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最後の準備に余念がない

最終章に入る際の展開が急すぎるとのご指摘をいただき、第五章エピローグ「恋に悩むは皆同じ」の最後の辺りを修正してみました。

 塔みたいなダンジョンの後も色々と見て回り、最後はシオリンガルドの視察だ。


 今回シオリンガルドはチート系主人公たちにとってラスト一歩手前のダンジョンとして機能してもらう事になっている。

 その準備として、街中にトラップやモンスターを置く必要があった。

 

 現在はゴン子やシャド子らシオリンガルドの幹部がその最終チェックを行っているところ。

 トラップのチェックに勤しんでいた詩織に、片手を上げながら声をかけた。


「よう詩織、調子はどうだ?」

「別に……何しに来たの?」


 詩織はこちらを見もせずにそう言った。

 おおう……いきなりツン全開だな。

 いつかデレてくれる日は来るんだろうか……。


 ソフィアは楽しそうに詩織の顔の周りを飛んでいる。

 肩をすくめて息を吐いた後、後ろにいるエレナやルネには聞こえないように声を潜めた。


「様子を見に来ただけだよ。ぼちぼちチート系たちの進軍が始まるらしいしな」

「ふ~ん……」


 そこで詩織はようやくこちらに視線を寄越す。

 それから俺の背後を顎で示しながら言った。


「で? あれは何?」

「は? あれ?」


 詩織が示した先にはエレナとルネがいる。


「何って……エレナとルネだろ。ルネが遊んでくれってせがむから連れて来たんだけど……お前が相手をするわけじゃないし、別にいいじゃん」

「…………」


 詩織からの返答はない……わけがわからん。

 こいつが何を考えているのか、いまいち読むことが出来ない。


 するとソフィアが俺と詩織にしか聞こえない声量で喋る。


「英雄さん……詩織ちゃんはね、英雄さんとふたりっ」


 そこまで言ったところで詩織に口を塞がれてしまう。

 口を塞ぐ、とは言っても妖精モードのソフィアだと顔ごと詩織の手の中に収まる形になってしまっているけど。

 ソフィアは尚も何かを俺に伝えようともがいている……と思う。


「むお~もごご」

「……いやいやどうしたんだよ」


 詩織はソフィアの顔を握り、そっぽを向いたまま強気な口調で言う。


「……さあ? とにかくこっちは順調よ。罠も設置し終わったし、特に兄さんに頼る様な事もないわ」

「そうかい」


 そう言われてしまうと、こちらから言うことはもう何もない。


「ぷはぁっ。もう~詩織ちゃんったら~」


 ソフィアも解放されたので、踵を返して詩織の元を去った。

 エレナとルネのところに戻ると、ルネが辺りを見回しながら話しかけて来る。


「ねーねーひでおにいちゃん、何だか変なところだね!」


 ルネの言葉に思わずぎくっとした。

 後ろを振り返って詩織の様子を確認してみる。

 どうやら今の言葉は聞こえていない様だ。


 ルネと詩織の関係は、端的に言えば「友達の友達」という感じだ。

 皆が集まった時に偶然一緒にいるだけの関係……だと思う。

 つまり仲良くはない。


 そんなルネを真っ先に注意したのは姉のエレナだった。


「こらっ……ルネ、シオリちゃんの街なんだから……変なところとか言っちゃ、だめでしょっ……!」

「えーっ!だって、何だかお化け屋敷みたいだよ!」

「もう……だから、そういう事言っちゃだめっ……!」


 折れないルネ、焦るエレナ。

 まあ……ルネの言いたい事もわかる。


 というのも、シオリンガルドはルネが言っている様に、パッと見はお化け屋敷の様相を呈している。

 実際のところ、この原因は詩織にあった。


 つい先日まで行われていたこの街の改築・修繕工事というのは主に城壁や街の外のトラップ等を対象として行われたもの。

 だから内部の建物や設備には未だにほとんど手がつけられていない。


 建物の大半は廃墟だった頃の面影……どころかほぼそのままの状態で残っているものが多く、照明なんかもほとんど点いていないのだ。

 それで街全体が薄暗く、不気味に見えてしまう……とそういう事。


 このままじゃエレナが気疲れしてしまいそうだ。

 ルネを大人しくさせようと、キングから貰っておいたジバクムシを取り出そうとしていた時の事だった。


 視界の遥か向こうから激しく土埃をあげてこちらに疾走して来るシルエットが視界に入る。

 同じくそれを確認したらしいエレナがぽつりと呟いた。


「あっ、リカちゃんだ」


 リカは現在、こちらと人間側とを頻繁に行き来して情報収集をしてくれている。

 また、こちらの準備が整ってない内に人間がフライングで攻め込んで来ないように嘘の情報を流して予防線を張ったりと、かなり重要な役割を担っていた。


 正直最初はリカにそんな事を任せて大丈夫かとは思ったけど、中々にうまくやってくれているらしい。

 ソフィア曰く、神々も感心する仕事っぷりだそうだ。


 と思いながら疾走するリカを眺めていると、突然にその姿が消えた。


「あれ? リカどこ行った?」

「突然消えちゃったね……」


 エレナも不思議そうな顔できょろきょろしている。

 その時だった。


「くっくっく……」


 そんな怪しい笑いと共に、エレナの影から突如シャド子が姿を現した。

 

「きゃああああっ!!!!」

「エ、エレナっ!? お、おお落ち着け!!」


 驚きのあまり、エレナが泣きながら俺にしがみついて来るお約束の展開。

 俺も俺で一向に慣れる気配がない。

 

