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籠鳥の娘  作者: 北見深
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その後の娘 2

娘さん。苛められております。


お絵かきをしよう。

内緒だぞ。

憶えたら消しなさい。

記憶の中に、

深く、

深く。

沈めてしまおう。


いつかきっと、

必要になるその時まで。



喉が痛い。

たくさん走っているせいだ。

大きな木を避けても枝が腕をかすめて擦り傷を作る。

きつくなってきた革靴から覗く素足の部分に剣のような葉が鞭のように当たる。

森の木々はヨミを簡単に隠してしまうほど広大なくせに、今は背後からの追い手からヨミを隠す事は無い。


息が苦しくなっても足を止める訳にはいかない。

やっぱり自分は森から出るんじゃなかったとヨミは後悔した。



今日はアーロムの家に行ってその妹に会った。

あれから。

ありがとな、と彼が言ったその時から、少年は時々ヨミの小屋に来た。楽しく会話するでなく、ただぽつぽつと会話を繋いで、それで帰っていく。

不思議な交流の後、少しずつ解れて来たヨミの心。

少しづつ村に足が向くようになっていった。

村の人々はヨミを遠巻きに見るだけで害はなかった。だから、少年。『アローム』と名乗った彼とその家族との交流も、遠巻きに窺われているだけだった。

今日、その日まで。


「あっちにいったぞ!」

「ちょこまか動きやがって!」


二人組の少年達はヨミを追い詰めるのに一生懸命で森に入り込んだ。

何が気にいらないって、『チビ』で『女の癖に魔法みたいなモンを使って』日々、大人たちの為に働いている俺達より『重宝』がられている所だ。

今日こそあのチビに思い知らせてやる。俺だって、役に立ってるんだ。親父だって言ってる。女に甘い顔してるとつけあがる。ちゃんと解るように話し(・・)をしなきゃなんねぇって。


「やめろよ!」


背後から意気地なしのアロームの声が聞こえる。

まだ、着いて来ている様だ。

アイツにも思い知らせてやる。どっちが偉いのかって。


兎を追い詰める猟犬になった気分だった。

賢い猟犬。

獲物はもうすぐ手が届く。少年たちは高揚感で雄たけびを上げた。



ヨミの短い髪がとうとう掴まれた。

「あっ!」

思わず声が漏れる。

後ろに身体が倒れて、バランスを崩したまま身体を地面に打ち付ける。

かほっと息が詰まる。

「やっと捕まえた」

頭上からの声を見上げる。

にやけた顔の大柄な少年。子供らしくない厭らしい笑みでヨミを見下ろす。

「どうする?デニス」

もう一人、小狡そうな狐顔の少年が呼びかけた。

「そりゃ決まってんだろ」

見合う二人は楽しげだ。

ヨミがそっと起き上がろうとしたら、腹の上に狐顔の少年の足が下される。

「うぅ」

薄いヨミの腹はぺしゃんこになりそうで苦しかった。

「動くなよ、チビ」

「お前は大人しく森の中で水集めだけしてりゃ良かったんだよ」


デニス。の方がヨミの頭を踏みつける。力は入ってない様だったがぐりぐりと容赦なく地面になすりつけるように踏むのだ。


「デニス!ジーン!乱暴な事はやめろよ!村長に言うぞ!」


やっと追いついたアロームは息を切らせながら叫んだ。



ヨミは、苦しくて、痛くて、悲しい。



「はぁ?!」

「アローム、テメェ何俺に指図してんだぁ!」


デニスの足が退いて蹴った土が目に入る。

痛くて、手で拭っていると、胸倉を掴まれた。

ぐいと引き上げられても開かない目。


「やめっ・・!」

「うるせぇ!!」


アロームの声に怯えが混じるのが解る。

何かを殴ったような重い音。どさりと落ちる音。



怖い。


眼が潤む。泥が流れて行く。


「お前もだ」

嗤いを含んだ声がヨミを持ち上げ苦しめるその手の持ち主から発せられる。


「やめろ!ジーン!」

「大人しくしてろっアローム!」



怖いよ。お父さん。


『森で騒いではいけない』


喧騒は魔を呼ぶ。




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