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異形人外恋愛系

なぜ彼女が熊に嫁いだか~裏事情を添えて~




 運命の赤い糸なんて伝説が、もし、実在のものだったとして。

 それが誤って別の世界の魂に結ばれてしまったとしたら?

 当然、二人は出会うことなく、孤独に一生を終えるでしょう。


 さて、そんな糸結び担当の神の使いが、創世期からの人口増加に伴う過重労働により朦朧と作業に従事していた時のことです。

 賢明な皆様方には早くもお察しのことかと思いますが、この神の使いが一組の男女の魂に赤い糸を結びつける際、うっかりと、ある失敗をしてしまいました。

 そう、本来相手となるはずであった者ではなく、一般に並行世界と呼ばれる別次元の、それも数え切れぬ程の層を隔てた遥か彼方の存在に運命を繋いでしまったのです。

 仮に今私たちの住まうこの星を一番目の地球とした場合、すぐ近くの二番目三番目の地球では、せいぜい全てが同じ世界の中で誰かたった一人の服装が異なっているといった程度の違いに収まります。

 なので、そちらに縁を繋いだとしても、該当の男女が結ばれる運命は変わらず、誤差の範囲内ということで問題とはなりません。

 しかし、その遠き地球はすでに、大いに異なる進化の過程や歴史を辿る、とても同一惑星だとは認識のつかない、異世界にも等しい存在となっていました。

 その結果、一本の赤い糸を共有する男女がどうなるかについて、もはや語るまでもありません。


 後日、己の過失に気付いた神の使いは、やはりオーバーワークで靄のかかる思考の中、ひとつの答えを導き出しました。

 出会えないから結ばれないのなら、同じ世界に連れていってやれば良い、と。

 本来であれば、始末書を提出し、やはり忙しい縁切りの神にアポを取って、お土産を持ち頭を下げてお願いして、上役も立ち合いのもとで糸を一度切断、改めて、正しい相手に結び直すといった工程が必要なのですが、日々膨大な職務に追われる神の使いは、独断でソレを決行してしまったのです。

