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籠鳥の娘  作者: 北見深
5/8

その後の娘 1

家族の話しはお別れで終わってしまいましたが、ヨミのその後を少々。

(数話続きます)

 かえってこなかった


 帰ってこなかった


 帰って来ないと


 やっと気づいた


待っても待っても

もう、絶対に帰って来ないのだと


気付けば季節が一巡していた。




始めは、ヨミは村に居た。孤児のヨミでも村預かりとして放り出される事は無かった。


村長さんのおばあさんのお家。

でも。

ヨミは不用意に『陣』を書いて発動させた。

おばあさんが水汲みがおっくうだというから、お父さんに教わった盥に水を溜める為の文様をおばあさんの家の桶に描いたのだ。


翌朝には、桶一杯の水。

もう、これでおばあさんが重い水を運ぶことも無い。ヨミは自慢げに、お父さんの様に褒めて貰おうとおばあさんに桶を見せた。


その日から、ヨミは元の両親との小屋に戻った。

時折、村の人が食料や、日用品を持って来てくれる。

ヨミの目につかないよう。そっと。


ヨミは初めて知った。


おばあさんの驚愕の表情に、気味悪いモノを見る目に、父とヨミは普通では無かったのだと。

だからお父さんは、内緒にしていたのか。

お父さんと二人の時だけだと。決して他の誰にも見せてはいけないと。




それでも、時は勝手に過ぎて、ヨミはどんどん子供から少女へと変化していく。


村人はヨミを畏怖して遠ざけているが、桶に水を溜めたような『陣』は便利だから日照りが続く日などは、村長が甕を持って直々にやってきたりする。「いいかい?」と気遣うように聞いてくる。

ヨミは頷いて翌朝までにその甕をいっぱいにする。

ヨミの書くモノはどの位の威力になるか解り難い為、いくつか桶を戸外に置いて貯まる様子を見ながらいっぱいになったら甕にその水を移すのだ。

森に近いヨミの家は、村の水が少なくなった時でもそれなりに水が貯まる。

『空にある恵みを分けて貰うんだ。ほんの少しだけだぞ』

お父さんの言葉は心の中にある。



桶を眺めていると、不意に影が差して、見上げると男の子が立っていた。

村の子だ。

ぴちょん、と音がする。

ヨミは桶を見下ろす。

男の子がヨミの隣にしゃがんだ。


ぴちょん。ぴたん。


桶の中で水が跳ねる。勝手に現れた水滴が落ちる音。

隣に座る男の子はヨミより一回り大きいから年上だと思う。

見たことがある様な気もするが、他の子と遊んだ経験の無いヨミには記憶がおぼろだ。


「面白いな」


唐突な言葉に肩を跳ねさせつつかろうじて掠れた声をかえす。


「うん」


「それ、魔法?」


「知らない」


久しぶりにまともマトモに喋った気がする。


「ヨミ」


「え?」


更に久しぶりに名を呼ばれてびっくりする。

「ヨミって言うんだろ?」

「うん」

目を合せれば男の子は神妙な顔をしていた。

「ありがとな」

何が?って思ったのが顔に出ていたらしい少年は苦笑して答える。

「水」

「み、ず?」

ヨミは繰り返す。水は大切だ。余分に取るんじゃなければ、こうやって水を増やせばいい。とお父さんがいっていた。その通りにしただけ。

「妹に、我慢しろって言わなくてすんだ」

風邪ひいて熱が出てたんだ。と彼は言った。

今はその妹も元気になって、寝台から出たくてうずうずしているらしい。


ありがとな。ってもう一度言って彼は立ち上がった。

顔は晴れやかな笑顔で、ヨミの胸の辺りがほんわか温かくなった。


おとうさんに『良く出来た』って頭を撫でられた時みたい。



少年が立ち去っても、ぼうっとその方向を見ていたヨミだったが、はっとして作業を再開した。

夜が更ける前に終わらせよう。


ふと、家の窓を覗いたヨミは、その中にかつての家族を見た気がした。


食事の用意をするお母さんの背中と、それを並んで待ち遠しくしている父とヨミ。

ふんわり笑って振り返るお母さんと温かい料理の匂い。


桶にぴちゃんと水が跳ねた。


ヨミの力について。

世界には『魔力』があって、それが使用出来る回路を持つ人がいる。

ヨミは産まれつきその力がある。

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