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炸裂!英雄プロージョン

 目が覚めると、そこは見慣れない天井に見慣れない壁。

 目覚めの良い俺でも、そこがいつもの自宅じゃないと気づくのにはちょっとだけ時間がかかった。


 そうだ、ここは魔王城……夢じゃなかったのか……。

 一度寝て目が覚めてもこれってことは、俺はどうやら本当に転生してしまったらしい。

 枕元では、ソフィアが妖精の姿のまますやすやと眠っている。


 部屋に時計がないので何時かはわからないけど、窓から差し込んでくる陽射しが俺に朝だと教えてくれている気がする。


 ぼーっと窓の外を眺めていると、扉をノックする音が部屋に響いた。


「ライルです」

「どうぞ」


 返事をすると、扉を開けて秘書役の吸血鬼が中に入ってくる。


「おはようございます、ヒデオ様。朝食の時間ですのでお迎えにあがりました」

「ありがとう。おいソフィア、朝飯の時間だってよ」

「ふぁい……」


 軽く指で揺さぶって起こしてやると、ソフィアはまだ眠そうな目をこすりながら起き上がった。


「ほら、俺の肩に乗ってろ」


 うとうとするソフィアを肩に乗せてライルと一緒に食堂に向かうと、既にこの城にいる幹部全員が揃っている。


 俺の為に用意されているらしい席に向かいながら、挨拶をしてみた。


「おはよう」

「キヒヒィ!おはようだぜぇ!」

「おはようでやんす」

「おはよう、魔王サマ♪」

「あっ……お、おはようございます……」


 席についてメニューを眺めてみる。

 スクランブルエッグにハム、サラダ。コーンスープ。


「もしかしてこれ、エレナが作ってくれたのか?」

「は、はい……この城に常駐しているのは幹部だけなので……ご飯は私が……」

「そうなのか……いや助かるよ。ありがとう」

「い、いえ……」

「もしかしてこのメニューもチート系主人公から?」

「はい。オムライスと一緒に……あとそれを応用したりして他にもいくつか……父が料理好きだったものですから」


 エレナの親父さんグッジョブ。

 しかしあれだな、もしエレナにチート系主人公の食文化が伝わってなかったら、俺は何を食わされるハメになってたんだろうか。


 キングはちょっと目に優しくない色合いをした何かを食べている。

 聞かない方がいい予感はしたものの、好奇心に負けてつい聞いてしまった。


「キング、お前が食べてるそれは何なんだ?」

「ギヒ?こりゃコウモリ肉のポイズンスライムがけだぜぇ!毒が強めのアクセントになっててキュウ~ッと来るんだけどよぉ!毒耐性持ちじゃなかったらやめといた方がいいぜぇ!ゲヒャヒャ!」


 いえ別にいらないですけど……。

 ホネゾウとかただのガイコツなのにどうやって食ってんだ。


 考えても仕方ないので、とりあえず少し目が覚めてきた様子のソフィアにスクランブルエッグとサラダを分けてやった。


 一通り飯を食い終わると、朝のミーティング的な雰囲気になる。

 エレナが食器を片付けるのを手伝おうとしたんだけど、魔王がそんなことをする必要はないとライルに注意されてしまった。

 エレナもそこまで気を使われるとやりづらいらしいので断念。

 

 ミーティングの司会進行役はやっぱりライルだ。


「ヒデオ様、差し当たってはまずこの城の名前を決めていただきたいのですが」

「えっ、魔王城じゃダメなのか?」

「お言葉ですが、それではスライムにスライムと名付けるのと同じようなものかと存じます」

「そういうもんなのか……俺は構わねえんだけどな」

「このままでは、一度訪れたことのある場所へ行くことのできるテレポート系の魔法などを使うときに、ここが指定できません」


 やっぱりあるのか……テレポート的な魔法。

 俺もすぐに覚えたいところだな。


「なるほど……それなら名前をつけておこうか」


 って言ってもなあ、俺はネーミングセンスにはあまり自信がない。

 第一ものの名前なんてその場でパッと思いつくものなんだろうか。

 