 しかも、事実が発覚したのは、何十年と後。

 当該者の死により魂が回収され、その選別段階でようやく異層の人間が混ざっていたことが露見したというのですから、管理不行き届きも甚だしい神界でした。




 前置きが長くなりましたが、ここからするのは、そんな裏事情に巻き込まれた男女の出会いの話。

 一人の日本人女性が、見知らぬ森に転移させられた場面から始まります。 


 自宅で眠りに就いていたはずが、突然の屋外での覚醒ということで、彼女の反応としては、呆然とするより他ありませんでした。

 力の入らぬ腕で何とか上半身を起こし、地面に座った状態で辺りを見回しますと、そこが鬱蒼と木々の生い茂る深い森の中であることが分かります。

 昼間でも薄暗い自然の迷宮の中、女性はただただ途方に暮れました。

 真白に染まる思考は鈍く、自らの取るべき行動も全くといっていいほど浮かびません。


 と、そこへ、風による揺れとは違う、草木を掻き分けるようなガサガサという音が彼女の耳に飛び込んできました。

 いかにも大型の生き物の立てるソレに、これが肉食獣なら襲われて呆気なく死んでしまうのだろうか、痛いのは嫌だなぁなどと、未だ正常に再起動を果たさぬ脳内で考えます。

 やがて、真っすぐにその場所へと向かってきた何かが、背の高い雑草の群れの奥から姿を現せば、まさかの素っ頓狂な正体に、女性は口から思わず言葉を零しておりました。


「うわ、童話絵本に出てくる狩人みたいな服着た丹下DAN平クリソツ凶悪面の二足歩行のツキノワグマ来た」


 なんともファンシーなのかサツバツなのか判断に困る生物です。

 対して、座り込む人間を見下ろしたクマは、器用に顔面の筋肉を動かし訝し気な表情を作ってから、こう告げます。


「何だ、お前」


 中々のバス音域ボイスでした。

 ごく普通の地球の日本から連れられた女性ですから、動物がしゃべったという驚愕は当然あります。

 けれど、どうしてか、彼女は恐怖を感じるよりも先に、彼の存在に安堵を抱いたのです。

 まぁ、どうしても何も画面前の皆様方には最初に思い切りネタバレをかましているわけですが、そこはそれ。

 姿勢を変え、正座の形を取った女性は、真剣な顔をクマに向け、細い喉を震わせました。


「壮大な迷子です」

「ソーダイナマイゴ?」


 いまいち意味を呑み込めていない様子の彼は、彼女の(げん)を拙く繰り返します。


「如何なる理由によるものか、自宅で就寝したはずが、目が覚めたらこの森にいたのです。

 もし、あなたが悪い熊でないのなら、保護などしていただけると助かります」


 そこまで説明されてようやく合点がいったらしく、クマは眉間に皺を寄せて女性に尋ねました。


「誘拐か?」

「さぁ、その辺りはさっぱり」

「にしちゃ、妙に落ち着いてやがるな」

「あまりに日常とかけ離れ過ぎた出来事なので、多分、感情が追いついていないのではないかと」

「ふぅん」


 誠実に語っているというのに、興味がないのか、信用していないのか、彼女のセリフは適当に流されてしまいます。

 まぁ、初対面でいきなり曖昧かつ不可思議な話を聞かされて、全てを丸ごと受け入れるだけの度量のある人間など極めて少ないでしょう。

 しゃべるクマだって、おんなじです。


「実はちょっと夢じゃないかと疑っているんですが」

「残念ながら、現実だ」

「ですよねぇ。私、こんな五感全部で味わえる夢なんて見たことありませんし。

 参ったなぁ」


 力なく項垂れてみせれば、クマは自身の黒く鋭い爪で後頭部を掻いてから、溜息交じりに女性に宣言します。


「……まぁ、主張は把握した。

 色々と納得はいってねぇが、とりあえず、森を出てすぐの町まで連れていってやる」


 当人同士、与り知らぬことではありますが、仮にも運命の赤い糸で結ばれた相手です。

 普段はなかなか他人との壁のぶ厚い彼とはいえ、判断が甘くなってしまうのも仕方のないことだったでしょう。


「おぉ。これはこれは、ご親切に」

「とにかく移動するぞ、森は獣が出て危ねぇからな」

「はい」


 獣はお前だとツッコミが来そうな場面ですが、一応、どんなに動物そのものに見えても、彼は獣人の類であり、人間のくくりに入ります。

 そうして、クマは話を終えるなり、女性が立ち上がるのも待たずに背を向けて、手持ちの山刀で荒く雑草を刈り始めました。

 どうも、軽装の彼女が歩きやすいように、簡易的な道を作っているようでした。

 言及していませんでしたが、一応、神の使いの采配で、女性の服は日本の寝間着から、この国の平民が着用する麻生地のワンピースに変わっています。

 ついでに、外ですからブーツも履かされておりました。

 それでも、人の手の入っていない野生の森を動き回るには、無防備に過ぎる格好です。

 山登りにミニスカートとハイヒールなんて装備で現れるピチピチギャルのようなものです。

 事実を踏まえれば、怒鳴られぬだけ御の字でしょう。

 現在進行形で作られていく獣道を頼りなく歩きながら、彼女は彼のズボンから覗く愛らしい尻尾をガン見しつつ、神妙な声で語りかけました。


