ソフィアの力は半端ない
前回、設定が致命的にガバりんちょな部分があったので少し修正しました。
「ぐっ……ぐぐっ……」
輝との一騎打ちに辛くも勝利した英雄がその場に座り込む中、アレスは顔を歪ませて唸っていた。
怒りや悔しさという感情を隠しもせずに英雄を睨みつけている。
そして、ソフィアもまたそんなアレスを睨みながら口を開く。
「アレス、貴方は自分が何をしたのかわかっているのですか?」
ソフィアの言葉に、アレスは深呼吸をしてから平静を装って答えた。
アレスに纏わりついていた光の鎖は、今はもう消えている。
「仕方ないじゃないか。輝が戦わないとプロジェクトに支障が出ただろ。本来負けるはずの英雄君が勝っちゃったから、結局は同じ事だけどね」
英雄は体力を消耗して座り込んだまま動けない。
今は険しい顔で、アレスをただ睨みつけている。
悔しいがこの場はソフィアに任せるしかない……そんなところだろう。
「プロジェクトに支障、ですか。輝さんにこの世界に関するあれこれを説明していない事は支障を来たさないとでも?」
「輝は頭も性格もいいやつだ。本当の事を教えればきっと、英雄君と戦おうとはしなかっただろう。それじゃ僕が困るんだよ。ソフィアがいつまで経っても僕の元に帰って来ないからね」
「どちらにしろ貴方のところへ帰るつもりなんてありません。それに、結局私情で動いていたのではありませんか」
そこでアレスはキザったらしく肩をすくめて「やれやれ……」と呟いた。
「私情か……まあそういう事にはなるかもね。うん、わかったよ。そいつがこの世界にいる限り君は帰って来ないって事だ。だから最初からこうすれば良かったんだ」
アレスはそこで英雄に手のひらを向けてから言った。
「どうだいソフィア? 僕と一緒に神界に帰るのならこのまま引き下がろう。でもそうしないのなら」
その時、ソフィアの背後から黒いオーラの様なものが出始めた。
女神のそんな様子を見た事がなかったアレスは正直に言って動揺したが、それを表に出さない様につとめた。
ソフィアは、怒気をはらんだ視線で睨みつけながら呟く。
「……させません」
「ぼ、僕と戦う気かい? 残念だけど、君じゃ僕には勝てないよ。わかってるだろう? 僕の力は『幹部会』の中でもトップクラスだからね……ふふ、じゃあ早速英雄君を消してあげようか」
そしてアレスはスキル名を発する。
「『ホーリーランス』!!」
何本もの光の槍がアレスの周りに発生し、それら全てが英雄目掛けて飛んで行った。
英雄は自身に向かって放たれたそれを座ったままただじっと見つめている。
するとソフィアは愛用の杖を取り出して英雄の方に向けた。
「『ホーリーウォール』!!」
ソフィアの宣言と共に、英雄の前に光の壁が発生して槍と衝突。
光の槍は英雄まで届くこともなく消えていった。
ソフィアでは防御しきれないだろうとタカをくくっていたアレスは、またしても動揺する。
しかしすぐに気を取り直して口を開いた。
「あ、ああ……そうか。僕はまだこの姿だからね」
そう言うと、アレスは妖精の姿から元の姿へと戻った。
それから両手を広げて叫ぶようにソフィアに語り掛ける。
「しょうがない! そこまで英雄君の肩を持つと言うのならお仕置きだ! まず君を神界に戻し、それから英雄君を消してあげよう!」
アレスの言葉を受けたソフィアもまた、女神の姿へと変化した。
そして全身をより肥大化した黒いオーラに包んだまま落ち着いた、しかしどこか迫力のある声音で口上を述べていく。
「いいでしょう。度重なる下界の者への直接的な干渉、そして神からの依頼を忠実にこなしてくれた偉大なる転生者を消そうとした罪を、その身をもって贖っていただきます。これ以上何人たりとも巻き込まぬよう、空へと上がりなさい」
二柱の神は空へと舞い上がる。
気付けば人間もモンスターも、皆戦うのをやめてその光景に見入っていた。
アレスは大声で笑う様に語りかける。
「罪を贖ってもらうだって? 可愛いソフィア! 君じゃそんな事は出来ないよ!僕の実力を知っているだろう?」
「ええ、知っていますよ。しかし、貴方は私の力を知らない……神アレスよ」
次の瞬間、誰もが驚愕に瞳を見開いた。
ソフィアの背中から黒い翼が生えたのである。
そしてソフィアはまるで死刑を宣告するかの様に、静かに言葉を発した。
「幹部会『切り札』の権限において、あなたを次元の狭間に送ります」
アレスはもはや動揺を隠す事も出来なくなっていた。
震える声で何とか言葉を紡いでいく。
「『切り札』? 君が?」
神々の間で、存在そのものは知られていた。
『切り札』……最高神ゼウスが暴走した際に、それを食い止める役割を担う神の事である。
その役割の性質上、ゼウスとほぼ同等の力と権限を与えられている。
以前ローズに対してソフィアが本気を出しかけた際、ゼウスがおしっこをちびったのもこれが原因だ。
また、『切り札』は今回の様にゼウスの与り知らぬところで暴走した神を粛正する役割も担っている。
例えればめっちゃ強い武器を積んだ覆面パトカーといった感じか。
もっとも、今回の件に関してはゼウスが全く知らないという事はないだろう。
普段アレスから受けているセクハラの憂さをソフィアに晴らさせる為に、見て見ぬフリをしているのかも知れない。
