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籠鳥の娘  作者: 北見深
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ヨミのお父さんが消えた

顔もあっと言う間に忘れてしまったけど、やさしくて大きい人だった。

幼かったヨミはその位しか覚えていない。


気付いたらいつもやって来る優しいオジサンが新しいお父さんになっていた


「おとうさんって呼んでいいの?」


そうだ。これから俺がヨミのおとうさんになるんだ。

優しいオジサンはヨミのおとうさんになった。







泣くな、怯えるな。

心を強く持て。





優しかったお義父さんは、文字や絵の『勉強』を教えてくれるようになると「泣くな」「怯えるな」と途端に厳しくなった。



意味が解らず、ヨミは怯えた。怯えると父は顔を険しくする。母は困ったように見るだけだ。

最初、庇ってくれていた母も、父に説得されて何も言わなくなった。


 寝入った後、不意に目覚め、怖くて部屋の戸を開けたら二人で仲良く話しているのが見えて、声を掛けられず戸を閉める。そんな時、おとうさんはお母さんと一緒に居たいだけで、自分はオマケで要らないんだと悲しくなる。

父は遅くまで何かを書き留めていて、前みたいに一緒に寝てくれない。

 母は一緒に居てくれるけど、朝早く仕事に出かけるので、朝食はいつも父と二人。難しい顔をした父親に、もそもそパンを食べるヨミ。

会話は「ソレを食べたら練習だぞ」また『勉強』の話し。

遊びたいと言える気配もない。




親子は村から少し離れた場所に居を構えていた。


狩人の父は森に出る魔物も狩ったりする。村では信頼の置ける立派な人だ。


前のお父さんが居なくなって一人で娘を育てていく事になったお母さんの所に、毎日の様に訪ねて来ていたオジサン。

母の信頼も得て、村の人の応援もあってオジサンから『おとうさん』になったのはそんなに遅く無かった。




勉強は毎日外で。

次々出される課題はどんどん複雑になって行く。

「違う!」

地面に描いた文字が完璧で無かったと突き飛ばされ、父は足でその複雑な、見本を真似た字を足で消してしまった。

綺麗に書けたと思った絵文字が乱暴に消されたのを見て、ヨミはわあ~んと泣き出した。

見かねて母がやってくる。ヨミを抱き留めてくれた母は、ヨミの涙を拭いながら言った。

「お父さんは貴方の事を思って言ってるの。解ってあげて」

お父さんの言う事を聞きなさい。いい子ね。と。




父は最初貴重な紙を使って読み書きを教えてくれていた。その合間に綺麗な絵も。


丁寧に優しく。出来ると頭を撫でてくれた。


何が切っ掛けか、ヨミは覚えて居ない。


ある日、ヨミの記憶では。突然に厳しい顔で無理やり文字を、絵を勉強として教わる様になった。

紙を使わせてくれなくなったのはヨミが書き損じたからかも知れない。

こっそり紙に書こうとしたら、気付いた父に怖い形相で睨まれて手を叩かれた。

赤く腫れた手より紙の心配をしていた父。

紙は貴重だから、そう、自分に言い聞かせた。




 失敗する度、突き倒され、痛くて泣いて増々怒った父に肩を掴まれ怖い顔で何かを言われる。ヨミには難しすぎて解らない何か。





泣くな、怯えるな。

心を強く持て。




父の口癖。




何度も言われる言葉に、心が委縮する。


それでも父が教えてくれるのは嬉しくて、唯一書くことを許された地面に、木の枝で土を削って書き連ねる。

父も同じように膝を付いて教えてくれるから、その時がヨミには幸せに思えた。


ただ、失敗したり間違えた時の父の怒りの怖さを考えると憂鬱ではあった。


 間違えるとヨミは大抵腕で払われたり突き飛ばされたりする。小さなヨミは弾かれて飛んでしまう。

そんな父が怖くて縮こまり、練習から逃げ出したりもした。家の中では見つかってしまうから、森に逃げた。

 暗くなると怖くて自分から出て来てしまうけど、明かりの付いた家にほっとして、背後から聞こえた「ヨミ」って声に身震いする。

振り返れば思った通り父で、顔は暗くて見えないが、きっと怒っている。

ごめんなさい。

小さな謝罪は聞こえたのかいないのか。

 ただ、抱き上げられて連れ帰られた。

父の顔を見ようとしたけど、ぎゅっと頭を肩口に押さえつけられていて解らなかった。

帰って母にしこたま怒られた。




厳しくなった父は気まぐれに優しくすることがある。


激しい雷雨の夜。母が帰れなかった日。ヨミを抱きあげて一緒に寝てくれる。

遊んでくれなくなった父は代わりにヨミを狩りに連れていき獣の狩り方を教えてくれる。疲れて歩けなくなる頃、危険回避の為だと抱っこしてくれる。ぎゅっと抱きついてもその時だけは嫌がったりしない。

・・・むっとした顔はされるけど。





泣くな、怯えるな。

心を強く持て。




その言葉と共に育った。



ヨミも少しは背も伸び父の教えにも泣かずに付いていける様になった。


その日

すごく大きな黒犬がいると母に知らせて、

出て来た母が青ざめた。

黒犬が跳躍したのと母がヨミを突き飛ばしたのとが同時。


倒れ、膝を擦り剥きつつ顔を上げれば、黒犬が母を引き摺っているのが見えた。

そのまま森に消えた・・・。


ヨミは母の後を追おうとして、自分の足では森は無理だと気付く、父に助けを求めようと思った。

少し遠いが、父は今日、村に狩った獲物を売りに行っている筈だ。

ヨミは走った。

父のいる場所に。

記憶を頼りに。

ファンタジー・・・

...からの

ジャンル変更しました。

すいません。


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