「あの、お礼は生活基盤が築けたら、必ずさせていただきます。

 助けた甲斐もなくアッサリ野垂れ死んでしまったら、その時はスミマセン」

「何だそりゃ」


 不穏な内容に対し手足を止め振り返ったクマへ、女性は感情のこもらない薄笑いで応えます。


「いや、なにせこの身ひとつの不審者ですから。一夜越えるも命懸けと申しますか。

 無一文ですし、そのまま浮浪者になって、通りすがりの誰かに日々乱暴されながら、やがてどこかの路地裏で衰弱死……なんて未来も十分有り得る話でしょう。

 いっそ、あなたが悪い熊さんで安い娼館とかに売られても、それはそれで即日寝食の場を確保できるという点ではマシかもしれないってな現実具合ですよ」


 彼女の最悪を想定した解説を受けて、彼は顔面を歪めて不快を表しました。

 間もなく、無言で前方に向き直り、山刀を振り上げ刈り込みを再開します。


「……お前な。

 最終、娼館の門なんぞ叩くぐれぇなら、孤児院にしとけよ」


 大股で進むクマの後を鳥の雛のように一心に追いかける女性は、ふと頭上から届いた提案に首を傾げました。


「えっと、私、成人してますけど」

「見りゃ分かる。

 この辺りは領主が熱心で運営費がそこそこ出てっから、事情を話して院の手伝いでもすりゃあ、給金までは出ねぇにしろ、飯と寝床ぐらいは恵んで貰えんじゃねぇか。

 そこで認められりゃ、いずれ真っ当な働き口も紹介されるかもしれねぇしな」


 普段の寡黙であまり人に関心を示さぬ彼を知る者が見れば、誰もが驚くであろう長文と親切ぶりでした。

 さすがは伝説の運命の赤い糸、バリバリ仕事をこなします。


「おぉ、あなた良い熊。私に生きろと言いますか」

「はぁ?」


 感激した彼女から某有名ゲームの商人口調が飛び出しました。

 当然ながら、そんな知識のないクマは、顔面横に疑問符を浮かべています。

 とはいえ、わざわざ説明する気もないようで、女性は何事もなかったかのように会話を先に進めました。


「しかし、子供たちのために支払われている公金を、個人的すぎる都合で齧るのも気が引けますね。

 そもそも、未来ある幼な子らの(その)に、自分のようなお里も知れぬ不審人物を招き入れようなど、少々危機意識が足りないのでは?」

「テメェの人生が明日も知れねぇってのに、なんで、ここでそういう無駄に崇高な倫理観を発揮すんだよ」


 首を回し呆れた視線を送ってくるクマへ、彼女は肩を竦めて返します。


「さて。国民性ですかね」

「どんな国から来たってんだ」

「働きすぎが原因で死ぬ人が沢山いる国ですよ」

「イカレてんな」

「まったくです」

「…………調子の狂う奴だ」


 奇妙な人間の答えはとにかく予測がつかず、彼は空いている左手で頭を掻いて、乱れそうになる気を落ち着けました。

 いかにも胡散臭い存在であるのに、なぜこうも胸の奥深くが疼いてくるのか、クマは自分自身が分からず僅かに困惑を覚えます。

 その正体が育ち始めたときめきラブハートであるなど、朴念仁な彼に理解できようはずもありません。


 さて、移動の合間にポツリポツリと言葉を交わす二人でしたが、ふと、女性がとある献策を行ったことにより、彼らの周囲に漂う空気が妖しい方向へと変わっていきます。


「ちなみにですが」

「何だ」

「養ってみる気はありませんか」

「あ?」

「お手伝いさんでもお嫁さんでもいいので、あなた、私という人間を養ってみる気はありませんか」

「はぁあああ?」


 突然かつ想定の範囲外から剛速球を投げつけられ、動転したクマの手から山刀がすっぽ抜け近場の木に刺さりました。

 ヒヤリハット!

 早急な報告書の提出が求められます。

 意味が分からなければググってください。


「私、壮大な迷子なんですよ。

 壮大すぎて帰る方法も分からないくらい、それはもう壮大な迷子なんですよ。

 とすると、ここで骨を埋める覚悟を決めなくっちゃあならない。

 善意も悪意も蔓延る世の中、初めて出会ったのがあなたの様な良い熊さんであったのは、これはもう相当の幸運に他なりません。

 しかも、私のマイノリティな好みにドンピシャだってところなんか、さも運命的だ。

 だから、思ったんです。乗るっきゃない、このビッグウェーブにってね」

「意味が分からん」


 早口で捲し立てる彼女に、慄く彼の端的かつ素直なツッコミが飛びます。

 唖然と静止し佇むクマへ、女性は右手の人差し指を立て、ドヤ顔を決めて、ちょっとした推理を披露し始めました。


「あなた、根無し草の旅人さんってことはないですよね。

 荷物も少ないし、町の孤児院の事情なんか、地元民でもなきゃ興味もクソもない、知るはずもないことでしょうからね。

 そして、その立派な体つき。

 裕福とまではいかないにしろ、食うに困ってるなんて貧しい日常生活を送っているわけでもない、多少なりと余裕のある状況と推測されます。

 衣服の汚れ方やくたびれ具合からして、家族と同居してたり、奥さんや恋人がいて同棲してたりっていう事実もないんじゃないですか?

