トランプで遊ぼう
昼飯時の魔王城ことサンハイム森本。
俺は、幹部全員が揃ったのを見計らって聞いてみることにした。
「なあお前ら、こんなものがあると役に立つのにな、的なものって何かないか?」
本当はライルとエレナに真っ先に何か作ってやりたいんだけど、それだと角が立つ。
だからこうやって順を追って聞いていき、二人に先に何か作るという方向に誘導していくつもりだ。
「いきなりそう言われてもなかなかパッとは思い浮かばないでやんすねえ。睡眠用の棺桶とかでやんすか」
「お前棺桶で寝てるのか」
ホネゾウの意外なコメントについ興味を惹かれてしまった。
「あっしらの住処は主に墓地で、寝床は墓の下にある棺桶でやんすからね。そういえばライルも普段の寝床は棺桶じゃないでやんすか?」
「ええ、そうですね。墓地には住んでいませんが……眠る際には棺桶の中に入ります」
おっ、いいぞ。
自然にライルの必要なものを聞く流れに出来そうだ。
「ライルは普段生活してる中で、こんなものがあればいいな、とか思うようなものって何かないのか?」
「特には……」
少し真面目に考えるも、本当に何も思い当たらない様子のライル。
「ライルは根っから真面目な性格してるから。何か遊ぶものでもあればいいんじゃないかしら?」
「遊ぶもの?例えばトランプとかか?」
「「「「トランプ?」」」」
サフランの意見に軽い気持ちで例を挙げてみたら、全員が何じゃそりゃ、という顔をしている。
「もしかしてお前らトランプって知らないのか?」
「ヒッヒッヒ……知らねえなあ。そりゃ食えるモンなのか?」
「食えねえよ。皆で遊ぶためのカードで、それを使ってゲームをするんだ」
「私、ババ抜きとか好きですよ!」
俺の飯をちまちまと食べていた妖精ソフィアが突然声を張り上げた。
ちなみに、みんなといるときは基本的に妖精モードだ。
「そうだな、実際にやってみた方が早いか」
そんなわけでその場は一旦解散し、夕飯までにトランプを作っておいて夜に遊ぶ流れになった。
俺は自室に戻って「細工」というスキルを習得し、トランプを作ってみる。
細かい作業は手が空いてる時にエレナにも手伝ってもらい、夕飯になるまでには余裕を持ってトランプを完成させることができた。
ちなみにソフィアは「女神に細かい作業は向いてないんです!」とか言ってずっと寝てた。
絶対に女神は関係ないと思う。
夕飯を終えると、幹部全員で俺の部屋に来てもらって、そこでこたつに入りながらトランプを使った色んなゲームを紹介してみる。
まずはトランプそのものの説明からだ。
「で、これがクイーン、これがキングって言うんだけど……」
「アァ!?キングゥ!?キングってのは俺だろぉ!そんなに何人もこの世にキングがいてたまるかよぉ!ヒヒヒ!」
キングは、キングのカードを手に取って燃やし始めた。
「おおおい!バカ何やってんだ!絵札って作るの結構めんどくさかったんだぞ!」
「ギャッハッハッハ!!これでキングはこの世に俺一人だぜえ!ヒャハハ!」
「『英雄プロージョン』!!!!」
俺は手のひらをキングに当て、ぎりぎりまで小さくした爆発で吹き飛ばした。
「フフフ、毎度毎度飽きないわねぇ、キングも」
「英雄さんも随分と英雄プロージョンを使いこなせるようになりましたね!」
楽しそうにサフランとソフィアがそう言うのを聞きながら、燃やされたキングのカードを作り直した俺はまず神経衰弱の説明をするためにカードを並べる。
「これは神経衰弱っていう遊びでな」
「魔王様、あっしには衰弱するような神経なんてないでやんすよ!何たって骨でやんすから!ケタケタケタ」
話が進まねえ……こいつら人の話を黙って聞けないのか。
「むしろ俺は神経を衰弱させる魔法の方が得意だぜえ!ヒャハハァ!」
「おおお!神経が衰弱するようなこの感覚!たまらないでやんす!」
「おいキング、仲間に魔法かけんな。ていうかもう復活したのかよお前」
ぶっ飛ばしたばかりなのに。さすが幹部ともなると丈夫だ。
まあ魔王城に住む幹部って言ったらゲームなら勇者パーティーがめっちゃ頑張って倒す類のやつだからな。
神経衰弱は埒が明かないのでとりあえずライルにだけやってもらった。
その次はポーカー。
ソフィアの好きなババ抜きは簡単だし皆で楽しめそうなので最後に持っていく予定。
「こういった感じで最後に出来上がった役の強さを競うゲームでな。早い話が心理戦なんだ」
「へぇ~じゃあアタシ得意かも」
どこか自信ありげにのたまうサフラン。
「おっそうなのか?じゃ次はエレナと二人でやってみるか。ライルはさっき神経衰弱をやってもらったし」
「わ、私ですか?……わかりました」
ルールを説明しながらゆっくりやってもらう。
サフランはこういうゲームなんて興味ないのかと最初は思ってたけど、中々真面目にやってくれている。
ソフィアもやりたそうに二人を眺めていたけど、こいつは既にトランプを使ったゲームは知ってるから最後に遊んでもらう。
キングやホネゾウは横から野次は飛ばすものの、自分でプレイしていなければ案外大人しい。
もうこいつらには遊ばせなくていいか。
「ふ~ん、大体のルールはわかったわ。それじゃエレナ、次は本気で行くわよ?」
「わかりました……」
不敵な笑みを浮かべるサフランと、真剣な表情になるエレナ。
サフランの本気とかいうのが気にかかるけど二人とも頑張れ。
親として俺が二人にカードを配り終わると、突然サフランが何やらぼそぼそ言って何かをした。
すると、エレナの頬がほんのりと赤く染まり、目が何やらとろんとし始める。
「フフフ、それじゃあエレナ。貴方の手札を正直に教えて?」
「はい……私の手札は……クイーンが三枚のスリーカードです……」
それを聞きながらサフランはエレナの横に移動して座ると、エレナの顎をくいっと持ち上げて自分の方を向かせた。
「あっ……」
「そう、いい子ね。フフフ……それじゃあそのクイーン三枚を全て捨てるのよ」
「わかりました……」
「待て待て待て待てえええええええええ!!!!!!」
思わず見入ってしまった!