 かといって、ライルの話だとすぐに名付けた方が良さそうだし。


「ライル、お前に任せてもいいか?」

「かしこまりました。では魔王様のフルネームから名前を頂戴いたしまして、『サンハイム森本』に致しましょう」

「いやいやちょっと待て何だその賃貸アパートみたいな名前」

「お気に召しませんでしたでしょうか?」

「そりゃまあな……」

「お力添えできず申し訳ございません」


 その時、ソフィアが俺の服の袖をクイクイと引っ張ってきた。


「英雄さん英雄さん」

「どうした?内緒話でもするような声で」

「もう決まっちゃいました」

「え、何が?」

「魔王城の名前。『サンハイム森本』に決定です」

「何でだよ」

「英雄さん、ライルさんに命名の権限を委任したじゃないですか。そのライルさんが『サンハイム森本』と発言したので、世界が認めてしまったようです」


 まじかよ……。


「おい、誰かテレポート系の魔法を使えるやつはいるか?」


 キング、サフラン、ライルが手をあげた。


「キング、悪いけど一旦外に出てここにテレポートしてみてもらえるか?」

「いいぜぇ!ここの名前は『サンフレイム今西』でいいんだよなぁ!?」


 だめだ、こいつは頭が悪すぎる。


「しょうがないわね、私が行って来てあげるわ」

「悪いな、サフラン」


 サフランは一旦テレポートでどこかに飛んだ後、少しの時間を置いてからここに歩いて戻って来た。

 どうやらピンポイントで場所を指定して飛べる魔法ではないらしい。


「これでいいの?」

「ありがとう…………」


 思わず頭を抱えた。

 どうやら本当に『サンハイム森本』で世界に承認されてしまったらしい。

 今後何かに名前を付ける時にはライルに頼まないようにしよう。


「まあ決まったもんはしょうがない。それで他には何か問題はあるか?」

「では、今後の活動方針はどういたしますか?勢力拡大を主な目的として活動するか、街の補強に当たるか、といったことでございますが」

「俺自身、まずはチート系主人公を倒してレベル上げがしたいからな。街を補強しつつ来たやつを待ち伏せで倒す感じで。何か待ち伏せするのにいい物件はあるか?俺テレポートとか持ってないからいちいち街の外まで歩いて行くの大変なんだよ」

「それでしたらいくらか心当たりがございます。私がテレポートで現地までお送りしますが、今すぐ向かいますか?」

「ああ、頼むよ」

「では、私の近くまで」


 特に荷物もないので言われるがままにライルの近くに寄った。

 そしてライルが何か呪文的なものを詠唱してから「ルーンガルド南門」と言うと、視界がホワイトアウトしていく。




 気づけば俺たちは街の郊外的なところに立っている。

 どうやらライルにまとめてテレポートしてもらったらしい。

 さっきの言葉通りルーンガルドの南門近くなのだろうか。


 ルーンガルド郊外は活気があるとは言えず、主のいる建物とそうでない建物の区別がつきづらい。

 緩やかな風切り音と、俺たちの足の街路を踏みしめる音だけが周囲に響き渡っていた。


「ありがとう」

「ここから少し歩いたところに、ご紹介したい物件がございます」

「不動産屋か」

「閑静な住宅街ですね!夜はぐっすり眠れそうです♪」

「ものは言いようだな……」

 

 どちらかと言えばスラム街と言った方がしっくり来そうな街並みを眺めながら歩くと、ライルがご紹介したいらしい物件にたどり着く。


「ここは南門から徒歩十分、南門へのアクセスも良く、いつも朝起きた時の『あと五分だけ……』を見事に実現いたします」

「不動産屋か」


 魔王ランドに不動産屋ってあるのだろうか?