 あまり貴重品を携帯している様子もないし、宿に泊まってるとか、どこかの家の部屋を間借りしてるとかもない、一人暮らしでしょう」

「おまっ、どこぞの国家の諜報部員か何かかよ」


 全てがピタリと正解だったことに毛皮の下で鳥肌を立て、彼は自身より頭ひとつ分以上も小さな人間へ胡乱な目を向けました。

 正直、ほとんど穴だらけの言いがかりのような内容なのですが、当てられた方からすれば、そんな現実は見えにくいものです。

 当然、粗雑な推論を述べた自覚のある彼女は、満面の笑みで疑惑を否定します。


「まさか。どこにでもいる一般人ですよ」

「ほざくな」

「まぁまぁ」


 単純明快に警戒を高めてしまう、いささか野性味の強いクマさんです。

 対して、女性はどこか困ったような苦笑いのような表情で、おもむろに彼との距離を詰めました。

 さすがに人間の、それも華奢な女を恐れて身を引くなどプライドが許さなかったのか、クマは僅かに腰を落としながらも、その場に踏みとどまります。

 あと一歩も進めば互いの身体がぶつかるような間近に来てようやく足を止めた彼女は、次いで、小首を傾げ、内緒話でもするかのように、こう囁いたのです。


「人の好い熊さんに卑怯な言い方をしますとね?」

「あぁ?」

「知り合いもいない、常識も知らない、何もかもが未知の場所に、いきなりいて……正直、すごく怖くて、不安で、胸が苦しくて、今にも張り裂けそうなんです。

 そりゃあもう、許されるなら、この場でだって泣き叫び出したいぐらい。

 最初に接触したマトモな相手だからっていう刷り込みもあるかもしれないけれど、現状、私が心から頼れるのは、信じられるのは、あなただけなんです。

 お願いします、どうか私を助けてください」


 そこまで告げて、彼女は毛皮に覆われたクマの右手を弱々しく握り、目の端から零れそうになる涙を堪えて、彼の黒い瞳を見上げました。

 この時、実は女性が指先で微妙に肉球の存在を確認していたりするんですが、まぁ、それはここだけの話としておきましょう。

 運命の赤い糸で結ばれた相手からのあざとい攻撃に、クマの庇護欲はバシバシ刺激され、まるで魅了魔法でもかけられたかのように、心の壁が急速に綻んでいきます。


「知らない世界に、たった独り、放り出さないで。

 どうか、一緒にいてください。お願いします」

「ぐぅっ……」


 微妙な表情の変化を逃さず、イケると踏んで、すかさず追い打ちをかける女性の何と逞しいことでしょう。

 もちろん、そのセリフはクマのハートにクリティカルヒットし、見事、彼女は彼から了承の言葉を引き出すことに成功したわけです。


「しゃあねぇな、畜生ッ。

 そこまで言うなら、狭くて臭ぇ掘っ建て小屋だが、寝る場所ぐれぇ貸してやる。

 そんで、雑事をこなすなら、メシも食わせてやる」

「本当ですかっ!」

「ただしっ!