「たしかに言ってなかったけど魔法は使っちゃだめだ!魔法だよな!?」
「あらそうなの?つまんないわね……でも魔王サマも、今のは随分とお楽しみになったんじゃなくて?顔が赤くなってるわよ」
「うっ……」
ドキドキしながら見てたから言い返せない!
「何だあ?魔王様はメスとの交配経験がないのかぁ?何なら俺がいいの紹介してやるぜえ!?悪魔だけどよ!ヒャハハ!」
「もう~だから言ってるじゃないですか!英雄さんはもっと自分の欲望に素直になるべきなんですよ!」
「お前らは黙ってろ!」
その後サフランに魔法を解除させると、エレナは元に戻ったものの何だかぼーっとしているので休ませることにした。
ちなみにサフランが使った魔法は「魅了」といって使った相手を自分の虜にするサキュバスお得意のものらしい。
この辺りは漫画とかでもよく見るやつだな。
夜も更けてきたことだし最後にババ抜きをやって解散することにした。
ソフィアがやりたそうにしてたけど、人間みたいな姿になれるのをエレナ以外に説明するのって何だか面倒くさそうなので見学してもらうことにする。
「とまあルールは大体そんな感じでな。簡単だけど心理的な駆け引きとかもあって気軽にトランプの色んな面を楽しむことが出来るんだ」
「たしかにこれはシンプルに見えて中々奥が深い……」
真剣な面持ちで手札を眺めるライル。楽しんでくれているようで良かった。
しかし今更だけどモンスターの親玉たちがこたつを囲んでトランプをしてるってのも中々にシュールな光景だ。
こたつを少し大きめに作っておいて正解だったな。
「おひょひょっ!これはこれは!噂のババとやらが回ってきたでやんすね!ささ魔王様、どれかがババでやんすよ~」
「わざわざババを引いたことを言わなくていいから」
顔色を窺いながらこれか?これか?と、ホネゾウの持つカードをあちこち触ってみるけど、ガイコツで表情もクソもないから全然読めない。
「これか!?」
見事にババを引いてしまった。
そしてゲームもとうとう最終局面。
ライルとサフランの一騎打ちになり、最後のドロー前の駆け引きが行われているところだ。
「こういう時はさ、負けたらお互いに何か罰ゲームを用意したりするといいぞ」
「あら魔王サマ、それは素敵な提案ね。それじゃあ私が勝ったら……そうね、ライルに私のお店に遊びに来てもらおうかしら。堅物のあんたがどういう感じになるか一度見てみたかったのよねえ」
「では私が勝ったらどうなるのだ」
「と~ってもいいコトをしてあげるわ」
「それではどちらも大して変わらんではないか」
「フフフ、それじゃあ行くわよっ!」
サフランはさっきポーカーの時に禁止したのにまた魅了を使った。
しかし、ライルには効かないようだ。
「ふっ、魔法耐性の非常に高い私にそんなものが通じるとでも?」
「さあ、どうかしらね?」
こたつ台の上では二人の視線が衝突して火花を散らし、場を緊張させている。
いやいや、だからトランプくらい普通に出来ないのかよお前ら。
やがてサフランが本気を出したのか、ライルがどこか遠くを見るような目になって、さっきまでの緊張感が消えた。
魔法が効いたのか?
「フフ、他愛ないわね。さあ、どちらがババなのか教えて頂戴?」
「こちらのカードです」
「いい子ね……じゃあ、こっち!」
そう言ってサフランが引いたのは、ライルの二枚の手札のうち、何とババとして示された方のカードだった。
「なっ……!?」
「あんた舐めすぎ。相手がちゃんと自分の魅了にかかったかどうかこの私が判断できないとでも?」
「くっ……」
どうやらライルは本当に魔法にかかったわけではなかったらしく、サフランを逆に引っ掛けようとして見破られてしまったみたいだ。
勝負あり。結果は見ての通り、ライルの負け。
「それじゃあ約束通り、今度私の店に遊びに来てもらうから、ヨロシクね♪」
それで今日はお開きとなり、みんなそれぞれの部屋に戻っていく。
最後に俺とライルの二人になったときに聞いてみた。
「どうだ、トランプは楽しかったか?」
「はい、まだ少し理解のおぼつかない点もありますが……素敵な遊びを教えてくださり、ありがとうございます」
「そんな大げさだよ。それとトランプはライルが持っておいてくれ。暇な時にでもカードに触っておくといい」
「かしこまりました」
それからしばらくは暇さえあれば幹部とのトランプ対決に勤しむライルの姿を見ることが出来ている。
ちなみに、本当にサフランの店に遊びに行ったらしく、その日は見るからにヘロヘロという、珍しい様子のライルを見ることが出来た。
その話はまた後日。
第一章はここまでです。もし面白いと思っていただけたらブクマや評価、感想などいただけると励みになりますのでよろしくお願いします。