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遅れてきた勇者

以前違うアカウントで少し出していたものを再掲しました。


草むらの中で身を潜ませる。

対象はすぐ近くで食事をしていた。

対象の名前はウェアウルフ。見た目はほぼオオカミ

と変わらず集団で狩りをする点も同じ。

なのだが群れからはぐれたのかそれは一匹でいた。

ウェアウルフの肉を持ち帰るのが仕事なので一匹でいるのはありがたい。

ユーマはクロスボウを持った右腕に力を籠める。

草むらから顔を出すとウェアウルフはまだ食事をしていた。

二ヤリと口をゆがめながら右腕を突き出し照準を合わせる。

そしてバシュッと音を立てて、矢が飛んで行った。



「ふ、楽勝だったぜ。」


結論から言うと失敗した。

矢は敵の右側へそれていき。ウェアウルフに見つかり

全力で街まで逃げ帰ったところである。

ユーマはスピードに特化していたこともあって

逃げるのには苦労しなかった。


「楽勝……だったんですか?」


そう聞いてきたのはギルドの受付嬢だ。

20代半ばといった感じのきれいな女性だ。


「まあね。ウェアウルフをスピードで翻弄してやったぜ。」


「逃げ切れてよかったですね。」


「一ミリも俺が倒したとは思ってないんだな。」


実際ユーマはここにきてから一週間ほど経っているが

一度もクエストをクリアできていない。


「パーティを組んでみたらいかがですか?」


「パーティ~かぁ…」


ユーマも最初はそれを考えていた。だが誰も入れてくれなかったのだ。

というより恐縮されたというのが正しいだろうか。

ユーマの持つ特性のせいである。

特性とはこの世界の住民が持つ特殊な力である。

ユーマが持つのは竜撃の王<ドラゴンスレイヤー>という特性で、

世界を救った英雄の持っていたものと同じであるらしい。しかしこの世界の

竜種はすでに英雄様が絶滅させてしまったのだ。

なのでユーマのこのスキルは完全な死にスキルである。

恐縮されたとユーマは思っているがその実使えないやつと思われていることを

受付嬢は知っているが言わなかった。多分この現実をユーマは受け止められない。


「なんか避けられてる気がするんだよね。俺」


受付嬢が内心焦りながらフォローを入れる。


「そ、そんなことはないと思いますよ。よく皆さん口にされてますし。」


「え!マジで!やっぱ俺から出るカリスマ性ってやつは止められないのか~」


両腕を上げてやれやれだぜみたいなポーズをとっていたら


「よく遅れてきた英雄と言われてますよ。」


「それ完っ全にばかにしてるやつ!」


と受付嬢といつものコントを繰り広げていると


「どいて。」


すごい金髪美女が話しかけてきた。いや話しかけられたというより

注意されたのだが。いくらクエストを受ける人が少ないからって

受付で雑談はいただけない。


「ソフィー。おかえり」


「ここでその呼び方はやめてといったでしょ。アリア」


ソフィーと呼ばれた金髪美女は表情を変えずにそう言った。

ちなみに受付嬢の名前はアリアだったらしい。

ネームプレートの名前が読めなかったのでわからなかったユーマである。

ソフィーと呼ばれている少女は金髪の髪をポニーテイルにしていて

凛々しい印象があった。背はユーマと同じくらいで少しユーマの方が

大きかった。しかし育ちはいいようで鎧を着ていてもわかる膨らみが…


「大丈夫なのこの人。さっきからこっちじろじろ見てるけど。」


「少し変なところはあるけど行動に起こせるほど度胸のある人ではないですよ。」


「酷くねぇ?!」


「あなた時々言葉きつくなるわよね。」


受付じょ…もといアリアの新たな一面を垣間見たユーマだった。


「そうだ!ソフィー、ユーマさんとパーティ組んだら?」


ソフィーはおもむろに死ぬほどいやそうな顔をした。


「この人強いの?」


アリアは言葉に詰まる。本当のことを言うべきか、着色するべきか。

ユーマの捨てられた子犬のような目をみてアリアは


「あまり強い方ではない!ですよ。」


フォローになってないフォローのをした。


(アリアさん、それを弱いというのですよ。)