 テメェに職が見つかるまでだ。全力で働き口ぃ探して、さっさと出ていけ。

 いいな。これ以上の譲歩はなしだぞ」


 ゾロリと尖る牙を剥き、脅すように顔を寄せてくる彼へ、女性は満面の笑みで自身の両手を組んで、弾んだ声を響かせます。


「分かりましたっ。

 全力であなたを誘惑して、なるべく早く妻として永久就職したいと思いますっ」

「今すぐ放り捨てんぞ、テメェ!」

「冗談です、冗談」


 普通に本気の発言だったのですが、なぜかクマが悲鳴のように吠えるものですから、賢い彼女はひとまず事実をなかったことにして、即座にフォローに回りました。


「嬉しいです、すごく。

 あなたが優しい人で良かった。

 ありがとうございます」


 改めて、女性が好感度上げのためスマイル0円で謝意を示せば、彼は不本意そうに鼻を鳴らして、無言で踵を返し、放った山刀の回収に向かいます。


 沈黙の続く中、間もなく、二人は移動を再開したのですが、今度は彼女がいくら話しかけても、クマからは舌打ちのみが返ってくる事態となっておりました。

 バグでしょうか。いいえ、仕様です。

 ちゃっかりしっかり己の住処である小屋の建つ方角へと進路を変更しているのですから、それが照れ隠しであるのは確定的に明らかでした。

 ずばり言ってしまえば、異性として意識してしまって仕方がない状態です。

 スーパー惚れてまうやろぉおおタイムであり、背後から彼女の声が聞こえてくるたびに心がピョンピョンしていました。

 あまり正気ではありません。


 まぁ、何はともあれ、その後、彼らは無事に深き森からの脱出を果たしました。

 そして、約束通り、町から少し離れた草原に立つ小さな小屋で、一体の雄と一人の女は、結婚秒読みのイチャラブ同棲生活を始めたわけです。

 語弊はありません。



 さて、では、運命に翻弄されしチョロベアーが、彼女と二人きりの環境でいつまで寡黙ツンツン態度を貫けたのかと申しますと……。


「畜生、何が冗談だッ。結局、全力で誘惑してきてんじゃねぇか!」


 実質、6日で陥落しておりました。


「迷惑でした?」

「…………クソッ。

 そうじゃねぇから、困ってんだよ」


 サラマンダーよりはやーいと揶揄われるレベルです。

 その上、意思を固めてからはもう、インド人もビックリの変わりようを見せつけております。


「……今さら逃げようったって聞かねぇぞ」

「逃げません。

 他に行く所なんてないですし。

 そうじゃなくても、私が一緒にいたいんです。

 あなたの硬い毛皮も、野性味の強い厳つい見目も、荒々しい言動も、そのくせ気遣い屋で情け深いところも、意外と凹み易くて可愛いところも、みんなみんな大好きですから」

「フンっ。

 そんなら、俺ぁ、お前さんの柔らかい黒髪も、華奢なクセにまろやかな身体も、いつだって誘うように香り立つ甘い匂いも、妙に達観してるようでどっか子供じみたチグハグな性格も、俺みてぇなとことん女子供に受けの悪い野郎を好きだとかぬかすズレた趣味も、丸ごと全部気に入ってるよ」

「うぇっ!? こここココに来て、そんな急に素直な!

 はんっ、反則ではっ!?」

「いいから、もう黙れ。

 お望み通り、俺の女にしてやるっつってんだ」


 壁ドンからの顎クイ、耳元での囁きなど、本来イケメンにのみ許された小技をこれでもかと繰り出す、メガ進化を遂げたクマの姿がそこにはありました。


「ふぇぇぇっ、雄の顔えっっっちすぎるよぉぉぉぉ」


 対して、一気に受け手側へと回された彼女は、羞恥で全身を真っ赤に染め上げるばかりで、数日前とは完全に立場が逆転しております。

 双方幸せそうなので、結論、何の問題もありませんね。



 えぇ。そういったわけで、とある神の使いの過失により、突然の異世界トリップを果たしてしまった日本人女性は、赤い糸で結ばれた相手と無事に恋を成就させ、可愛らしい子グマも三匹ほど儲けて、それなりに充実した一生を送ったわけでございます。

 はい。めでたし、めでたし、と。



 ん?

 結局、手前が何を言いたいのか、ですって?

 いやぁ、ははは。そうですねぇ。

 生真面目が過ぎて助けも呼べず手も抜けず、間抜けにも壊れかけたあの子の情状酌量嘆願などを少々、ってところですか。

 流れる時をひたすら眺め記憶するだけの存在である手前が、それを越えても口を挟みたくなる程度には憐れに思われたものでしてねぇ。


 どうぞ、よしなに。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 生まれた子熊は所謂人よりの獣人(獣要素は耳と尻尾のみ)みたいな感じなのかガッツリ父親似なのか…
[良い点] 相変わらず安心安定の、さや様流の軽快なウィットに富んだ文章。形式ばった古風な言い回しに漂うコメディ感や、現代風なジョークな言い回し。本当に大好きです。 ああ、楽しい。
[一言] 肉球尊い(*´`*)
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