それはともかくとしてこういった事情から『切り札』がどの神であるかというのは、その選定に関わった神々と、実際に制裁を受けて「次元の狭間」という牢屋に送られた神しか知らない。
ちなみに、アレスは選定に関わっていない。
「本当にあんな何もないところに僕を送る気なのか? あんな小石を数えるくらいしかやる事のない場所に」
「ええ。帰って来ても幹部会に居場所はないでしょう。小石をしっかり数えて反省してください」
アレスは目を伏せて拳を握り、わなわなと震え出した。
それから顔を上げると、目を吊り上げながら叫んだ。
「どうしてだ! 僕は、僕は君に帰って来て欲しかっただけなのに! 君と暮らしたかっただけなのに!」
「いくら何でもやり過ぎです。それに、私は嫌がっているというのにしつこく付きまとわれるのも不快でした」
「そんな! あれは照れ隠しじゃなかったのか!」
頭を抱えるアレスを見て、ソフィアは呆れ顔でため息をついた。
「どこまでも幸せな人……さあアレス、貴方がこれ以上罪を重ねる前に、全て終わりにしましょう」
ソフィアの言葉に、アレスは首を左右に振って拒絶の意志を示す。
「嫌だ! 次元の狭間送りなんて、絶対に嫌だ!」
アレスは、今にも泣き出しそうな顔で手のひらをソフィアに向ける。
そしてスキル名を発した。
「『アレスプロージョン』!!」
地上から二柱の神の様子を見上げていた下界の者らは総じてダサいと思ったものの、口を挟める者はいない。
英雄もソフィアのあのセンスは神々の間で共有されているものだったのか……と震えるのみであった。
閑話休題。
地上まで届く轟音は、草原一帯に居合わせた生命に恐怖を感じさせた。
しかしそんな中、英雄はじっとソフィアを見つめている。
爆発に飲まれたはずのソフィアは、光のシェルターに守られていた。
女神は無傷で、アレスを静かに見つめたまま佇んでいる。
それからゆっくりとアレスに手のひらを向けて、死刑宣告ともとれる宣言を行った。
「『ソフィアプロージョン』」
『アレスプロージョン』を上回る轟音。
男神がいた位置を中心に爆発が起きると、辺り一帯は煙に覆われる。
それが晴れる頃には、もうアレスの姿はそこにはなかった。
二柱の神による戦いは、ソフィアの勝利で幕を閉じた。
ゆっくりとため息をついてから静かに地上に舞い降りる。
するとそこに人間とモンスター両軍が入り乱れて押し寄せた。
そして、一様に首を垂れる。
一体何事かとソフィアは皆を見渡すが何の事はない。
女神の姿で全力を出した直後のソフィアは、誰がどう見ても神であるとわかる程の神オーラを纏っているのである。
それはあまりの神々しさに、その場に居合わせた者が本能で敬ってしまう程のものだった。
しかし落ち着いて見てみると、集まって来たのはモンスターがほとんどでチート系主人公はそんなに多くない。
これは大多数を英雄が倒してしまった為だ。
もうこれ以上彼らを戦わせるべきではない……そう判断したのだろう。
ソフィアはゆっくりと厳かに口を開いた。
「皆さん、これ以上争う必要はありません。これから残ったチート系主人公の皆さんに事情の説明をします。そしてその後、別の世界へ移っていただきます」
黒い翼を生やした女神の言葉に異議を唱える者はいない。
といっても、突然の事で何が何だかわからないと言うのが本音だろう。
皆お互いに顔色を窺いながら女神の指示を待っている。
次にソフィアは詩織の方を見ながら言った。
「ローズ。そこにいますね?」
すると、詩織の魔王っぽいマントからローズがひょこっと顔を出した。
ローズは盛大に顔を歪めて泣きじゃくっている。
アレスが次元の狭間に飛ばされて会えなくなった事が悲しいのだろう。
「なっ、何よ……うぅ、アレス様……」
もはや威厳も何もない下っ端女神に、ソフィアは慰める様な穏やかな声音で語りかけた。
「チート系主人公の皆さんに事情の説明を。そうすれば、あなたを元の姿に戻して力を解放してあげましょう」
「ほ、ほんとに?」
「ええ」
ローズはソフィアの手によって神の力をほぼ全て封じられ、妖精の姿から戻る事も、神界に帰る事も出来なかった。
それらを全て元に戻すという意味である。
ローズは涙を拭い、深く息を吸い込んでため息をついた。
そしてソフィアの横まで出て行って毅然とした態度で手招きをする。
「生き残ったチート系主人公はこちらにいらっしゃい」
のそのそとローズの下に集うチート系主人公たちを見て、次にソフィアは英雄に視線をやった。
それからいつもの笑顔になって口を開く。
「英雄さん、お疲れ様でした。こんな感じになってしまいましたので、ひとまずルーンガルドに戻ってモンスターの皆さんにも全てを打ち明けちゃいましょう」
「ああ、そうだな」
既にある程度体力が回復していた英雄は、ソフィアの横に出て来た。
そしてモンスターたちの顔を眺めながら笑う。
「よし、お前ら。とりあえず俺たちの街に帰ろうか」
英雄の言葉を皮切りに、割れんばかりの歓声が上がった。
草原一帯に響き渡るそれはしばらく止むことはない。
何故モンスターたちが歓声を上げたのか英雄にはよくわからなかったが、何だか嬉しいのでまあいいかと思う事にした様だ。
こうして、魔王ランドのチート系主人公増えすぎ問題は終焉を迎えた。
ようやくここまで来ました。あと二話か三話で終わりです。
最終章は毎回プロットが当てにならないのでわかりませんが、恐らく二話だと思います。