しかし強そうな人とパーティを組むチャンスができたのだ。

今日泊まる宿代も稼げていない身としてここで引き下がるわけにはいかない。

この機を逃すわけにはいかないとユーマは腹に力を込めていった。


「ソフィーさん!お願いします俺とパーティ組んでください!」



「んでここまでが基本事項。わかった?」


「いえす。ボス!」


「……本当に聞いてるの?」


ソフィー……ソフィアはジト目でこちらをにらんでいる。


「聞いてたよ。森にいるウェアウルフ…俺がとり逃した奴が人を襲ってるから

 退治しろって話だろ。」


「わかってるならよろしい。あと取り逃したのではなく倒せなかったの方が正しいわね。」


あの後、必死なユーマに対して必死の拒絶をしてきたソフィアをアリアさんが

説得してくれたのだ。アリアさんマジ天使。


「今回はウェアウルフ討伐か。一匹なら何とかなりそうだな。」


「それすら討伐できなくて困ってたんでしょ。」


「うぐっ」


反論の余地もない。だが今回はプロが一緒だから問題はないなとこの時は思っていた。



出会ったウェアウルフは左目を怪我していた。

ハンデありに加えてこちらは二人。


「あれがターゲットね。」


「ああ。前衛は任せたぜ。」


「私一人で十分よ。あなたは下がってなさい。」


ソフィアが持っているレイピアを構える。何度見ても絵になるなとユーマは思った。

ウェアウルフが戦闘態勢に入る。ソフィアとウェアウルフが互いの出方を見ている。

どちらもスピード重視の戦い方と言うこともあってか一瞬の油断が命取りなのだろう。

近くにいるだけで相当なプレッシャーを感じる。まるで一瞬が永遠に引き延ばされているような。

と言うより動かないまま時が進んでいた。


「ソフィア?」


さすがに様子見すぎな気もしたのでユーマはソフィアに近づいた。

するとソフィアの顔が真っ青になっていた。


「だい…大丈夫よ…。ソフィア、あなたならやれるわ!」


などとおかし事も言っている。おそらく錯乱しているのか。

何故だ?

ウェアウルフもどうしたらいいのか困惑している。


(敵が来て戦闘かと思ったら急に固まっていて拙者どうしたらいいかわからないでござる。)


とでも言いたげな瞳だった。なぜござる口調なのかはユーマのイマジネーションだ。

考えてみればさっきまでは複数の雑魚を相手していた関係上

お互いをあまり意識していなかった。だが今回は一匹である。

つまりはそういうことなのか?


「ソ、ソフィアさん?どうかしましたか?」


「………」


返事をしない。まるで石像のようだ。


「おーい。もしもーし」


「苦手なのよ」


ソフィアは小声で言った後、何か吹っ切れたように


「わ…わた……わたし、人に見られるの苦手なのぉ!!」


森中に大声が広がった。

「人に見られていると思うと急に緊張してそのせいでお父様とかにも迷惑かけて


 パーティ組んでも役に立てなくてそうなると孤立していって話し相手もいなくなって……」


ソフィアはしばらく叫んでいた。今までいろいろあったのだろう。魂の叫びだった。


(なるほど。だから俺と組むのを嫌がったんだな。)


