとアリアが驚きの声を上げた。

アリアの足から黒い煙が出た。暗闇はやがてアリアを中心に拡散しその場にとどまった。


「こうやって暗闇を出して雰囲気を作ることができる。」


「それ使えるの?」


「今まで戦闘に役立ったことは無い。」


「…………」


ライラの評価が変わることは無かったが少し引っかかることがある。


「私、解雇?」


不安そうにライラが訪ねてくる。今までライラとパーティを組んだ人は一回クエストに

行くとすぐにライラをパーティから外したり逃げたりしていた。


「いや、別にそうじゃないんだけど。」


「?」


「アリア、ソフィアが今どこにいるかわかるか?」




ソフィアは下着を買いに来ていた。最近少しきつくなってきた気がしていたのだ。


「これかわいい。けど少し子供っぽい?」


今までソフィアは下着にしろ服にしろこだわったことは無い。

見せるほどの相手がいなかったからだ。だが最近は少しずつだが

衣服や身だしなみに気を付けるようになっている。この変化は一体何なのか。

ふとユーマの顔が浮かんだような気がした。


「いやいやいやそれはない。あいつバカだし。」


「どうしたの?ソフィア。」


「わひゃぁぁぁ!!」


突然背後からライラが話しかけたことで半ばヒロインらしからぬ声を上げてしまった。


「ライラ…なんでここに?!」


「ユーマと来た。ソフィアに用があるって。」


(ユーマが……?)


下着屋から出るとユーマがいた。ソフィアを見て気持ちの悪い顔をしている。


「おい!ソフィア!それ!」


ユーマがソフィアの胸のあたりを指す。

そこにある手にはまだ買ってない下着が

あった。周囲を歩く人たちが


「おい!女勇者が下着買ってるぞ。」


「でかい…!俺の見立てではFは下らん。」


「ソフィアー!応援してるぞ!」


ソフィアは顔を真っ青にした後真っ赤になって下着屋へ戻っていった。



「この…!変態っ!」


「ぐへぇ!」


下着を買って出てくるや否やソフィアはユーマを力の限り腹パンした。


「少しは…加減をしろよぉ。」


「十分加減したわよ。五体満足じゃない。」


「つんつん。」


「怒るたびに体壊す気か!このサイコパス女!」


「もう一発行くわよ。」


「つんつん。」


「すみません。あとライラさん。つんつんやめてください。」


ライラは何故か心底名残惜しそうにユーマから離れた。


「で、何か用?」


「今からクエスト行かないか?」


「?今日はオリビアさん教会だから仕事はいかないんじゃなかったっけ?」


「そのつもりだったんだけどな。四人パーティの内戦えるのがオリビアだけなのも変だろ。

 俺たち三人協力してでも戦えた方が今後何かといいかと思ってな。」


「なるほどね。それじゃ何行くの?Cランクのゴブリンとか?」


ゴブリンは最も低級のCランククエストの中でも最も簡単だ。運が良ければ平原で悪くても洞窟前にいるのを倒せばいいからだ。数が増えれば厄介なので討伐数が増えるほどクエストランクが上がる。


