表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠鳥の娘  作者: 北見深
7/8

その後の娘 3

ぶおおおおおぉん!!


大きな獣の雄叫びが森に。少年とヨミ達の近くでビリビリと木の葉を揺らした。


ひぃ、とか細い悲鳴を上げたのは誰だったのか。

周りの空気が一変に変わる。

空気が冷え森の木が空を隠したように陰る。


現れる。


そう思った。


ヨミは薄い身体からますます体温を奪われた様に震えた。何よりも怖い。とても敵わない。

父と母の命を奪ったのと同じモノの気配。


「・・・なんだよ」

つるりとヨミから手を離し、少年。ジーンの方は慌ててデニスの元へ駆ける。

ぺしゃんと座り込んだヨミは、既に怖さが先だって動けずにいる。

顔だけ振り向けば、少年二人は手を取り合って不安の表情のまま固まっていた。

その背後で顔を腫らしてアロームが座り込んでいる。


がさり。

のそり。


見たくないのに顔はそれを見ようと動く。


ああ。


前屈みだったソレは立ち上がる。黒い筋肉質の体躯は村の力自慢の大人だって負けてしまうだろう。全身に邪悪な気を纏い、四人を睥睨する瞳は赤。獣の足。大きな角。その顔は雄牛。黒い魔物。

ヨミは嗤う様に開いた口から涎が垂れるのを見た。


怖い。と、それだけしか考えられない。お父さんから色々教わったはずなのに。


一歩。がさ、と、踏み出す魔物。


どうしよう。どうするんだっけ。と真っ白な頭で考える。


獣の長い爪がついた手がヨミに伸ばされた。


「今だ!」


草を蹴立てて走る音。

振り返ればデニスとジーンが逃げる後ろ姿。


勝手にぼろぼろ流れる涙で戻った視界はまた潤む。

座り込むアロームも、がくがくと震えているのが解るぐらいだ。

アローム助けて。と、声にならないままヨミは手を伸べた。


ぶぉおおぅ!


嘶き、ヨミの襟首に獣の手が届く。

ぐいと持ち上げられ寸の間息が詰まる。両の手で襟を持って広げる。獣は軽々ヨミを宙に持ち上げた。


「うわあああ!」


叫び声に苦しい中目を向けると、アロームが駆けていくその背が見えた。


一人ぼっち。残された。


獣はヨミを見定める様にぶらぶらしていた。持ち上げ下から覗き込む。どうやって、いや、どこから喰おうかと考えているのだろう。人型に近い雄牛の型の魔物だが、知能は低い。

ご馳走で遊ぼうと考えているかもしれない。


怖い。と、ヨミは思う。

誰の大切な人でもなく、ここで終わる。

牙がテラテラと光っている。

怖いよ。


獣の呼気が近い。


怖いよ。お父さん。お母さん。助けて。誰か。だれか。



赤い目が瞬いた。


『コレは見て覚えなさい』


嗤う様に口が開く。


『ヨミだけを助けてくれる』


何処を喰おうか迷っている。


『召喚の陣』




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