自分に問題がないことが分かって少しホッとするユーマだった。


「ってそれどころじゃねぇ!」


そう敵から獲物に認識を変えたのかウェアウルフが襲ってきたのである。


「仕方ないっ!当たってくれよー。」


ユーマが放った矢は一直線跳びウェアウルフに当たった。


「あ、当たったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


だがウェアウルフにダメージを与えることは無かった。


「やばい!」


ユーマはソフィアを引っ張って逃げようとし


「重っ!!」


逃げることはできなかった。男のくせに情けないと思うがソフィアは鎧をつけている。


「重って女の子に対して失礼じゃない!」


ソフィアは目に涙を浮かべながらわめいている。先ほどまでの凛とした騎士様はどこへ行って

しまわれたのか。


「じゃあどうすんだ!このままじゃ食われちまうぞ!」


「目……隠して」


「はい?」


「目隠しして!見られなければ大丈夫だから!」


「それでいいのかよ…」


半ば呆れながら手頃な布を探す。するとソフィアが何か差し出してきた。


「これ。使って。」


黒い布である。すいか割りとかで使うような。こんなもの常備するとか


「おまえ……」


この娘、割とダメかもしれない。そう思いながら目隠しをきつく縛った。


「見てない?」


ソフィアが不安そうに聞く


「見てない。見てない。目の前真っ暗で不安なくらいだ。」


「そう。ならいいわ。」


ソフィアが本領を取り戻す。二重人格を疑うレベルで。


「精霊よ。わが呼びかけに答えよ。疾風<シルフィード>!」


まずは風がソフィアの持つ剣へ向かって集まっていくそれが渦を巻いて

ドリルのような形になっていく。その剣を使った渾身の突きウェアウルフへお見舞いした。

ユーマにはそのようなものは見えていないのでなんかドガンだのズガンだの聞こえて

それがやんだころには


「もう終わったわ。外していいわよ」


そういわれて目隠しを外すと森が半壊していた。


「私の家結構な金持ちでね昔から人の目にさらされて生きてきたの。

 だから無意識的にどう見られているとか強く感じちゃうのよね。」


それが思春期の年頃になって羞恥心へと暴走していったということだ。

反抗期とか末恐ろしくてたまらないと思う。


「ちょっとユーマ!聞いているの!?人がまじめな話してるのに!」


「ん?ああ…」


二人でいると少し態度が柔らかい気がする。普段の態度は

緊張からくるものなのだろう。ユーマもそうだがソフィアも

悲しみを負った人物であるようだ。



「ユーマさん。初クエストクリアおめでとうございます。」


「ふっ、楽勝だったぜ。」


「何言ってんだか。ほとんど私一人の戦果じゃない。」


そういうソフィアを横目で見るとソフィアは顔を赤らめながら目をそらした。

ユーマの初クエストクリアはギルド内の盛り上げに一役買ったらしい。

酒を飲んだりしていた連中が一斉に騒ぎ出した。

どうやらクエストクリアできずに野垂れ死ぬか賭けていたようだ。

ちなみに9割がた野垂れ死ぬと思っていたらしい。

酷いやつらだ。


「おい!ユーマ!こっち来て飲めよ!」


大男のパーティに呼ばれた。たしかこの町のトップパーティだ。


「そんな男どもとじゃなくアタシらと飲もうよ」


というのはアマゾネスのような恰好をした女性だけのパーティだ。


「いや!そいつに目を付けたのは俺たちだ!」


「嘘つけ!おまえ陰口言ってただろうが!」


「あぁ!やるのか!」


「上等だ!」


あちこちで乱闘が起きたりもしていた。…この人たち仕事しなくていいのか。


「人気者ね。」


ソフィアがいつの間にか隣にいた。注目されるのが苦手な彼女はてっきり

もう帰ってしまったかと思っていたのだが。


「まあ、俺くらいになると抑えきれないカリスマ性が……どうした?」


ソフィアが人のいる場所で凍てつくような視線を送るのは知っているが

今は違った。ユーマの服のすそをつかんでいたのだ。


「ちょっと来て。」


というとユーマを引っ張ってギルドから出て行った。



先ほどギルドで飲んでた大男の話によればソフィアは実力はあるが友達がいないらしい。

難しいクエストでも魔物が進行した時も単身飛び出して壊滅してくるので

「高貴なる女勇者」なんて呼ばれている。「遅れてきた英雄」のユーマとは

大きな違いである。


ギルドの裏の人気の少ないところに来た。噂によるとここでは

男女の危ない遊びが行われているとかいないとか


「何の用だよ。」


ユーマは言いながらいろいろと考えていた。


(こんなところまで呼び出して何する気だ?まさか殺されるのか?!)


ソフィアの秘密(?)を知ってしまったのだ。口封じに殺される可能性は大いにあり得る。

どう切り出したものかとユーマが考えていると、ソフィアが


「今日はごめんなさい!」


と頭を下げて謝罪してきた。今日はと言っているのでクエスト中のあの体たらくのことを言っているのだろう。

クエスト中はユーマも思うところがあったが結果的に彼女のおかげでとりあえずは生活できそうなので

何か求める気は今のユーマにはなかった。何より目に涙を浮かべているソフィアを見ていられなかった。


「別に頭まで下げる必要ないだろって。」


ソフィアは半泣き状態で


「いいんでずか?」

と聞いてきた。早く鼻水吹いてください。


「別にこっちも助けられたしな。ありがと。助かった。」


素直に感謝をした。他人に素直になるのはユーマにとっては珍しいことだった。


「それで、一つ頼みがあんだけど」


「何?」


ソフィアはもう調子が戻っているようだった。まるで二重人格だ。


「よければ、これからもパーティ組んでくれない?」


何も今日の生活費を稼げればいいわけではない。生きていくためには仕事をする必要があるのだ。


「こちらこそお願いするわ。あなたには秘密を隠してもらわなければいけないしそれと…」


「それと?」


「人前で戦えない癖を強制するのにもよさそうだし。」


たぶん本音はこちらなのだろう。まあユーマが他言するようなことが

あれば容赦なく疾風<シルフィード>だろうが。


「まあとりあえずよろしく。ソフィア。」


「ええ。こちらこそ。ユーマ。」



こうして遅れてきた英雄と恥ずかしがり勇者の冒険が始まる。

彼らの目指す先にあるのは希望か、絶望か。






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