「それじゃ一時間後に行くからそれまで準備!」



アリア曰く現在ゴブリンがいるのは洞窟らしい。一匹くらいなら洞窟の入り口とかに見張りとしているので

簡単だとおすすめされた。ユーマたちの強さは信用されてないらしい。


「ゴブリンってどんな見た目なんだ?」


ユーマはなんとなくこんな感じと言うのが浮かぶだけだ。他の2人も見たことは無いらしい。

ゴブリンは旅人の入り口とか前にギルドでアマゾネスから聞いた気がする。


「お前らも見たことないのか。」


「私はじめからAランククエスト受けてたから。」


そういえばソフィアは強いんだった。ポンコツぶりが先に立っているせいでその強さは鳴りを潜めている。


「Aランクの女騎士もパーティ戦ではゴブリンに劣りそうだな。」


ユーマが笑いながらおちょくると


「『遅れてきた勇者』じゃゴブリンには一発も当てられそうにないわね。」


「お前っ…それは言っちゃだめなやつ!」


「あなたから先に言ったんじゃない!」


二人でにらみ合う。ソフィアと仲良くなっていく内にこういうことが増えたなとユーマは思った。


「二人とも。前。」


ライラが指をさす方を見るとゴブリンがいるとされる洞窟を見つけた。

話では見張りのゴブリンがいるそうだがそこにいるのはどう見てもゴブリンにしては大きい魔物

だった。三人はすぐに近くに岩場に隠れた。


「俺ゴブリンって膝くらいの高さだと思ってた。」


「私もよ。あれってもしかしてホブゴブリンじゃない?」


「驚いた。ゴブリンに上位種がいたのか。」


「そう滅多にはいないんだけどね。もう少し上級者向けの洞窟だとあれがわんさか出るらしいわ。」


ユーマはうへーと言う顔をした。


「どうする?あれ倒す?」


「倒すって言ってもどうやるんだよ。」


「ユーマが引き付けているうちにわたしたちどうにかするわ。」


「全然安心できないんだけどその作戦。」


膝立ちでしばらくいるのがきつくなったのかライラが体を動かすと近くの小石なども動いた。

その音を聞き逃すホブゴブリンではなかった。一直線にユーマたちの方に接近してきた。


「ごめん。」


申し訳なさそうに謝るライラを見てユーマは


「気にするな。これくらいこのパーティになった時から慣れっこだ。」


と励ました。この余裕はユーマの中で勝算があるからだ。

ユーマは上着についているポーチから二つの黒い布を取り出し一つをライラに渡した。


「これは?」


「ソフィアの強化アイテムだ。」


そう目隠し。これがあることでソフィアは本気を出すことができる。ソフィアの本気なら

ホブゴブリンがどれほど強いか知らないが倒せるだろう。

が、ソフィアは気まずそうに下を向いている。


「ごめん。」


「どうしたソフィア。別に気にするなよ。俺だってまだ矢が当たらないしお互いぼちぼち成長していこうって…」

「そうじゃなくて。」


「うん?」


ユーマは背筋に何か衝撃を感じた。いやな予感と言うやつだ。


それ(目隠し)意味なくなっちゃった。」


「マジか。悪化してるじゃん。」


「仕方ないでしょ!どうしてか知らないけどそこに他の人がいるだけで緊張しちゃうようになったのよ!」


「街では普通に生活できてたじゃん!なんで戦闘中だけこうなるんだよぉ!」


「私が知りたいわよ!」


「二人とも。前。」


ライラが指をさした方を見るとホブゴブリンが迫っていた。オリビアほどではないが大きい。


(近くだとこんなデカいのか?!)


その手には大きな棍棒を持っており一撃殴らただけで昇天しそうだ。

ゴブリンが棍棒を振りかぶりたたきつける瞬間ユーマたちはそれぞれ回避した。

棍棒は地面を割り岩の破片が宙を飛ぶ。


(あれは死ぬな。間違いなく。)


回避もこちらがギリギリまで油断していたからできた。もし最初から臨戦態勢だったら警戒され

対応されていたはずだ。

ユーマはすぐに頭をフル回転させた。

おそらくソフィアは使えない。ユーマたちが逃げたとしてそれで戦闘可能になるまでに

叩き潰される可能性が高い。ライラは不明だ。何ができるのか見極めるために弱いゴブリンと

戦いにきているのに中ボス戦をする羽目になるとは。


「ソフィア!ライラ!逃げろ。俺が引き付けておく。」


「引き付けるってどうするのよ!」


「俺はスピードには自信があるんだ。だから俺が引き付けているうちにオリビア呼んできてくれ。」


「それじゃユーマが!」


(俺そこまでもろいやつだと思われていたのか。)


涙目になりながらユーマが


「これが最善だ。早く行け!」


そう言い自分からホブゴブリンに突撃していった。本人の言う通り逃げの一手ならば時間は

稼げている。ソフィアとライラは動けずにいる。やがて


「~~~~~っもう!!」


ソフィアが覚悟を決めて突撃した。ユーマがバックステップしたところを変わる形で突きを放った。

レイピアは貫通こそしなかったもののホブゴブリンを吹き飛ばすことには成功した。


「ソフィア!」


「いいから!あなたとライラが逃げなさい!そのすきに倒しておくから。」


ソフィアのレイピアを持つ手は震えていた。確実に無理をしている。だがユーマは


「……悪い。」


と一言言うとライラを担いで逃げた。できるだけ速く。


「バカ。」


ソフィアはレイピアを構える。ライラからの視線は感じるが距離もあることもあってそこまで気にはならない。

だが


(なんで未だに緊張しているの?!)


ソフィアは突きを数発撃ちこみ薙ぎ払いステップからの疾風<シルフィード>を放ったがどれも

緊張により威力が出ない。ゴブリンならこれでもオーバーキルだったがホブゴブリンは違った。

「はぁはぁはぁ」

万全でない状況で無理して動いているせいかスタミナの消耗も激しい。

逃げたとして追いつかれる可能性が高い。先に逃げた二人も例外ではない。

どれだけの俊足の持ち主でも一直線に走ればゴブリンに普通にスピード負けする。

「くそっ」

今までなら一人になれば戦えた。だが今は一人でも戦えない。


(本当どうしてしまったのよ私?)


ほんの一瞬の集中の切れがバランス感覚を失わせ倒れてしまった。

ホブゴブリンはにやけながら棍棒を振りかぶる。

避けられない。そう思った時。


「焼き尽くせ!ファイアーアロー!」


炎をまとった矢がホブゴブリンに当たった。




時は少しさかのぼる。

逃げている最中のユーマとライラが話していた。


「ソフィアが!」


「わかってるって!だからオリビア呼びに行くんだろ!」


(あいつ少し様子おかしかった。緊張のトリガーが増えたのか?!)


