初のパーティ戦
化粧をした男と思われる人に話しかけられた。
「命は粗末に扱うもんじゃないわよ。ボーイ。」
わよとか言っているが声は完全に男である。
だが服装は修道女とかが来てそうなローブを着ている。
サイズが合わないのかぴちぴちで腕の筋肉が浮き出ている。
「この男。本当に死ぬ気はないですよ。いつもの冗談だから安心してください。」
「あらそうなの。若い世代はすぐに命を粗末にしたがるやんちゃが多くてね。アタシちょっと心配になっちゃってね。」
ウインクしながら言っている。ユーマは特殊性癖を嫌ったりはしないがこう黒人系ジャガイモ顔で言われると少し思うところがある。言っていることが正しいだけに。
「まあサンキュー。一つしかない命。お互い大事にしないとな。んであんた誰なんだ?」
そういわれるとその男(?)は、腕を曲げて立派な力こぶを見せながら言った。
「アタシはオリビア。ハイプリーストやってるわ。」
「ハイプリーストってあのハイプリースト!?」
そういったのはソフィアだ。確かにあの筋骨隆々がハイプリーストというのには驚いたが。
ユーマにはいまいち凄さが分からなかった。
「そんなに驚くことか?」
「ハイプリーストっていうのは上位二次職の一つでなるためには全千問もある筆記試験を突破して、実技試験ではで300人の試験官全員の認可が必要なのよ!」
それはすごい…。すごすぎではなかろうか。
あのオカ……お方意外と侮れん。何故そんな人がこんなパーティに入ってくれるのか。
もっといいところもありそうだろうに。
「なぜあなたみたいな方がこんな初心者の街に?」
ソフィアがこちらの疑問も伝えてくれた。そういえば初心者冒険者の街である。
「女は謎が多い方がいいのよ。金髪ガール。」
またウインクしながら言っている。金髪ガールとはソフィアの事でいいのか。
「はぁ……そうですか。」
さすがのソフィアも少し引いている。いや緊張しているの間違いか。
オリビアからは歴戦の戦士のような不思議なプレッシャーがある。
「本当にうちのパーティに入ってくれるのか?」
「ええ。そのためにこの街に来たんだもの。」
結成から一週間ほどしかたっていないがうちのパーティも随分出世したものだ。
「それから一つ聞いていいかしらん」
「はい。どうしたんですか。」
「そこの女の子もパーティメンバー?」
「はい?」
オリビアがソフィアの後ろを指さす。
そこには黒い人形のような女の子がいた。
「うわっ!いつの間に!」
「ども。ライラです。よろしくです……。」
その女の子は深々とお辞儀をした。
結成したパーティでさっそくクエストに出た。
内容はウェアウルフの群れを狩ることである。
「まさか一気に二人も増えるとはなぁ。」
「そうね。なんか緊張してきたわ。」
いきなり2人増えるとは思ってもいなかったのだろう。
普通に考えれば連携の成功率とか思うのだろうがソフィアは普通に緊張している。
「ライラはどうしてうちのパーティに入ったの?」
まだ名前で呼ばれなれていないのか少し下を向いている。
ソフィアの同類な気がしてユーマは少し心配になってきた。
「……どこのパーティにも断られて一人でいたらアリアに薦められた……」
アリアさんか。頼んでからすぐに人を薦めてくるなんてさすがアリアさん。
できれば人は選んでほしかったという本音もあるが。
「まあうちは変わり者大歓迎だから気にするな。」
「……ありがと。」
ライラがフフッと笑いながら言った。普通に可愛かった。
「しかしアナタも罪な男ね。」
オリビアが言ってきた。
「何かやらかしたか俺?」
「新人冒険者が美女三人に囲まれてるのよ。周りから嫉妬されるわよー。」
何て楽しそうに言ってるオリビア。だが実際にそうなのである。
ソフィアは金髪の青いつり目で冷たい印象はあるがファンも多い。
聞いたところによるとファンクラブなるものまで存在しているらしい。
さすが「高貴なる女勇者」は伊達ではない。
ライラは黒髪ロングの赤いタレ目で背が小さい。
ユーマの一つ下で16才だ。
コアなファンがいるとかいないとか(本人談)。
オリビアに関しては謎が多すぎて何とも言えない。
言いたくない。
みなそれぞれいいところはあるのだ。