「ここは前の持ち主が恋人と結婚する直前、張り切って一しきり家具などを取りそろえた後に『俺……この戦いが終わったら結婚するんだ……』という言葉を残して戦いに赴きました。それから……」

「いや、いい。その後は聞かなくてもわかる」

「ご明察恐れ入ります」


 フラグを立てなければ生きて帰れたかもしれなかったのに……。


 建物の中はそこそこに広かった。

 平屋の一階建てで、ライルの言う通り今すぐに生活を始められる程度の家具や調度品が取り揃えられている。

 しかもすぐに使えそうな状態だ。

 かなりの優良物件と言えるだろう。


「でもここ……お高いんでしょう?」

「いえいえ、ここまで付けてなんと……無料でございます!決して魔王様からお金はいただきません!さあ!今すぐお申し込みを!」


 通販番組っぽく言ってみたら通販番組っぽい返しが来た。

 この世界にも通販番組は……あるわけねえな、偶然だろう。


「じゃあここでいいよ。しばらくここを拠点にしてチート系主人公を迎撃する。その間城の留守は頼んだ」

「お一人で大丈夫ですか?」

「むしろ一人の方がやりやすいよ。今までチート系主人公にやられっぱなしだったんだろ?まあ俺に任せてくれよ」

「かしこまりました。ではサンハイム森本の留守はお任せください」


 その名前で呼ぶのはやめて欲しいんだけど。


 ともかく拠点を構えることに成功した。

 早いところチート系主人公を倒しまくってレベルを上げたいところだ。


「ふふふ~!初めての本格的なチート系との戦闘、楽しみですね!」


 相変わらずの女神らしからぬ発言。


「そういえばさソフィア、お前が新魔王誕生の噂を聞きつけてチート系がやってくるって聞いたからこうしてるわけなんだけど、その噂はどうやって流れるんだ?」

「転生者にだけわかるように『新たな脅威の誕生を、今はまだ誰も知る由はなかった……』ってテロップが流れます!脳内に直接響く音声付きですよ!」

「めちゃめちゃ便利だな」


 移動中にライルから聞いた話によると、ここから一番近いチート系の拠点……つまり人間の街から誰かが来た場合、確実にここを通るらしい。

 それがこの南門付近が寂れている一番の原因でもある。


 南門以外から周りこむのは地理的にも効率が悪く、それにそこまで考えるチート系ならば真っ先に街に突っ込んでくるようなことはしないだろうとのこと。

 

 しかもそちらから攻め込まれた場合他のモンスターがいるから、気づいたらライルが俺を呼びに来るということにしておいた。


 まだレベルが2で便利そうなスキルもろくに取れない俺は、見張りをソフィアに空からやってもらい、適当に隠れることにする。


「来ました英雄さん!チート系の群れです!」


 群れ?群れって何だよと思い建物の影から顔を出してみると、そこにはこちらに向かって走ってくるチート系の集団がいた。


「おおおおおおい!!!!いすぎだろこれぇ!!!!」


 何人いるんだ!?とりあえずそこそこ広い南大通りが埋まる程度の人数はいる。


「ラッキーですね英雄さん!『英雄プロージョン』で殲滅して一気にレベルアップしちゃいましょう!」


 冷静に考えてみれば確かにラッキーかもしれない、固まっている今じゃないと逆に俺が危険だ。

 今の俺は一発でも攻撃をもらったら死ぬからな。


 俺は群れをなすチート系の前に躍り出た。

 先頭を走っていた何人かが俺を怪訝な目で見つめる。


 その中の一人がこちらに向かって叫んだ。


「おーい!そこをどけ!ひき殺されるぞ!」


 見た目が人間な俺は魔王だとばれていないらしい。よーし……!


「『英雄プロージョン』!!!!」


 手加減なしにぶっ放した俺のチートスキルは、大通りを走るチート系集団を盛大にぶっ飛ばした。

 

 轟音に俺の耳まで吹き飛びそうになる。

 俺は思わず腕で目をかばう姿勢で目を伏せた。


 爆発が収まってから顔を上げると、まだ集団の後ろが無事だったので俺は再びスキルをぶっ放す。


「『英雄プロージョン』!!!!」


 こうして南門付近のいくらかの建物と一緒に、大量のチート系が魔王ランドから姿を消した。

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