 リカが言うところのナイスラッキースケベというやつだけど、俺の腕にぼよよんと当たるエレナのヘヴンズたわわボールズ以外に何一つスケベ要素はなかった。


「お姉ちゃんずるい! 私も!」


 どさくさに紛れてルネも抱き着いて来た。

 ルネの声でエレナが我に返り、顔を真っ赤にしながら俺から離れてしまう。

 心の中で少しだけ残念がっていると、ソフィアが耳打ちをして来た。


「英雄さん英雄さん、お楽しみのところ申し訳ないんですけど、リカちゃんを落とし穴から拾い上げないと」


 誰がお楽しみやねん……いやちょっとだけ楽しんでたけど。

 とも思ったものの、リカの事を忘れかけていたのも事実。


「こらルネ、リカの様子を見に行くから離れなさい」

「リカちゃん!」


 ルネは俺から離れると同時に、そう叫んでリカが消えたポイントに向かって走って行った。


「ルネ! 落とし穴が他にもあるかもしれないから気をつけろよ!」


 そう言いながら、ルネの後をゆっくりと追いかけて行く。


 リカが消えたポイントには穴が空いていた。

 シャド子の言う通り、落とし穴に引っ掛かったようだ。

 先に来たルネがその穴を覗き込みながらリカを呼んでいる。


「お~い! リカちゃ~ん!」

「何かしら!」


 リカから返事が来た。

 

 どうやら無事らしい……とは言っても、元から命とかの心配はしていない。

 ダメージやら状態異常やらを何でもかんでも無効化するリカは、この世界では俺ですら倒す事が難しいのだ。


 ルネの横から穴を覗き込んでみる。

 リカの姿が見えない程深く、自力で上がって来るのは不可能っぽい。

 落とし穴としては優秀だけど、完全に落とす相手を間違えている。


 後ろから追いついて来たシャド子に話しかけてみる。


「おい、どうにかなんないのか? これ」

「なるでござるよ」


 そう言ってシャド子は、穴の中の壁に直立して歩く様な形で降りて行った。

 影系一族は影に入り込む事が出来る。

 その特性の応用で、影を足場として使っているみたいだ。


 と言っても影系一族は身体のどこからどこまでが足かよくわからないので、歩いて行くというよりはスライドして行くといったイメージ。

 

 そんなシャド子を見た俺は思わず感嘆の声をあげる。


「おお、そんな事も出来るのかよ」


 そしてシャド子は難なくリカを引き上げながら戻って来た。

 シオリンガルドの幹部だけあって力持ちだ。

 穴から這い出て来ながら、リカが感想を述べた。


「影に掴まれるのって何だか不思議な感じがするわね!」


 そして完全に穴から出てくるとスススッとこちらに歩み寄り、俺とソフィアにしか聞こえない音量で語りかけて来る。


「そろそろあちら側の進軍が始まるみたいよ。必要な人員以外はルーンガルドに引き上げた方がいいわね」

「そうか。ありがとう」


 簡単に返事をして終わり。

 リカからの報告をもらうのにいちいち二人っきりになっていては怪しまれる。

 しかし、いよいよか……。


 俺はエレナとルネの元へ行き、ルネに話しかける。


「俺たちはちょっとルーンガルドに戻ってお仕事をしなきゃいけないから、ルネはダークエルフ村に帰りなさい」

「え~っ! やだ! ひでおにいちゃんやリカちゃんと遊ぶ!」

「こら、ルネっ……ヒデオ君の言うことを聞かなきゃだめでしょ……」


 膝を折り、俺はルネと同じ高さの視線になった。

 少しだけ怒った様な顔になったルネの頭を撫でながら説得を続ける。


「ルネ……またいつでも遊べるだろ? 今日は言うことを聞いてくれ」

「う~」


 少しだけ泣き顔も混じり始めるルネの表情を見て焦った俺は、ジバクムシを取り出して手に持たせた。


「ほら、これやるから……な?」

「…………」


 ルネはジバクムシを受け取ると泣き出してしまった。

 そして涙を目から溢れさせながら叫んだ。


「ひでおにいちゃんのばか! もう私やお姉ちゃんのお尻を好きに触らせてあげないから!」

 

 ジバクムシを口の中に放り込み、パチンパチン言いながら走り去るルネ。

 突然の衝撃発言に、シオリンガルドの住民たちがざわつき始める。


(お尻を好きに……?)

(さすがは魔王ヒデオ様だ……!)


「こ、こらっ……ルネっ……待ちなさいっ……」

「リカも追いかけてくれ!」

「任せなさい! それとお尻の件は後で詳しく聞かせなさいよ!」


 エレナが顔を真っ赤にしながら慌てて追いかけて行った。

 危ないので一刻も早く捕まえるべく、足の速いリカにも追いかけてもらう。


「お尻がどうしたのかしら?」


 背後から声がかかる。

 声やらオーラやらで、振り返らなくても詩織だとわかった。

 誤解を解くのが面倒くさそうだな……。


 しかし……またいつでも、か……。


 俺はルネにいい加減な事を言ってしまった。

 次に会えるのはもう、いつになるかわからないんだからな……。


 ふと横を見ると、エレナとルネを見送るソフィアの表情は柔らかい。

 微笑みをその口元にたたえ、母の様な穏やかな表情をしていた。


 これでルネとはお別れになるかもしれないのに。

 そしてこれから、最後の戦いが始まろうとしているのに。


 ソフィアはさすがに女神だけあって、元から考えの読めない部分が多い。

 でも、この時のソフィアは今までで一番何を考えているのかわからなかった。


 何故だろう。

 それなのに不思議とソフィアの表情からは不気味だったり、不快だったりといった感じはしなかった。

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