少し癖が強すぎるだけである。
ウェアウルフの群れは森を抜けた平原に出るらしい。
四人は森の中で虫型の雑魚モンスターの群れに囲まれていた。
そこで悲しい事実に気づく。
「な…なぜだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユーマの矢が当たらなくなっていたのだ。
以前当ててから一週間ほど戦っていないせいで、
勘が鈍ったのだろう。その理由は考えたくなかった。
「ふっ少しはやるようね!でもまだまだよ!」
メンバーが増えたせいか、ソフィアの動きが相当おかしなことになっていた。
かっこいい啖呵を言いながら誰もいない所で何かと戦いを繰り広げている。
あの様子だときっと苦戦しているのだろう。
「……余裕。」
ライラに関しては最初はマジシャンと聞いていたのだが
戦闘になるや、魔法で鎌を取り出して接近戦を挑んでいたのだ。
魔法は敵に対して一切使っていない。もちろん敵を倒せてはいない。
おかしいのは性格だけでなく頭もだったのかもしれない。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!チェストぉぉぉぉぉぉ!!!」
オリビアも強烈に癖のある戦い方だった。戦闘開始と同時に杖を投げ捨てローブの裾をまくり敵陣へ突撃。鍛え上げた拳で戦っていた。
ちなみにオリビアだけが魔物を倒せている。
「お前ら!ちゃんと戦えぇぇ!」
そういうユーマは矢が尽きて逃げている。
「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
甲高い声を上げてソフィアも逃げてきていた。おまけにソフィアはウェアウルフの群れから逃げていた。
「あれクエスト対象じゃね?あいつなんてもん連れてくるんだ!」
今囲まれている虫…ビートバグと呼ばれているそれは一体だけならそこまで脅威ではない。
が、集団になるとうっとおしく厄介だ。そこにウェアウルフの群れまで来たのだから軽めの緊急事態だ。
ソフィアはなすすべもないままユーマを巻き込み逃げ続ける。
ユーマは立ちどまりソフィアに提案した。
「ソフィアとりあえずここは協力しよう!」
「協力?」
「ああ。まず俺はあの木に登ってから敵を翻弄するから
お前は下で残りを倒してくれ!」
「それわたしに押し付けようとしてるわよね!」
「ななな何のことかな?」
ユーマはソフィアの体を押そうとした。しかし
「動かねぇ。やっぱ重いのか。」
「一度ならず二度までも~。このバカぁ!」
ソフィアがユーマをぶん殴った結果ユーマは飛んでいき
追ってきていたモンスターの中心へ落ちていった。
「あいつ!魔物の群れの中に仲間吹きとばすか、普通!」
ウェアウルフのうちの一匹がユーマに襲い掛かった。
「やばっ!」
ユーマはタイミングよくローリングで回避する。
するともう一匹が襲ってきた。ローテーションを組んで
獲物を疲れさせる算段なのだろう。しかし恥ずかしいことにユーマは
最初からスタミナ切れだった。ユーマが死を覚悟した時黒い影が動いた。
「……成敗。キリっ」
ライラが風を思わせるスピードで突っ込んできて助けてくれたのだ。
成敗と言っているが勿論倒していない。ダメージすら与えらず吹き飛ばしただけだ。
攻撃されたウェアウルフはピンピンしていた。
たぶん魔法を使えば倒せた相手だったのかもしれない。
かっこつけてこちらを見ているライラの後ろでウェアウルフが敵意をむき出しにしている。
「ライラ……お前……後ろ危ないぞ」
「…えっ?」
ライラが振り返るとウェアウルフが群れとなって飛びかかっていた。
「ライラぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁあああああああ!!」
歴戦の戦士のような気迫と共に現れたのはオリビアだった。
音速を超える勢いでこぶしを打ち込んでいきビートバグだけでなく
ウェアウルフまですべて片づけた。
ユーマたちは満身創痍になりながらなんとか街まで帰った。
依頼の報酬金はすべてオリビアに渡そうとしたがオリビアの御厚意によりパーティで平均して貰うことになった。