ユーマはスピードに自信あるとはいってもそれは新米冒険者ならの話だ。

本気のソフィアにかなうとは思ってもいないし瞬間移動のような芸当もできない。

おまけに今はライラを担いでいるので余計に遅くなる。

ライラはスタミナが無いからどうしても担いでいくしかない。


「ごめん。もし遅れそうなら置いて行って。」


「何言ってんだよ。置いてくわけないだろ。」


ユーマに担がれているライラが酷く申し訳なさそうに謝る。


(ライラは謝り方に悲壮感溢れすぎなんだよなぁ)


おそらく彼女の今までの経歴からそうしているのだろうとユーマは思った。

あの状態のソフィアに長期戦をさせたくはないがライラを置いていく気もない。

走りながらこの状況をどうにかする方法をただただ考えた。

何か引っかかった。

ズザーっという音を立てて無理矢理止まる。


「ユーマ?!」


ライラが驚きの声を上げる。それを無視して。


「ライラあの暗闇の魔法の効果を教えてくれ。」


「あの魔法は闇の息吹ダークネスコートって言う強力な幻惑魔法。

 効果は内部の対象の知覚を消すこと。」


つまり暗闇で覆えばその覆っている人間の知覚が消えるということか。覆う範囲が多い程効果も上がるらしい。

待てよ?


「ということは?!」


「ん?どうしたの?ユーマーーー?!」


急いでソフィアのところまで戻る。この方法なら戦えるはずだ。



ソフィアとホブゴブリンが戦っているのを確認するとユージはポーチから魔石を取り出し

クロスボウにセットするそして通常の算段で矢を放った。

矢は飛んでいく途中で炎を纏い、風圧でより勢いを増しホブゴブリンの顔面に当たる。


「これぞ必殺ファイアーアロー。」


「ダサい。」


ドヤ顔する暇も与えてくれない。ライラもユーマの扱いが分かってきたようだ。


「あなたたち?!なにやってるの?!」


ソフィアがこちらを向いて驚きの声を上げる。緊張している感じはない。

それほど余裕がないということか。

ユーマはライラを背中に回し、おんぶの体勢になる。


「行くぞ。ライラ!」


「うん。」


そして足に力をこめてホブゴブリンへ向かった。

ホブゴブリンがこちらへ向けて棍棒を構える。軌道も位置もバレバレな構え。

どう見てもなめられている。だがそれはそれで好都合。

ユーマは直進し棍棒が上からくるのを見るとライラをホブゴブリンの背後まで投げ棍棒をぎりぎりで回避した。


「……闇の息吹ダークネスコート限界突破オーバードライブ。」


ライラを中心に暗闇の爆発が起こる。その暗闇は拡張していきやがてこの場の全員が暗闇に入った。

何も見えないし聞こえない。完全に中に入ると自分の近くにまで影響を及ぼすようだ。

だがここまでやればいいだろう。


「ソフィア!!!」


どこにいるかわからないので力の限り叫ぶ。

応える声があった。


「ええ。任せなさい。」


風が吹く。風は勢いを増し一か所、ソフィアの元へ集まる。


「鮮烈なる風。我らが道を切り開かん!疾風の槍(ヴェントスピア)!」


ダークネスコートを吹き飛ばすほどの強烈な風の槍。いつものごとく音しか聞こえないが

いつもよりも勢いが強く感じた。そして暗闇が晴れると地面が抉れ周囲の木々が倒れていた。

ホブゴブリンの姿はなかった。


「本気でやりゃこんだけ強いんだよな。」


力の差を感じ少しやりきれない気持ちも出るかと思ったが


「凄い!ソフィア!」


「いや…あの…ライラそういうのはちょっと照れちゃうから…」


あれを見たらそんな気持ちもでなかった。

自体そういうところ気にしないのもある。


「そういう勝算は素直に受け取っておけよ。」


「ユーマまで…。」



街に帰った後アリアから相当な心配をされた。どうやら今日はゴブリンの出産日だったらしく

ホブゴブリンが外で誰も入らないよう見張っていたらしい。ゴブリンの出産が少し気になった。

あの後拾ったホブゴブリンの角をアリアに見せたら追加の報酬をもらった。

ユーマが夜に街を散歩していたらライラがいた。

橋の上で星を見ていた。話しかけるべきか迷い無視した。


「ユーマ。」


気付かれてしまった。


「おう。奇遇だな。」


「今無視した?」


「……………」


「……………」




「私いろいろなパーティを転々としてた。」


その数20近いらしい。ユーマなら自殺してる。


「私が戦えなくても歓迎してくれたのはユーマが初めて。」


「そうか。」


「ありがと。」


そういいながらライラは頬を赤くした。それが何とも愛らしく感じたユーマは

頭を撫でながら


「何度も言ってるだろ。うちは変わり者歓迎だって。」


ユーマが頭を撫で終わるとライラは名残惜しそうにそれでいて嬉しそうに


「ありがと。」


と言った。



ソフィアは自分の部屋で考え事をしていた。

なぜ戦えなくなったのか、変化があるとすればユーマが原因だろう。ユーマのことを考えると苦しくなる。



自分の弱さが認められている気がして。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